平成 11年 (1999) 5月28日[金] 大安

主張 報告書はわが国への教訓

【核スパイ報告】
 膨大な米国の核・ミサイル技術情報が、中国のスパイ活動によって盗まれていた、とする米下院・コックス委員会の報告書は、そのショッキングな内容で、世界中を驚かせている。しかし、これは対岸の火事ではない。日本でも国益を損なう重大情報が漏出する懸念は、諸外国よりむしろ大きい。米国の事件を大いなる教訓として、外国からの情報活動に備えなければならないだろう。

 報告書が「盗まれた」としている技術は、核弾頭、その小型化、ミサイルなどの設計技術、ミサイルの誘導技術、高性能コンピューター技術など広範囲にわたっている。流出した技術情報はすでに中国のミサイル、核弾頭の開発に貢献しているが、そのなかには、わが国に直接脅威を与えるミサイルも含まれている。スパイ事件について、われわれの関心が高まるのは、まずこの点である。

 しかし、スパイ行為を非難するだけで問題は解決しない。そこに情報があれば、入手しようとする勢力が現れるのは自然の成り行きだが、国家間では、こうした背徳的意志へのブレーキが利きにくい。攻めるものがあれば、何重ものバリアを築いて守り抜くのが、ほとんど唯一の情報保全の方法論ではなかろうか。

 報告書は、厳重な防諜態勢がとられているはずの米国で、重要情報が窃取された事実を反省して、三十八項目に上る情報流出防止対策を勧告している。翻ってわが国の情報防衛を考えてみると、情報収集活動への対策はスキだらけではないか。不法な情報収集活動を罰する有効な法律がない、重要情報への当局の取り組みも諸外国ほど厳しくはない、それに一般国民の情報や、その収集活動への関心もまた決して高いとはいえない。超一級の高度技術国家でありながらである。

 米国での事例が示すように、最近の情報収集の方向は、対象が文書からコンピューター情報に変わってきているが、わが国の不法アクセスへの備えは万全だろうか。また、報告書で指摘されているような、国家が計画的に送り込んでくる組織、個人の情報活動は逐一把握されているのか。国家機密法など法制度の整備と、法ができることによる国民意識の向上、情報取り扱いに対する認識の高まりが望まれるところである。

 重要情報の漏出を防ぐ努力は、飛行機事故の防止に似ている。トラブルをゼロにするのは至難だが、これでもかこれでもかのゼロにする努力をし続けなければ、緊張感がたちまち下落してしまうのである。

主張 思い切った“手術”も必要

【ポケベル倒産】
 ポケットベル(無線呼出サービス)の東京テレメッセージ(TTM)の倒産は、懸念されていた業界の脆弱(ぜいじゃく)さがついに露呈したものといえよう。通信の自由化で異業種参入が盛んだが、新電電で経営破綻したのは初めてである。国内外で合従連衡が激しい業界だけに、ポケベルに限らず新電電の経営体質の強化が急務である。そのためには思い切った“外科手術”も必要になろう。

 昭和六十年に通信自由化は始まった。ポケベル事業も四十三年から先行の電電公社(現NTT)に対抗し、六十二年にTTMなどがポケベル専業で進出し、ピーク時には三十六社にもなった(現在三十一社)。電力会社や商社、メーカーなどが主要株主だが、通信市場の将来性に期待する地元企業などの小口出資も多く、株主構成はそれだけ複雑になった。

 呼び出し機能にメッセージ機能を付加したことで若者にも受けて、平成七年には一千万台を超えたが、その直後から状況は一転し、今年三月末には三百七十六万台とわずか四年で三分の一にまで落ち込んだ。後発のPHS(簡易型携帯電話)もメッセージ機能で対抗、さらに低価格戦略を打ち出したことで利用者の“乗り換え現象”が起きたからだ。そのPHSも、携帯電話との競争で経営難に陥っている会社も少なくない。そして携帯や長距離系でも優劣が表面化してきた。

 通信業は多額の先行投資を必要とし、それを年月をかけて通話料金などで回収する。しかし技術の進歩は、新製品をつぎつぎに生み出し主役の座を交代させていった。一台の電話機でPHSと携帯を利用できるサービスもある。TTM破綻が物語るように、資金回収どころか肝心の商品が短期間で見放されることも現実になった。

 郵政行政にも責任の一端はある。ポケベル、PHS、携帯電話とも全国九電気通信監理局単位で設立させる方針を取ったため、同系列でも最低九つの会社ができた。いまとなっては間接費削減など合理化のネックになっている。株主の思惑の違いも、経営方針決定に影響が出ているとの指摘もある。

 「専業経営は限界」とポケベル事業の将来性を疑問視する声も多くなった。PHSでは救済合併の例もあり、いずれも厳しい状況だ。それだけに経営の根幹に大胆にメスを入れることをためらってはならない。再編の決断が迫られる局面もありうる。最悪の場合は営業譲渡というシナリオも否定できない。そうでもしないと体力十分で、しかも兼業の強みで迫るNTT系とまともな競争はできない。