沖縄で、普天間飛行場の移設問題が重大な局面を迎えている。
県によって代替基地の建設候補地に選ばれた名護市の議会で、移設促進を求める決議が与党の賛成多数で可決された。
これにより、岸本建男市長が受け入れを表明するためのおぜん立てが整ったことになる。市長は年内にも受け入れを表明するとみられている。
しかし、代替基地はいまに至るまで、規模や機能はおろか、海上に建設するのか埋め立てなのかも一切ベールに包まれている。ジュゴンが生息する海など貴重な環境への影響も不明なままだ。
そのような、実態もわからない基地の受け入れ表明を、急いでいいものだろうか。朝日新聞が沖縄タイムスと共同で、名護市民を対象に行った世論調査の結果を見ても、そのことを痛感せざるを得ない。
名護市への移設については、「反対」が59%で、「賛成」の23%を大きく上回った。名護が移設先に選ばれた理由や今後の計画について、「十分な説明を受けていない」と思う人は82%にのぼった。
市長は何をおいても、代替基地に関する情報の開示を政府に求めるべきだ。そして、示された情報を明らかにしつつ市民との対話を重ねていく必要がある。その労と時間を惜しんではなるまい。
政府には情報開示の責任がある。示す段階にないのなら、基地の仕様を詰めてから諾否を問うのが手順というものだ。
普天間飛行場は、宜野湾市の市街地の真ん中にある。移設によって整理・縮小し、危険を減らすのが、日米特別行動委員会(SACO)での合意だったはずだ。
しかし、代替基地がどのようなものになるのか分からなくては、本当に危険が減るのかを判断することはできまい。
一方で、政府がしきりに強調してきたのは、経済振興策である。先の沖縄政策協議会では、今後10年で1000億円をつぎ込むなど、破格の振興策が提示された。受け入れへのてことする意図は明らかだ。
世論調査では、移設への賛否とは逆に、市長への支持が不支持をやや上回った。県民を対象とした先の調査でも、稲嶺恵一知事について同じ傾向が見られた。市長や知事の背後から、移設問題の早期決着に向け、有形無形の圧力をかけ続けている政府への反発が投影されてはいないか。
沖縄の反基地感情の根は深い。そのことへの想像力を欠いたまま、振興策ばかりを振りかざしても共感は得られまい。
沖縄本島北部の通称「やんばる」には、ブロッコリーのような亜熱帯の山が連なる。120人ほどが暮らす東村の高江地区に、米軍のヘリコプター着陸帯の移設話が持ち上がったのは、10月のことだ。
普天間と同様、SACOで合意された北部練習場の部分返還に伴う移設だった。
いくつかの振興策が示された。だが区民総会は全会一致で移設反対を決議した。
住民のひとりが、胸の内を語る。
「畑で仕事をしてるとね、ヘリが手の届きそうな高さでバリバリ飛んできて、米兵が、目の合いそうな距離から、銃をこっち向けて構えるのさ。訓練だか遊びだか知らないけど、私らが標的なんだね。そのときの気持ち……、わかりますか」
岸本市長にも理解できる心情であろう。今のような状況での受け入れ表明は、賛否をめぐって市民が激しく争い合う事態を招きかねない。
建設省が吉野川に計画している可動堰(ぜき)建設の是非を問う住民投票が、流域自治体の一つである徳島市で1月23日に行われることになった。
「自分たちの利害に関係することは、直接、自分たちで決めたい」という願いから始まった住民の署名運動が、やっと投票を実施できるところまでたどり着いた。
国の大型公共事業を対象とする住民投票は初めてである。結果が注目される。
運動が始まったのは、昨年末のことだ。有権者の49%の署名を集めて直接請求したにもかかわらず、議会で条例案は否決された。住民は4月の市議選で、住民投票に賛成する議員を過半数に増やし、6月の議会でようやく条例制定にこぎつけた。
それでも、すぐに投票実施といかなかったのは、投票賛成派のなかの公明党の要求で、実施時期を明記しない条例となったからだ。「住民が責任を持って意思表示できるまで待つべきだ」との主張だった。
その公明党が早期実施に踏み切り、保守会派も同調したことで投票が実現した。「計画推進派の署名運動が展開されるなど、市民の熟度は高まった」と説明しているが、転換の真意は明確でない。
不自然さは施行規則にも反映し、投票率が50%未満の場合は開票しないことになった。住民投票条例に、投票率が2分の1に満たないときは投票自体が成立しない、との条文があるのを受けた措置だ。
投票率が50%未満の場合、投票そのものを不成立とする規定は、外国の国民投票などにもある。だが、開票までしないというのはどうか。せっかく投票しながら、賛否の数がわからないというのでは、住民は肩すかしを食った気分になろう。
このほか、告示後のビラ配布は「常識の範囲内」で自粛することや、街宣車は届け出制とすることなどを、議員間で申し合わせた。住民投票慎重派のなかからは、投票時間を公職選挙法で定めた午前7時から午後8時までではなく、法改正前の午後6時までとすべきだとの声も出た。
投票時間は公選法の規定通りとなったものの、告示後の運動規制などと併せると、投票自体を低調に終わらせ、できれば投票率を50%未満にして、不成立に持ち込もうとする意図が色濃くにじむ。
こうした建設推進派の思惑と歩調を合わせたのか、建設省は投票結果にかかわらず建設を進める構えを見せている。
中山正暉建設相は、徳島市長らにあてた手紙で、「洪水災害が予想される地域のごく一部と考えられる徳島市の住民投票結果で方向を決する等、到底忖度(そんたく)しがたい」と述べた。住民投票については、「民主主義原理のはき違え」と決めつけた。
地元の工事事務所長も、住民との対話の必要性は認めつつ、「投票は劇薬だ。しこりが残る」と繰り返している。
表向きの強気とは裏腹に、これらの発言は、建設省が投票の成功を恐れていることを物語っている。たとえ徳島1市ではあっても、建設に疑問を持つ住民の声が多数を占めれば、着工は事実上難しくなることを、よく知っているからだろう。
建設費約1000億円、年間維持費が7億円という巨大事業を進めるかどうかの分かれ道である。建設省が簡単に、旗を降ろすはずがないことは初めから想像できた。
帰すうを決めるのは、住民の意思である。堰建設の意味をよく見極め、自らの判断で1票を投じてもらいたい。
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