環境庁のある幹部が、政府の広報誌で語っている。
「今度の法律では、どの案件についても意見が言えるようになった。問題があるものは問題があるとはっきり言う」
今度の法律とは、このほど施行された環境影響評価法、いわゆる環境アセスメント法のことである。
道路やダム、空港などの建設に先立ち、環境への影響を予測、評価して、環境との調和を図るのがねらいだ。環境庁は1970年代から法制化を図ったが、事業官庁や産業界の抵抗で実現が遅れた。
環境庁が作業の最終段階で意見を言える、と法律に明記された意味は大きい。事業者は最初から、環境庁の目を気にしながら作業を進めざるをえなくなる。
だが、いまの環境庁がその権限を十分使いこなせるかどうかは、心もとない。
たとえば、諌早湾干拓をめぐる同庁の態度を思い出すからである。農水省に対して終始、遠慮がちだった。当時の長官は、いったん現地視察を決めながら、よくわからない理由で中止してしまった。
国の事業は大規模なため、環境破壊の度合いが大きい。民間や自治体の事業に異論をはさむだけでは足りない。国の事業を中止させる意気込みがなければ、監視役としての役割を果たせまい。
とはいえ、環境庁の出番に期待をかけすぎることもまた、制度の趣旨を損なう。
本来は、事業者が住民と意見を交わしながら内容を柔軟に見直し、環境保全を図るのが筋だ。農水省や建設省、運輸省など事業官庁は率先して、環境に配慮する方向へ発想を切り替えなければならない。
今回の法律の特色は、調査に先立って、「方法書」の作成を義務づけたことである。事業者が調査の項目や手法を方法書として公表する。それに対し、住民が意見を述べる。従来の政府の行政指導に比べると、情報の公開と住民の関与が早まる。
しかし、それだけでは、環境への影響を減らしていくには不十分だ。住民の意見を聴いたうえで、実際に事業の内容を練り直す余地がなければ効果はない。
そのためには、事業者は出発点から別の選択肢を用意する必要がある。幅広い複数の案について影響を予測し、評価する。そうすれば、環境にとって最も好ましい案を選べる。複数の案から良い部分を抜き出して組み合わせることもできる。
住民との間の議論も活発になり、長い目で見れば、理解を得られやすいだろう。
東京都が昨年つくった「総合環境アセスメント制度」は、事業者に複数案の作成を義務づけた。法律よりも1歩前に進んだ取り組みで、近く試行に取りかかる。
しかも、影響評価をするのは、計画立案の段階である。法律の想定する事業実施の段階に比べ、複数案がつくりやすい。
道路を建設する場合には、さまざまな構造が考えられる。さらに、道路建設の代わりに路面電車を走らせる、自転車道を整備する、という代替案もありうる。
日本がもたついている間に、欧米はすでに政策立案や長期計画の段階で影響を評価する方向へ動いている。「戦略的環境アセスメント」と呼ばれるものだ。環境庁も遅ればせながら研究会をつくっている。
選択肢を幅広く用意し、環境に悪影響がありそうなら、いつでも引き返す。法律の施行にあたり、そのくらいは心がけないと世界との距離は一向に縮まらない。
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