【脳死移植】
五例目の脳死移植がようやく実施された。しばらく途絶えていたことが示すように、移植医療の定着には多くの課題が残されている。意思表示カードの普及、臓器提供施設と移植施設の指定拡大、保険適用や意思表示の方法など、法的、制度的な問題を解決しなければならない。
今回は小児への心臓移植のほか、肺移植、肝臓の分割移植と初めての手術が実施された。今後も失敗を恐れず、新たな移植医療に取り組んでほしい。
脳死移植に対する国民の理解は次第に深まっている。これまでに配布した意思表示カードやシールは約七千万枚に達し、うち一割程度は常時携帯されているようだ。臓器移植法が施行されてから一年半の間に、意思表示カードを所持して亡くなった人は百八十五人に上る。しかし、心臓停止後や臓器提供指定施設以外からの連絡が多く、ほとんど移植に結びつかなかった。
厚生省は臓器提供施設として、大学病院、救命救急センターなど三百九十二施設を指定している。しかし、耳や目に損傷があると脳死判定できないため、消極的な施設が目立つ。厚生省は基準の見直しを急ぐべきだ。
臓器提供に伴う人件費や雑費の負担も重い。臓器移植ネットワークから百万円支給されるが、六百万円かかった例もある。こうした事情から指定を受けた施設の四割は準備が整わず、指定を公表しない病院も少なくない。
搬送の時間や費用を考えれば、移植施設も増やす時期ではないか。万全を期すため、心臓は東京女子医大、大阪大、国立循環器病センター、肝臓は信州大、京都大に限定しているが、拡大を求める声が強い。
原則として移植を受ける患者側が負担する手術費用への医療保険適用も重要だ。心臓や肺は適用されず、肝臓も部分適用のため、移植する大学や施設の研究費で賄っているが、いつまでも続けるわけにはいかない。
これまでに、欧米、アジア、オーストラリアで、脳死心臓移植が約四千例、肝臓移植は七千例近く実施された。渡航して心臓や肝臓の移植を受けた日本人は二百人を超える。
ほとんどの国は遺族の承諾があれば移植できるのに対し、日本の臓器移植法は、「書面による本人の意思表示と家族の同意」が絶対条件だ。解決策として「家族の意思にゆだねる」という意思表示を認める案もある。
十月の臓器移植法見直しを控え、国民の理解を深める前向きな論議が必要だ。心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓の待機患者のうちおよそ六百五十人が無念の思いを残して亡くなっている。