【住民台帳法案】
転勤などで引っ越しする度に、転出と転入の届けに二度も役所に足を運ばなければならない。こうした住居変更などに必要な住民票の交付件数は全国で年間八千九百万件に上る。
全国民の住民票に個別のコード番号を付けて全国どこでも本人確認できる住民基本台帳ネットワークシステムが実現すれば、引っ越し手続きは一回ですむようになる。自治省の試算では、時間の節約に加えて手数料や交通費などを合わせて年間二百七十億円の住民負担が軽減されるという。
その国民コード番号制を導入するための「住民基本台帳法改正案」の審議が参院で始まった。二十一世紀の高度情報化時代に向けて、行政と国民を結ぶ情報ネットワークを構築し、行政サービスと行政効率の向上をはかることは緊急の課題である。「国民総背番号制」といった感情論ではなく、コンピューター社会の現状と将来を見据えた建設的な審議で早期成立に全力を挙げるよう求めたい。
しかし、国民コード番号制について、国民の間には理解不足やプライバシー保護の問題で不安を感じている人が多いことも事実だろう。衆院では、公明党の強い主張で法施行後三年以内の「個人情報保護法」制定を条件に可決にこぎつけた。
もちろん法案では個人情報の漏洩に二重、三重の防御策を講じている。住民票コード番号で識別されるのは氏名、住所、性別、生年月日の四情報に限定し、公務員が情報を漏らした場合は、通常の守秘義務違反より重い「二年以下の懲役、百万円以下の罰金」を科す。行政機関の利用も法律であらかじめ特定された事務以外は禁止し、民間の使用も厳禁する。
それでも、国民に不安が消えないのは、地方自治体で住民のデータ漏洩が相次いでいるためだ。最近も京都府宇治市で住民票データが名簿業者に流れる事件が起きた。住民コード番号制による情報ネットワークの構築には、国民の懸念を払拭し、信頼性を高めることが何よりも急がれる。
国の保有する個人情報については、平成元年に個人情報保護法が施行されているが、誕生日に合わせて各種のダイレクトメールが舞い込むなど国民生活においてはプライバシーは野放しの状態にある。自治体や民間を含む包括的な個人情報保護法の制定は、住民コード番号制だけでなく、情報社会全体の秩序維持にとって重要といえる。
ただ、プライバシーの問題ばかりが強調されて、肝心の行政改革がストップする愚を犯すことのないよう注文をつけておきたい。