NATURAL  ーAYAー


  1

 毎日、勉強、勉強で焦って苦しむごく普通の受験生な私たちは、(まあ、焦らずにすむ人もいたんだけど・・・。)昼休み2号棟の屋上に集まった。
 文化祭以来再びちょくちょくここで昼ご飯を食べている。といっても巧は“食べるのが面倒”と食べず、私も受験勉強というストレスからか過食気味で体重が・・・、ということでお昼は最近抜いていた。
「もう疲れたね。高校受験のときは推薦取れたからぜんぜん勉強しなくて済んだのに、やっぱりバイトと遊び過ぎのせいだね。久しくパソコンもいじってないし。」
 渉がそう疲れた顔をして愚痴をこぼす。同感、私も疲れた。
「淳は推薦取れたんでしょ。いいなぁー。」
 話しながらお腹がなりそうで、押さえていた。そしたらそれを目ざとく見つけた巧が、
「腹減ってるなら食べればいいじゃん。俺のパンやろうか? ほら、苦しみなさい。」
と、ビニル袋に入った購買部のパンを私の前に出してきた。
「巧、ひどいよー。」
 3人とも笑っている。ほほが赤くなっているのが自分でもわかる。へんてこな4人組みだよなぁ。私ってなんでココにいるんだろ?


  2

 私たちが知り合ったのは2年の遠足の時。4人ともクラスが同じだったんだけど、1年のときは違うクラスだったから、お互いにこんな人がクラスにいるとは知らなかった。
 私は普通の女子のような集団に入るのが苦手で、巧と渉は結構マイペースで自分のルールで行動する人たちだったし、淳は・・・。淳はなんでだろう。人あたりもいいし、勉強もできて一目置かれてたのに・・・。とにかくみんなクラスで班になるような人がいなかったのだ。
 そこをクラス委員によって手っ取り早くまとめられてしまった。まっ知り合うきっかけを作ってくれたわけだから、委員の人には感謝しなくちゃね。その時私たちは4人とも遠足なんてサボるつもりだったという点で何故か気があった。そんなこんなで楽しく遠足を過ごせたしね。


  3

「巧は本当に受験しないの?」
 淳が話を変えてくれた。4人の中で一番不可解な巧は(まあ、いろいろ事情があるんだけど、巧ってそのことで気を使われるのを嫌っているから)まだアルバイトを続けているらしいし、文化祭のときには突然料理人になるとも言いだしたし・・・。
「いろいろ迷ってるんだ。でも受験はしないと思うよ。俺の夢って抽象的というか、職業じゃないし。そしたらその夢かなえるためにはどうするのがいいのかなって・・・。とりあえず今しかできない時間の使い方をしておきたいって感じかな。」
「そうやって考えてるのってすごい。多分私には無理だから・・・。」
 私がそう言うと、それを聞いて淳が
「なんでそう思うの、綾?」
と、聞いてきた。
「だってさ、私中途半端だもん。ある程度周りに流されながら、自分の意見通したり。だからそういう生活したら、ぐちゃぐちゃになっちゃう。」
「そうだよな、俺もそう思う。俺らってバカだよな。どっかで縛られていないと落ち着かないというか、自由の使い方を知らないって感じかな。」  渉も私と同じでどこか自分に疲れているようだ。
「綾も渉も変だぞ、今日は。」
と、余裕を感じさせる淳。
「ごめんねー。最近余裕ないのよ、私。」
 “ああ、もうだめだ”という感じだよ。淳の余裕をうらやましく思ってしまうほど。どんどんやな自分になっていってしまうんだよねー、最近。
「同じく俺も。もう疲れちゃって・・・。」
 渉の声を聞いていたら、文化祭の時渉が言った“なんでココにしたの?”という台詞を思い出してしまった。あの時答えられなかった答え、ここにした理由って・・・。
 そんなことを考えていたら巧のきついお言葉が・・・。
「それこそ本当のバカじゃん。もっと気楽にいくべきだと思うよ。俺たちまだ18だよ。」
「ありがとう。でもわかってるんだよ巧、その位はね。でもできないんだ。」
 前はこうなりたくなかった、いかにも受験生みたいには。でも今はそうなってしまっている。あ、私がココにした理由って“私が変わらず私のままですごせそうだから”だったんだ。いつのまにか忘れていたんだ・・・。
「おまえらねー、頭冷やそうぜ。淳、今日泊まってける?」
 そう言う巧に淳が“平気”と答えると、
「じゃ、今日放課後明けといてね。」と勝手に予定を決める。
「そこ行くんだ?」
「飲むに決まってるだろ。」
 やっぱり巧は一番変だよ。でも巧がこういう人だってわかっているから、甘えるというか愚痴ってしまうというか・・・。でもちょっと頼り過ぎかな。
「でも明日ガッコ・・・ま、いっか。ありがと巧。」
 少し笑いながら渉が言う。私の気持ちを代弁してくれたかのような。すると少し照れたように巧は
「別に俺がおごるわけじゃないよ。」
「そういう意味じゃないことはわかってるくせに。顔真っ赤だよ、巧。」
 さっきの仕返しにすかさず巧をからかった。
「おまえらのために言ってるのに、あーもー。」
 さっきよりも顔を赤くして、巧がつぶやく。さらに照れ隠しにか渉の髪をぐしゃぐしゃとしている。
 “私ってなんでココにいるんだろ?”ココにいるとホッとするからだね。
「じゃれてるそこのお二人さんも、浸りながらにやついているお姉さんも、5限始まるよ。」
 一人冷静に話す淳。それを聞いて走り出す4人。
「じゃ、放課後。」


