パキスタン軍がクーデターを強行し、シャリフ首相を解任した。全国各地の役所、空港、テレビ局など公共施設を占拠し、全権を掌握した。
国際世論を無視して核実験を行い、ミサイル開発を進め、カシミール地方の領有をめぐって、つい最近もインドとの紛争があった国でのクーデターである。
南アジア地域全体の安全保障に重大な影響を及ぼす恐れがあり、深い憂慮の念を抱かざるをえない。
指導者と見られるムシャラフ軍参謀総長は、「国の混乱を収束するために、軍は最後の手段として介入した」と国民に向けてテレビ演説した。
カシミール紛争をめぐって7月、シャリフ首相は米国をはじめとする国際社会の説得を受け入れ、軍事境界線を越えてインド側に侵入した武装勢力を撤退させる道を選んだ。これに対し、強硬姿勢を取る軍は反発を強めていた。
もともと、この国の経済は極度に疲弊している。政府は慢性的な財政赤字と貿易赤字、軍事費の増大にあえいでいる。それが核実験に対する経済制裁でさらに悪化し、国民の不満が高まっていた。
他面、内政では大統領の首相解任権を奪うなど強権的姿勢も目立っていた。直接の引き金はムシャラフ参謀総長解任だが、クーデターにはこうした背景がある。
しかし、シャリフ政権は選挙の洗礼を受けてできた正当な文民政府である。民主的手続きを踏まず、暴力によって転覆することはとうてい容認できない。
ムシャラフ参謀総長は、一刻も早く総選挙の実施など民政移管への見通しを示し、事態を収拾すべきである。
なにより心配なのは核兵器とミサイルである。国際社会の批判の前に、パキスタンは最近、核実験やミサイル発射を見合わせている。米国防総省は核兵器の管理に当面不安はないとの見方を示した。
それでも、軍が全権掌握することで、軍拡路線に転じて、核兵器やミサイルの開発競争が再燃する恐れはある。
ムシャラフ参謀総長は核開発を凍結する姿勢を内外に示すべきだ。シャリフ政権が公約した包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名も先送りしてはならない。
インドとの緊張激化も避けなければならない。武装勢力の撤退に不満を抱く軍内部には、撤退地域の奪還を求める声が出かねない。積雪の時期が近づいているとはいえ、今のままでは、小規模な戦闘でさえ不測の事態に発展する懸念がある。
パキスタン軍の内部では中堅から若手軍人の間にイスラム原理主義の信奉者が増えている。バジパイ首相が率いるインド人民党もヒンドゥー至上主義を掲げている。両国でこうした原理主義的な動きが広がれば、対立はさらに強まる。
このためにも、インドのバジパイ政権には慎重な対応が求められる。バジパイ首相は総選挙で安定多数を得て、新政権を発足させたばかりである。国民の反パキスタン感情に流されず、対話と信頼醸成に取り組んでもらいたい。
昨年5月の核実験に抗議して新規の円借款を凍結したが、日本はもともとパキスタンに対する最大級の経済援助国であり、影響力がないわけではない。
この際、欧米諸国と足並みをそろえて、パキスタンが民主体制に復帰するよう、粘り強い説得を続けてもらいたい。
防衛庁発注のジェット燃料などをめぐる談合事件で、公正取引委員会が石油元売り会社など11社を、独占禁止法違反の容疑で検察庁に告発した。
航空自衛隊千歳基地など全国各地の自衛隊で使う石油製品の入札の際に、石油各社が談合し、受注社や応札価格を決めていたという疑いだ。
発注側である防衛庁調達実施本部(調本)も、この談合を黙認していた疑いが指摘されている。
この事件では昨秋、会計検査院がジェット燃料について「不透明な入札が繰り返されている」と、防衛庁に改善を要請した。その後、公取委の調べで、船舶用、車両用、暖房用の石油などでも同様の談合の疑いが次々に浮かび上がり、告発に踏み切ったようだ。
防衛庁の調達をめぐっては、元調本本部長らが背任罪で有罪判決を受けたばかりだ。東京地裁は、「敵味方識別装置」などの装備品代金の水増し請求をめぐり、元本部長らが過払い分の返納額を不正に減らしていた、との事実を認定した。
石油製品と電子機器。調達物品は違うが、防衛予算、つまり国民の税の無駄遣いという点では、同じ構図である。
すでに防衛庁は調達方法の改善策を打ちだし始めている。4月には、調本を原価計算部門と契約部門に分離する、といった方策を発表した。外部の識者らによる「防衛調達適正化会議」も発足している。
しかし、問題の根は相当に深い。本当に効果のある改善をするためには、過去を徹底して洗い出すことが不可欠だろう。
検察には、今回の談合事件の全体像と、背景となった防衛庁の調達の実態を解明するよう求めたい。
直接の告発対象とされたのは昨年4月からの半年間に行われた石油製品の入札、計約300億円である。
しかし、会計検査院の調べでは航空機用の「タービン燃料」だけでも、1997年度までの3年間で発注額は約480億円にのぼる。その大半が、1回では落札されず、調本が業者に希望価格の聞き取り調査をしたうえで、最初の予定より高い額で再発注されていたという。
その通りならば、これまでにいったいどのくらいの金額が「過払い」として税金の無駄遣いになっていたのかが明らかにされなければならない。
石油元売り各社は、談合の「基本ルール」を20年以上も前に取り決めていた、と報じられている。一体、こうした談合はいつごろ始まったのか。
他方、会計検査院が防衛庁に改善を要請した昨年11月以降も、各社の談合は続いていたといわれる。事実なら、悪質といわざるをえない。
今回問題になったジェット燃料は、「JP−4」という、防衛庁の需要しかない特殊燃料だったという。独占的発注者と、寡占的受注者の間で、密室の癒着が深まってはいなかったか。その構造に迫ることも不可欠である。
石油業界は、第1次石油危機の中での一斉値上げで、カルテルをめぐり企業が刑事責任を問われた第1号となった。そのような体質が残っていたのではないか。
本格捜査はまだ、これからだ。
防衛庁調達をさらに徹底的に改善するためにも、その前提の事実解明がきちんとなされるように注視していきたい。
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