【肝移植断念】
二十四日に実施された四例目の脳死移植で、信州大付属病院は女児への肝臓移植を断念した。多くの国民が成功を願っていただけに、まことに残念な結果である。命のリレーはできなかったが、さまざまな試練や挫折を乗り越えて、日本の移植医療を定着させなければならない。
大阪府立千里救命救急センターで五十代の男性から提供された肝臓は、小型機で長野県松本市の信州大に運ばれ、生後四カ月の女児に移植する手術を開始した。しかし、臓器の状態が悪化していたことから移植を断念した。
提供された肝臓は、脂肪が多く移植が困難な状態だったという。しかし、移植を待つ女児は劇症肝炎で、余命わずかと診断されていたため、いちるの望みを託していた。
心臓の移植は最初から医学的理由で見送られた。ただ、腎臓は奈良県立医大病院と兵庫県立西宮病院で、五十代の女性と四十代の男性にそれぞれ移植されている。
今回の移植について、移植医療の難しさや限界を指摘する声もないわけではない。しかし、どんなに困難な状況でも、たとえ成功の見込みがほとんどなくても、患者の生命を救うため、最後まで最善の手だてを尽くすのが医療の使命である。
日本移植学会は、臓器移植法の成立前から総力を挙げて検討を重ね、移植のルールをつくり、移植チームの人選を進め、情報公開を徹底してきた。背景には、昭和四十三年に札幌医大で行われた和田心臓移植が密室医療の批判を浴び、その後三十年以上も後遺症に苦しんだ経緯がある。
ただし、一昨年十月の臓器移植法施行以来、すでに三例の脳死移植がされ、いずれも成功した。当初は国民の間に、脳死移植に対する不安や否定的な意見も少なくなかったが、症例を重ねるたびに理解と信頼が深まっているのではないか。二月の一例目から、五月、六月と次第に移植実施の間隔が狭まり、今回は十一日目だったことが、それを裏付けている。
すでに臓器提供意思表示カード・シールは四千五百万枚以上配布された。国民の一割近くは意思表示カードを常時携帯しているとみられ、年間二十例以上の臓器が提供される可能性もあるという。
国民は短絡的な拒絶反応を起こさず、長い目で移植医療の定着を見守ってほしい。移植関係者も委縮することなく、臓器提供者と遺族の思いを受け止め、今回の経験を次の機会に生かさなければならない。米国では一日平均十例以上の脳死移植が行われている。