  4

「どこで飲む?」
 淳が巧に聞いている。
「俺んちでいいでしょ。」
 店で飲んでもいいのだけれど、予算的にも高校生なので・・・、てことでいつもは誰かの家に食べ物飲み物を持ち込んで飲むことにしていた。
「あっそうだ。たまには俺の家来ない? おいしいコーヒー入れるよ。」
 たいていは巧の家にお邪魔している。(家にはおばさんだけだったし)でも淳以外は学校の近くに住んでいるから、巧の家と決まっているわけでもないんだけどね。ふと“今日みたいないい天気の日には外で風に吹かれながらというのもいいかもしれない”と思った。
「そういえばさ、巧の家に近くに公園あったでしょ。こんな日に中で飲むなんて、ね、外で飲も。」
「いいね、そうしよっか。」
「外か・・・。じゃ俺一度帰って、なにか食べるものとホットコーヒー持って来るわ。それから買出しいこ。」
 渉がホットコーヒーにこだわるのは、アルコールの後には脱水作用でいいとのこと。ほんとかどうかはわからないけど、飲んだ後の渉のコーヒーはとてもおいしい。

 巧の家に荷物を置いて公園に向かう。巧と淳が前でお酒の話をしていた。
「そんなにいらないだろ、明日も学校あるし。」
「そうだね。少し酔えて愚痴をこぼせるくらいで・・・。」
 私はその後ろから渉とゆっくりと歩いていた。ちょうど日が沈んで周りが暗くなってきていて、星が見えていた。
「あ、この辺でも結構星見えるんだね。」
 そう話しかけた後、思わず口が開いた。いつもならこんなことは口にしたくないと思っているのに。その時だけは・・・。
「なんかさ星とかって見てるとさ“人間てちっぽけ”とか、たまに本当に思っちゃうよね。そんなのもっと繊細な人が思うものだと思ってたけど。」
「ま、受験生はたいてい繊細でしょ。でもさ・・・。」
 渉が立ち止まってしまった。なんかふけっているような。私は渉の方を振り返り“んっ”と聞くと顔をあげた。
「続けてよ。」
「俺も普段はこんなこと考えないんだけどさ。ああやって見えてる星の中でさ、今のところ生き物がいるってわかってるのは、地球(ここ)だけでしょ。そしたら地球に生きてる生き物の一つだってことは、すっごいことなんじゃない?。」
 それを聞いていたら、言葉に表せない幸福感みたいなものが湧き上がってきた。そして私は笑いながら“そうかもね”とつぶやいていた。渉もつられてか笑いながら、
「もっと楽になれるかもな・・・。」
 とつぶやくように言う。ああ、前で振り返ってにらんでいる二人が・・・。私たちは駆け出した。


