平成 11年 (1999) 5月11日[火] 仏滅

主張 「首都移転」は白紙に戻せ

【新首相官邸】
 昭和四年の完成以来、激動の政治史の舞台となってきた首相官邸が建て替えられることになり、今月二十二日に起工式が行われる。老朽化した首相官邸の新築は、緊急事態に対する官邸の危機管理体制や首相のリーダーシップを高める内閣機能の強化をはかる上からも必要と考える。

 しかし、問題は新官邸の建設の一方で、首都機能の移転計画が進んでいることだ。戦後最悪という経済危機が国家財政や国民生活を圧迫するなかで、引っ越しが決まっていながら豪邸を新築するといったムダは許されない。このさい、新首都建設計画は白紙撤回することが賢明な選択といえる。

 新首相官邸は、地下一階、地上五階建てで平成十三年には完成の予定だ。総工費は七百億円近くに上るという。だが、国会決議通りに、二〇一四年までに国会や省庁、裁判所などを新首都に移転させることになれば、最新設備を誇る新官邸もお役御免となる。

 首相官邸だけではない。「霞が関」では、総工費五百三十億円をかけて建設中の地上二十一階建ての中央合同庁舎第2号館など官庁ビルの改築が相次いでいる。首都機能移転を視野に入れた省庁施設の再利用や跡地活用の具体的なプランは示されていない。新首都の建設まで、新たな官庁建設は見合わせるのが当然だが、むしろこのさい首都機能の移転計画の方を断念すべきだと考える。

 十二兆円とも試算されている新首都の建設費用をどう捻出するかという財源問題に全く見通しが立っていないばかりか、今や、首都機能を移転しなければならない必然性も希薄になっている。新首都建設が国会で決議されたのは、バブル最盛期の平成二年である。東京一極集中の是正を最大のねらいにしていたが、その後の社会状況の変化で、政府の国会等移転調査会が平成七年にまとめた最終報告は、中央集権を排し、地方分権や規制緩和などの構造改革を進めるための起爆剤にするという目標に軌道修正した。

 だが、橋本政権以来の省庁再編や地方分権、規制緩和を軸にした構造改革と新首都建設の連動した取り組みは見られない。何よりも、歴史的な国家プロジェクトにもかかわらず、新首都建設に対する国民の関心は低い。

 政府は今秋までに新首都の最終候補地を決める予定だが、国民的コンセンサスも確かな展望もないままの新首都建設は、かえって地方行政や国民生活を混乱させるだけである。新首都建設は白紙に戻し、二十一世紀のあるべき「国の姿」についての論議を深めることを国会に求めたい。