空爆の背景には、コソボのアルバニア系住民が同意した和平案をミロシェビッチ・ユーゴ大統領率いるセルビア側が拒否している以上、警告通りに空爆を実施しなければ、米欧の威信が揺らぐという政治的な判断があった。とはいえ、コソボ紛争の収拾、バルカン地域安定という外交の大きな戦略目標と、軍事力行使によって達成しようとする当面の目的は、必ずしもかみあっていない。
空爆開始に当たりクリントン米大統領は「我々が行動しなければ、事態はさらに悪化する」と説明した。クリントン大統領が説明したように、NATOの空爆によってセルビア側のコソボでの戦闘遂行能力を減殺することは可能かもしれないが、紛争解決に結びつくか否かという点では、疑問が残る。空爆への反発から、ミロシェビッチ政権が和平交渉に再び参加する可能性は当面なくなり、和平を仲介する立場だった米欧とロシアの連携も崩れたからだ。
欧州連合(EU)の政策遂行のトップである欧州委員長に内定したプロディ前イタリア首相は、「攻撃終了後に和平のための会議開催が不可決。そこでバルカン半島の全体像を改めてデザインする」と説明した。この発言は、今回のNATOの軍事介入があくまでも“緊急措置”であり、これとは別に米欧が紛争収拾を導く外交戦略を問われている事情を端的に物語っている。
安全保障にかかわる国連と地域機構の関係も論議の的になる。米英のイラク攻撃の際には、攻撃が自動的に容認されるかどうかの解釈は分かれたものの、湾岸戦争停戦に関連した既存の国連安全保障理事会の諸決議に、イラクが違反した場合の武力行使を認める内容が含まれていた。だが、昨年のコソボ停戦決議は、この点が明確ではない。アナン国連事務総長や日本政府がNATOの行動に理解を示しつつ、明確な支持を留保しているのはこのためだ。
欧州の安定に欠かせないロシアとの協調関係の立て直しを含め、米欧諸国は空爆の後に克服すべき多くの外交課題を抱えている。
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