  5

 みんながある程度酔ったころ、こういうときは絡んでしまったほうが得というか・・・。とても迷惑な話だけどね。
「淳は医学系の大学でしょ。すごいね。」
「そ、俺、カウンセラーとかしたいんだけど、あれ医師免許必要らしいし。」
 そう答えた淳が逆に質問を投げてきた。困るような質問を・・・。
「綾はなんのために4大を目指してるんだ?」
「なんのためだろうね。親に“今は短大より4大よ”って言われて、先生にも言われてなんとなく行かなきゃいけないような気がするのかもしれない。本当は専門にしようかとも思ってた時期があったんだけど、親がね。一応親に不安はかけたくないし。」
 淳は素質があるのか、淳の前だとなぜか話してしまう。本人はほとんど愚痴ったりしないんだけど。
「綾の夢ってなんなの?」今度は渉が聞いてきた。
「インテリアデザイナーとかやりたいなぁと・・・。」
 声はどんどん小さくなっていく。これが私に向いているのかも、本当になれるのかも全く自身がないから。
「でも、そういうのって4大よりも専門のほうがよくない?」
 そう言う巧の後に、淳の冷静な分析が・・・。
「少しきついかもしれないけどさ、綾のは“親に不安をかけたくない”じゃなくて夢に突っ走ることへの不安じゃないかな。つまり逃げ。」
「そうかもしれない。やっぱり怖いんだろうね。どうしよう、なんかわからなくなっちゃった。もう少し考えさせて・・・。さ、私のことはこれでおしまい。次は渉かな?」
 わからないと言ったけど、心の中では決意は固かった。私はただ誰かに背中を押してもらいたかったのだろう。
 私がそんなことを考えているとき、渉が話し始めた。
「俺ね・・・。まだ何やりたいのかわからないんだよね。大学もとりあえず好きなコンピューター関係を選んだけど、結局このまま何やりたいか見つかりそうもないことが時々すごく不安になる。ま、こんなこと人に相談するようなことじゃないかもね。」
 渉の話を聞いていたらふと思った。私ってなんでインテリアデザイナーやりたいと思ったんだっけ・・・。
「渉、やりたいことっていうのはさ、このまま待っていればいくら拒絶したくてもいつかは襲ってくるんだよ。ただ早かったり遅かったり人によってさまざまだけど。」
 淳は時々とても哲学的なことを言う。淳っていつもこんなこと考えているのかなぁ。
「まぁ焦ってもしょうがないか。後は勉強かな。そこんとこはよろしくお願いします、淳様。」
 そう言われて赤くなっている淳。(まあ、お酒を飲んでいるせいかもしれないけど。)
 次はっていう感じで、みんなの目が巧に集まる。
「俺はいいよ。」
 そう断る巧に、少し声を抑えて淳が、
「別に無理にとは言わないけどさ、結局巧って何も相談してくれないんだな。」
「そうじゃないって、おまえらの話し聞いてると自然と答えが出てきたんだよ。相談はしてないかもしれないけど、みんなのおかげで・・・。いろいろ心配かけてるのかもな、ゴメン。ありがと、いつもいつも。」
 ふーん、私も少しは役に立ってるのかな。“で、答えは?”と私が聞いた。巧っていつも突拍子もない答えが多いから。
「とりあえず、家は出るつもりなんだけど、俺文化祭のときもそうだったけど、料理好きだから、昼間バイトしながら夜間の調理師学校行こうと思って・・・。」
 すごいなぁ。巧だけじゃなく、淳も渉も真剣に考えてる。私なんて何でデザイナーやりたいのかも思い出せないのに・・・。でもそういうのが、いつのまにか生まれてくるものが夢なのかな。
 そこへ淳が少し真剣な顔つきで
「なあ、巧の夢ってなんなの?」
「誰も傷つけない大人になることかな。」
 やっぱり親の離婚のことを引きずっているのかもしれない。そんなことを考えていたら、渉がボソッとつぶやいた。
「だから線を引いて距離をとってたの? 誰にも期待されないように・・・。」
「そうかもしれない・・・。」
 巧もボソッとつぶやいた。そしたら急に渉が・・・。
「あ、ごめん。気にした? つい無神経に。」
「いいよ。たぶん本当のことだから。それより寒くなってきたから、酔い覚ましのコーヒー飲んで俺の家戻らない?」
 巧が久しぶりに見せた笑顔という感じの、すっきりした顔で言った。
「そうだね、ここいらで今日は終わりにしよ。」
 淳もそう言ったので、渉がコーヒーを注ぎはじめた。入れたてではないにもかかわらず、やっぱりおいしい。
「やっぱりなんか違うね、渉の入れたのって。」
「ありがと、綾。それと・・・。」
 そう言って渉が淳の後ろに回った。
「何?」
「あー、やっぱり肩こってる。俺らの話に真剣になってくれるのはうれしいけど、もっと楽にしてくれよ。」
 渉が淳の肩をもんでいる。私はそこで一言つけたした。淳の顔が真っ赤になるだろうと予想して。
「でも淳はそこがいいんだけどね。」
 やっぱり赤くなる淳。誉められるとすぐ照れてしまい、からかいがいのあるいい奴なんだ。
 その様子に笑い声が辺りに響く。おっと近所迷惑になっちゃう。

ーつくづく思うよ。今日が永遠に続くようにってー
ーお前、酔ってるってー


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