JUNE 16,1999

■住民台帳法──やはり賛成できない

 国民すべての住民票にコード番号をつけ、コンピューター網で一元管理するための住民基本台帳法改正案が、衆院本会議で可決された。

 小渕恵三首相は地方行政委員会での答弁で、民間部門を含む個人情報保護のシステムを整備することが、運用を開始する前提になるとの考えを明らかにした。新たな立法措置も含まれるとしている。

 民間ではこれまで、個人情報が野放しに近い状態で扱われてきた。その保護に向けて政府が動き出したことは歓迎できる。

 ではあってもやはり、この法律の制定には重大な懸念を抱かざるを得ない。全国民に番号をつけるという手法そのものに、人々のプライバシーを侵害する危険性がひそんでいるからだ。

 加えて、制度の導入と維持には巨額の費用がかかる。どこでも住民票がとれるといった利点がこうした危うさや経費に見合うのか、どうか。参院は冷静に法案を吟味し、慎重に扱いを決めてもらいたい。

 計画では、住民1人ひとりに割り振られた10ケタのコード番号とともに、住所、氏名、生年月日、性別の4情報が自治体を結ぶコンピューター網に載せられる。

 このコード番号と、恩給の給付手続きのように法律であらかじめ特定された行政事務とを結びつける。そうすれば、各種の手続きや登録事務の際に本人であることの確認がたやすくできるほか、行政の効率化にも結びつく、と政府は強調する。

 日本のような高度情報社会では、個人にコンピューター用の番号をつけ、データベースを整える作業が欠かせない。政府レベルでも、基礎年金番号やパスポート番号などさまざまな番号が使われている。

 住民票番号もそうした番号の一種で、あえて目くじらを立てる必要はないとの議論がある。だが、全国民が対象でなく、使用目的が限定されているほかの番号システムと、だれもが持たざるを得ない住民票に番号をつけるのとでは、まったく意味が違うことを見過ごしてはなるまい。

 政府と民間に蓄積された個人情報がこの番号を使って接続されれば、その人のプライバシーに接近するのは容易になる。

 確かに法案は、コード番号の提供を受けた行政機関が、法定外のデータと結びつけて利用することを禁じている。

 しかし、いったん提供されたコード番号情報の消去を求める規定はなく、違法な形でデータを結びつけても罰則はない。どこまで実効性があるか心もとない限りだ。

 ドイツでは、旧西独時代に全国共通番号システムが「人格権を侵害する」として違憲判決を受け、導入は見送られた。英国、オーストラリア、ニュージーランドなどでも計画が中止に追い込まれている。

 統一個人コード番号制度を実施しているスウェーデンなど北欧諸国を除けば、導入に慎重な国は少なくない。

 計画では、希望者に住民基本台帳カードを交付する。運転免許証に似たカードに、8000字分のデータを書き込めるICチップが埋め込まれ、転居の際などにはカードを役所に提示するだけで手続きが済む。

 とはいえ、法律の改正や条例の制定によって、書き込むデータの種類が増えれば、プライバシーが漏れたり悪用されたりする恐れは高まる。

 韓国の場合は、ICカード導入をいったん決めながら、金大中政権になってプライバシー保護などを理由に中止している。


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