ON YOUR MARK ーWATARUー
1
昨日、淳から電話があった。俺が試験終わっているのか聞いてきたのだ。終わっているなら明日の卒業式の予行の後残ってくれ、とのことだった。いったい何をするのやら。
「渉、試験終わったんだって? 手ごたえはどう?」
予行の後集まった時切り出したのは綾だった。
「わかんね。でも、こないだのところ落ちたら浪人決定だよ。どっかな・・・。」
「それはどきどきで、ある意味楽しみだな。ところで文化祭の後のこと覚えてる?」
と、大学入学が決まっている淳が聞いてきた。
あ、そういえば・・・。
「まさか、何かやるのか?。」
と、驚く家を出ることを決めている巧。それに対し
「おもしろそう。何やるの?」
と、既に乗り気の専門に進む綾。
つまり俺だけまだ進路が決まっていない。こいつらといることじたい、精神的にもつらいんだよね。そんなの態度に出せないけど・・・。何しろ試験は3日前に終わったばかりだ。
「今日これから体育館忍び込んで準備するの。」
そう言って淳が取り出したのは、MD、釣り糸、ロケット花火、蚊取り線香、ロープ・・・。
「これどうするの?」
思わず3人とも口をあんぐり。
「もちろん当日やろうかなーと思って。じゃ、行こう。」
淳を先頭に3人がついていく。未だに驚いている様子の綾が淳に聞いている。
「そう言えば淳って、予行いなかったじゃん。何してたの。」
「時間計って、録音してたの。予行見た限りではほとんど時間どおりに進みそうで安心したよ。あ、巧カギ頼むよ。」
体育館に着いて、淳が巧に頼んだ。
「ああ、それくらいならできるけど・・・。」
ここにまだ驚いている奴がいた。俺も淳がこんなに大胆だとは知らなかったが・・・。
「あ、そうそう。くすだまとか作りたいんだけどいいかな。」
「もう淳にすべて任せるよ。」
なんか凄すぎて、あきれた感じで言った。
「卒業式ってただ座ってるだけで、長い話で退屈でしょ。だから文化祭のときのように卒業式ジャックをしようと思って。」
みんな一瞬止まった。
結構準備には時間がかかった。
淳の計画はこうだった。まず普通に卒業式が始まる。卒業証書授与の名前を呼ぶところに入った途端、頭上に張った釣り糸にロケット花火を飛ばす。ロケット花火が突き当りまで行くと、垂幕が開き“卒業式ジャック宣言”をする。火は蚊取り線香を使って時間になったら付くようにし、その上に煙と匂いを防ぐダンボールを仕掛ける。
そして今日予行で録音した名前を呼び上げるのを2倍速で流す。これは放送室のタイマー再生を使う。その余った時間でくすだまを割ったり、音楽のプレゼント。感激するような卒業式にしようというものだ。くすだまは時間になると抑えていた紐が焼き切れて、引っ張り割るという大掛かりな計画。
そして最後の退場時に、道の脇に仕掛けた吹き上げ式花火の間を通ってもらおうというものだ。これはちょっと危険かもしれないが・・・。
「ね、この放送室にあるスライド機器使えないかな。」
「いいね。家にある遠足とかの写真を写せればいいんだけど・・・。」
放送室にみんなで集まり、綾の見つけた機械を見る。
「どうすれば写真をスライドみたいに映せるのかな。」
・・・
「スライドの話は明日までの宿題ね。できなかったらしょうがないか。」
「じゃ、明日。」
俺もさっきまでの不安を忘れて、準備を楽しんだ。明日が面白くなりそうである。
2
「これはもう淳のアイデアの勝利だね。」
「あんな卒業式絶対忘れられないよ。ありがと淳。」
3人で淳を誉めまくる。ひたすら照れる淳。
「もう、卒業か・・・。」
何かに浸っている綾。俺たちみたいに卒業式までふざけてる奴なんていないだろうが。やっぱ、最後ぐらいはしんみりと・・・。
「不思議だよね。私たちってなんで気があったのかな?」
「ほんと、なりたいものとか、好きなものとかばらばらなのにな。」
綾と巧が話している。こいつらうらやましいよな。俺なんてまだ・・・。だめだ、もっと前向きに考えなきゃ。そんなことを考えていたら、思わずボソッと、
「もしかしたら俺だけ置いていかれるのかもな・・・。浪人か・・・。」
「だから朝から少し暗いのか、渉。気にするなって、長い人生1年くらい。俺が言えることじゃないかもしれないけど、失敗するから前に進めることだってあるんだし。」
めずらしく、巧が真面目なことを言ったので噴出してしまった。
「ごめん。ただちょっと差つけられそうで、やだったんだ。」
そこへ淳が少し怒ったような顔して、
「変わらないよ。差なんて浪人とかじゃ変わらない。俺だってまだ親のすねかじってるし。自活できるようになったらそこがスタートラインでさ、そこからの距離と時間で評価されるもんなんじゃない? 人間なんて。」
そしたら、綾まで噴出して、
「ごめん。くさいね、淳。でも私たちって本当にまだ縛られてるよね。」
「巧が一番に飛び出すわけか・・・。」
いつもとちょっと違う顔をして(最後に飲みに行って以来、少し変わったんだよね。線が消えたというか何というか)巧が、
「何かあったら電話しろよ。連絡先教えるから。」
「そうだよね、そしたら今度はどっかお店行こうね。」
と、綾。そうして俺らは予想通り飲みに向かった。
“おまえらに会えてよかったよ。いろんな心ものを貰った気がするよ。”そう言いたかったけど、なんか声にはならなかった。
ーDo You Have Happy Ending?ー
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