平成 11年 (1999) 5月10日[月] 先負

主張 むしろ和平案受諾の契機に

【中国大使館誤爆】
 北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴスラビア連邦空爆で、首都ベオグラードの中国大使館が誤爆され、多数の死傷者が出た。誤爆の原因は古い地図で目標を選定したためとされるが、誤爆そのものはきわめて遺憾であり、NATO側が陳謝したのも当然だ。だが、これによって今回のユーゴ空爆の本質を見失うことがあってはなるまい。ミロシェビッチ・ユーゴ大統領は、むしろ、この事態を契機に和平案を受諾すべきである。

 NATO側によれば、空爆はレーザー誘導弾で行われたが、大使館を兵器補給・調達司令部と誤認したらしい。まもなく五十日になろうとする空爆では、これまでも何回かの誤爆が伝えられているが、NATOの軍事介入を非難してきた中国の現地大使館が被弾したことは、事態をより複雑なものにしかねない。

 NATO側は当夜の攻撃目標の詳細を公開するという異例の措置をとり、ソラナ事務総長が「深く悲しむべき誤り」と陳謝した。中国の要求で国連安全保障理事会が緊急招集され、中国側は即時空爆停止を求めたが、米国は「大きな状況をみれば、一人の男がこの危機の責任を負う」と反論、空爆続行の意思を明確にした。

 ロシアを含めた主要八カ国(G8)外相会議の包括的和平案が打ち出された直後という時期での誤爆である。中国国内では、激しい反米抗議デモが各地で展開されている。ユーゴ側も国際社会から同情とNATO非難を引き出そうとしているようだ。

 われわれは、米国が主張する「一人の男の責任」を改めて追及しなければならない。NATOが域外のユーゴ空爆に踏み切ったのは、ミロシェビッチ大統領がコソボでのアルバニア系住民に対する大規模なエスニック・クレンジング(民族浄化)という非人道的行為を続けてきたためである。

 国連のアナン事務総長や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の緒方貞子高等弁務官らは、ユーゴ当局による残虐な行為に対して、繰り返し抗議声明を発し、国際社会は大量の難民の救援に乗り出している。

 中国大使館誤爆は残念なことではあるが、これによってミロシェビッチ大統領の非道な行為が免罪されるものではないことはいうまでもない。ユーゴ側がこれを利用して反転攻勢に出るようなことを許してはならない。ユーゴの悲劇に終止符を打つのは、ミロシェビッチ大統領が、ユーゴ軍のコソボ撤退、国際監視団の展開などを盛り込んだG8和平案を受諾すること以外にないのである。