たばこだから煙のように消えた、ではすまない話である。
厚生省の「健康日本21」計画から、「成人の喫煙率と1人当たりのたばこ消費量を2010年までに半減する」という目標が削除された。たばこ業界や自民党農林部会などの強い反発で撤回を強いられた。
国民の健康を守るという目標は、肝心な点で有名無実化したというほかない。
たばこに関して代わりに掲げられるのは、「知識の普及」「分煙の徹底」「禁煙支援プログラムをすべての市町村で受けられるようにする」といった項目である。
いずれも重要な課題だが、目標達成の手段にすぎない。数値を列挙した「健康日本21」の中ではいかにも不自然だ。
「健康日本21」は、21世紀の国民健康づくり運動の指針と位置づけられる。達成目標を数字で示し、10年後にきちんと評価できるようにしようという基本理念の下で、1年半かけてつくられてきた。
朝食を食べない20、30歳代の男性の割合を15%以下にする▽成人の平均歩数を1日1000歩増やして、男性9200歩、女性8300歩にする▽1日に3合(日本酒換算)を超える多量飲酒者の数を2割以上減らす▽果物を毎日食べる人を6割以上にする▽野菜の1日平均摂取量を350グラム以上にする、といった目標を掲げた。
どのようなライフスタイルを選ぶかは、基本的に個人が決めることだ。「健康日本21」は、その決定に際し、参考となる指標を掲げ、実現に向けて公的機関も側面から支援していこうという発想に基づく。病気になる人が減れば、個人としても助かるし、医療費も余計にかからずに済む。
世界の公衆衛生政策の目標は20年あまり前から、「病気を予防する」から「健康を増進する」へと変わってきた。その実現には、個人の生活改善だけでなく、社会環境の改善もしていかなければならないことは、先進国の共通認識になっている。
米国や英国、カナダは、こうした考えに立って健康増進戦略を策定している。「健康日本21」は、その流れを受けて厚生省が初めてつくった目標志向型計画だ。
65歳未満での早死にと、病気の後遺症による高齢障害者を減らすことを狙いに、肥満や高血圧などの危険因子を抑えるための具体的な数値目標を設定した。
この中で、目玉として掲げられていたのが、「たばこ半減」だった。
がんや心臓病、脳卒中、胃かいようや十二指腸かいようは、たばこを吸う人を減らせば減ることがわかっている。先進国で医療費を減らすのに一番有効なのはたばこ追放だというのが、世界の常識である。
計画を決める企画検討会では、禁煙指導に当たっている人々から、「わかりやすくてインパクトのある数値目標が絶対に必要だ」という声が相次いだ。ところが、「反発されるものを入れるのは得策ではない」「実をあげることが大事だ」という、現実重視の主張が大勢を占めた。
背後に、葉タバコ生産農家の生計や税収確保を重視する農水省や大蔵省、関係議員たちの意向が働いていたことは間違いあるまい。国民の健康よりも、目先の利害を優先させたのは明らかだ。
日本では、多くの国で実施しているたばこ税の大幅値上げや広告の全面禁止、自動販売機の設置制限などの抜本対策も進んでいない。いつになったら、この状態から抜け出すことができるのだろうか。
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