平成 11年 (1999) 3月18日[木] 友引

主張 「人間はミス犯す」前提に

【医療事故】
 驚くべき医療事故が続発している。東京都立広尾病院では消毒液を点滴し、五十八歳の女性患者が死亡した。原因は事故を防ぐ基本的なルールがおろそかにされたことである。「人間は必ずミスを犯す」という前提で、二重三重にチェックシステムを構築しておかなければならない。

 広尾病院は事故の原因について、看護婦が血液凝固阻止剤と消毒液を取り違えた可能性が強いことを認めている。無色の点滴薬と消毒液を同じような注射器に吸入し、別の看護婦が運んで点滴したという。

 横浜市立大病院の患者取り違え事故後、広尾病院は医療従事者にアンケート調査し、過去の事故例を挙げて注意を呼びかけていた。講習会や勉強会も毎年数回実施してきたが、それでも初歩的なミスが起こったのだから事態は深刻である。

 看護婦の勤務体制が厳しいのは事実だが、民間の中小病院に比べれば広尾病院の配置や待遇は悪くない。逆に公立ゆえのお役所的な管理体制や患者に対するサービスの問題が指摘されていた。とくに事故を一カ月以上も公表しなかった姿勢は問題である。

 日本医師会は昨年三月、医療事故を予防するため、医療における危機管理の考え方を提言している。その中で、「事故の発生までには複数の関与者による二重三重のミスやエラーが介在しており、そうした連鎖を許すシステムや組織の欠陥こそが根本的な意味での事故原因である」と指摘した。

 さらに、「人間は必ずミスを犯す」という前提に基づき、発生したミスやエラーをいかに事故へ結びつかせないかという「フェイルセーフ」の発想が肝要と強調している。同じ過ちを繰り返さないためには、事故やミスを犯した本人が進んで情報を提供できる雰囲気が重要で、原因究明の視点は「だれが事故を起こしたか」ではなく、「何が事故を招いたか」であるという提言は的を射ている。

 具体的な医療事故予防策としては、(1)医療事故情報の収集組織設置(2)病院内の事故報告システム整備(3)安全対策マニュアルの作成と徹底(4)医療行為のチェック体制と意識改革(5)医療スタッフの労働条件改善(6)危機管理教育の徹底(7)正確なカルテ作成と全人的な医学教育−を挙げている。

 まさにその通りだ。この提言を確実に実施していれば、事故は起こらなかっただろう。自分の失敗を報告するのは勇気がいる。だからこそ、チェックシステムをきちんと制度化してマニュアルなど使いやすい形にまとめておくことが重要なのだ。