企業が大気や河川に排出している化学物質を減らすにはどうすればいいか。その種類や量の報告を企業に義務づけ、行政機関が公表する環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)制度に関する法案がまとまった。
導入される制度が、従来の規制手法ではなく、報告・公表という緩やかな方法をとるのは、化学物質に幅広く網をかけることができるからだ。
欧米では同じような制度がすでに実施されている。法制化は遅すぎるほどだ。
だが、政府案の内容には、納得できない点がいくつかある。
企業が排出情報を報告する先は政府になっている。具体的には、業界を所管している省庁が窓口になる。通産省所管の業界が多いが、医薬品業者は厚生省へ、食品業者は農水省へ、酒類業者は大蔵省へ報告、ということになる。
業界所管の省庁を窓口にするのは、報告内容が企業秘密にあたるかどうかを各省庁で判断させるためである。企業の申し立て通り企業秘密と判断されれば、その物質名は公表されない。
法案をつくった環境庁と通産省は「業界所管の省庁は製造工程などをよく知っているので、的確に判断できる」という。
しかし、業界を指導、監督する立場の省庁は、企業を保護、育成する側面を持っている。そこでは、企業秘密を幅広く解釈する恐れが常につきまとう。
そもそも、工場から排出される化学物質が公表されることで、製造工程での企業秘密が明らかになるとは考えにくい。
かりに企業秘密にあたる場合があるとしても、公正に判断する仕組みをつくらなければならない。それには、行政だけでなく、非政府組織(NGO)や学者を加えた審査機関をつくる必要があると思う。
個別工場ごとの情報が「請求に基づき、開示する」となっているのも疑問だ。
排出情報は一定の書式で集められ、コンピューターに記録される。インターネットで一括して公表することは簡単だ。冊子にして市町村や図書館に置くこともできる。なぜ、そうした方法をとらないのか。
請求開示方式では、請求するごとに手数料を払う。手間もかかる。行政側の仕事量も増える。情報をわざわざ住民から遠ざけようとしているとしか思えない。
政府側の説明は「企業に情報提供を義務づけたうえ、そのまま公開するのは乱暴すぎる」というものだ。企業への配慮がすぎてはいまいか。
情報の公表に当たって大事なのは、数字を独り歩きさせないよう工夫することだ。無用の不安や混乱を避けるために、排出量の持つ意味合い、化学物質の性質などを住民にていねいに説明する必要がある。
当事者の企業がそれを行うのは当然だが、住民の生活に直接かかわる市町村や県も役割の一端を負わなければなるまい。自治体には、排出情報に基づき、地域の環境対策を進める責任もある。
今回の法案では、県が政府から排出情報をもらうことになっているが、それを逆にして、市町村や県を排出報告の窓口にすべきではないか。自治体が最初から関与すれば、排出量の調査や報告の方法について企業に細かく助言できるだろう。
住民や自治体が参加しやすい仕組みをつくってこそ、制度は機能を発揮する。国会で政府案を修正してもらいたい。
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