AUGUST 02,1999

■世紀を築く(13)18歳投票制──高齢化のゆがみを正す
 揺らぐ社会の基盤 政治教育の充実を 13 18歳投票制 高齢化のゆがみを正す 

 開票作業の遅れが話題となったインドネシアの総選挙で、日本より先行していると思われる点が2つあった。

 国民が海外で投票できる在外投票制度と、17歳からの選挙権である。

 17歳は、さすがに世界でも珍しい。しかし、100を超える国で投票年齢は18歳以上になっている(注1)。20歳を守る日本は、韓国などと並んで少数派だ。

 選挙権や被選挙権を何歳から与えるかは、それぞれの国の伝統や社会慣習、政治構造などによって決まる。早ければ早いほどいいと決めつけるわけにはいかない。

 けれども、急激に進む少子高齢化を考えると、選挙権年齢の引き下げは重要な意味を持ってくるように思われる。

 ●揺らぐ社会の基盤

 わが国の平均寿命は、この40年間で男は13.9歳、女は16.2歳延びた。今後10年間に15−24歳人口は600万人減り、65歳以上は600万人増える。

 人口構成の偏りは、政治が高齢者の意思で動きがちになることを意味する。選挙では、「数」がものをいうからだ。

 投票率も年齢が上がるほど高くなる傾向があるので、政党はますます高齢者向けの政策に力を入れる。そうなれば、さまざまな分野で世代間の不平等が拡大し、若者が政治から遠ざかる悪循環に陥りかねない。民主主義を脅かすジレンマといえよう。

 年金をめぐる世代対立は、その典型である。

 厚生年金の給付額を、物価や給与水準に沿って増やすと、18歳の若者が44歳になる2025年には、現在のほぼ倍の保険料率になる。そこに、老人医療や介護保険が加わる。それを現役世代が負担できるだろうか。

 それだけではない。企業の年金負担が増えれば国際競争力が落ち、賃金の低下や雇用不安につながる。貯蓄率が低下し、投資が縮小して、経済成長も落ち込む。

 にもかかわらず、高齢者の政治力ばかりが強まれば、年金給付額の伸びは抑えられない。高齢者人口が多い地域への公共事業を削減するのも難しくなろう。

 「財政赤字の重圧で、生産性向上に必要な技術開発は期待できず、若者の教育に資金を配分する力も失う」

 電通総研の福川伸次研究所長は、そんな最悪のシナリオさえ想定する。

 高齢世代を若い世代が支えるのは、社会の安定にとって重要だ。いたずらに対立をあおるのはよくない。ならばなおのこと、世代間の均衡を保ち、各世代が納得できる社会システムをつくる必要がある。

 若い世代の意思が政治により一層反映される仕組みを整えなければならない。

 その一歩として、選挙権年齢を18歳に引き下げるべきだ。併せて、被選挙権年齢も大幅に引き下げてはどうか。

 1945年、日本では選挙権は20歳以上と定められた。そのころ世界の大勢は21歳だった。ところが、69年の英国を先頭に、70年代半ばにかけて、欧米諸国で18歳への引き下げが相次ぐ。

 当時、欧州は大学紛争、米国はベトナム戦争に直面していた。18歳を自立した「大人」と認める報告が各国で出され、兵役義務のある若者には選挙権を与えるべきだ、という意見が大勢を占めた。

 欧米から遅れること30年。日本でも、若者の政治参加の問題に真剣に取り組むべきときを迎えたといえそうだ。

 その際、20歳を成年と定めている民法の規定との整合性が問題になる。20歳未満を保護の対象としている少年法の改正問題とも関連する。

 実際の社会では、高卒者の2割以上は働いている。自衛隊員募集も18歳からだ。各国が成年年齢を18歳に引き下げたことをみても、20歳からを「大人」と定める根拠は薄れてきているのではないか。

 18歳以上に選挙権を与えれば、約350万人が新たに有権者になる。

 「若者に選挙権を与えても、どうせ投票率は低く、実効性はない」との見方もあろう。だが、まずは、日本がどんな社会をめざすべきかを若い世代が自ら考え、選択する機会を与えることが大切だ。

 選挙権や被選挙権年齢の引き下げを契機に、若者の政治への関心が高まることも予想される。大学生でも選挙に挑戦できるなら、政治がぐっと身近になろう。

 ●政治教育の充実を

 その意味で大事なのは、内外のニュースに関心を寄せ、自分なりの判断を下せるような政治教育の充実である。文部省と日教組との対立のせいか、これまでは時事問題を採り上げにくい雰囲気があった。

 「政治をタブーにしておいて、20歳になってから急に興味を持てといっても無理だ」。岡沢憲芙早大教授(政治学)はこう指摘し、スウェーデンなどでの取り組みを実例として挙げる。(注2)

 佐藤学東大教授(教育学)は「高校卒業とともに選挙権を与えることになれば、高校の教師の側にも生徒の社会的関心を高めようという動機が強まるはずだ」と、18歳投票制の効果に期待をかける。

 若者が政治に参加し、彼らの意思が高齢者と均衡を保つ形で反映されてこそ、社会の活力は維持される。

 そのことを、若者たち自身にもぜひ自覚してもらいたい。

 (注1) 国会図書館の調べによると、選挙権年齢を18歳としている国は139で圧倒的に多く、21歳が17、20歳が7、19歳が1、17歳が2、16歳が3、15歳が1となっている。

 (注2) スウェーデンの中学教科書「あなた自身の社会」(邦訳、新評論社)は、犯罪や差別など社会の負の面も隠さず取り上げ、生徒に政治を考えさせる。米国では、生徒が実際に候補者や選挙事務所の話を聞いて模擬投票をする授業も珍しくない。


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