VOICE
夜空を久しぶりに見た気がする。
私は夜中、公園に向かっていた。
もしいつもどおり眠れていたなら、こんな時間に公園に向かわなかっただろう。
夜空がきれいだということを、昔はこうしてよく空を見上げていたことを思い出させてくれた、
私のいいかげんな睡眠欲にも感謝しなければいけないのかもしれない。
そんなことを考えながら公園につくと、なぜか先客がいた。
何で?
その問いが、さっきまで頭の中をぐるぐる回っていたことをよみがえさせる。
私は寝ていたのか、起きていたのか・・。
ふと目をその人のほうに戻すと、彼はこちらに気がついて、じっと見ていた。
挨拶をする。でも彼は恥ずかしがってか、声を返してくれずお辞儀をするだけだった。
そんな彼にお構いなしに尋ねてみた。
「何をしてたんですか?」
「声を探していたんです」
急にそう返されて、何がなんだかわからず、ボーっとしてしまう。
ただ彼の声がとても綺麗だったことが耳に残っていた。
私があんまりボーっとしていたからなのか彼は、
「ごめんなさい。説明不足です。ただ理由があまりに長くなりそうなもので」
そう丁寧にしかも笑顔で言われるとこちらもただ笑うしかなかった。
「長くても聞いてみたいです。失礼でなかったら」
彼の声が綺麗だったから、ただ声を聞いていたいだけなのか、
初めて会った人にこんなことを言えてしまう私自身に驚いていた。
「それじゃあ、まず自己紹介しましょう。そこ座りません?」
そう言って彼はベンチを指差す。
ベンチに座ってからリュックを下ろした時に思い出した。お茶を持ってきたことを。
「あ、まずお茶にしません?」
急にそんなことを言いだしたのがおかしかったのか、彼が笑いだした。
でもそうやって笑っていても嫌味な感じがしない。何でだろう。
コップにお茶を注ぎ彼に渡す。そして二人でお茶をすすり、自己紹介をした。
彼は耀人さん。私は綾。
「僕たちってものすごくおかしなことしてますね」
確かにこんな夜中に、しかも公園のベンチでお茶を飲むなんて・・。
「そうですね、こんな夜中に・・。あ、お茶菓子忘れてしまいました」
ふと思い出したように言うと、彼が大笑いをする。
確かに話の流れ的には変かもしれないけど・・。
「そんなにおかしいですか?」
「いやごめんなさい。ただ・・」
よっぽど悔しそうな顔でもしていたのだろうか。
お菓子を忘れたことよりも、笑われたことにちょっと悔しくなっていた。
「気にしないでください。よく笑ってしまうんです、最近。
幸せの証拠かもしれませんね。ところで綾さんはどうして公園に来たんですか?」
私は眠れなかった話をする。
月が現実かどうかグルグルで、うさぎを数えるために月見をしようって。
すると彼は月の声を探している話をしてくれた。
今日は望遠鏡を買うためにバイトを始めたことを月に報告に来たそうだ。
話が終わり新しくお茶を入れなおす。
「綾さんはうさぎを、僕は声を探している。似たもの同士ですね」
「眠れないところもね。望遠鏡買ったら見せてくださいね。月とか月のうさぎとか・・」
私がそう頼み込むと彼は了解してくれた。
「数ヶ月後になってしまうでしょうけど・・。
その前に、今度の満月の日にまたお茶会しませんか?」
その言い方がなんだかおかしくて笑いだしてしまう。
「そうですね。今度はきちんとお茶菓子も忘れずに・・」
すると彼も笑いだしてしまった。
私たちは次のお茶会の約束をして、それぞれの朝へと別れた。
そのうち夜が明けてくる。そうなる前に帰れてよかった。
そうでないと日の光で、私が彼の綺麗な声と笑顔にどんなにドキドキしていたか、ばれてしまうから。
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