【医学生暴行事件】
慶応大学医学部の学生五人が女子学生を集団暴行した事件で、大学当局は五人全員の退学処分を決めた。特に厳しい倫理観が要求される医学生だけに、妥当な処分といえる。先には、三重大学医学部でも、男子学生らによる女子学生らへの集団セクハラ事件が起き、五人が退学、四人が停学処分を受けた。将来、人の命を預かる医師の卵たちの間で、なぜ、このようなモラルの崩壊が起きたのか。
一つは、大学以前のいびつな受験体制にあるといえる。どこの大学も医学部は難関である。だが、そのために、高校や予備校では、本人の志望動機よりも、成績や偏差値を優先して医学部への進学指導を行っていなかったか。医学は人間を病魔から救い、人類の福祉に貢献する学問であり、成績よりも医学を志す動機が大切ではないか。先生たちはこのことを踏まえて進学指導にあたるべきである。
多くの人命が犠牲になったオウム真理教事件に、「偏差値エリート」といわれる東大や慶応の医学部出身者が加わっていた事実は、記憶に新しい。医学部を目指す受験生も、大学で何を勉強し、将来、医師や研究者として何をしたいか−という夢や使命感をもったうえで、難関に挑んでほしい。
今回、事件を起こした慶大医学部生も、教育熱心な家庭で育ったはずだ。高い教育費を払って、息子を進学塾や私学に通わせた親もいるだろう。しかし、せっかく希望の医学部に入っても、こんなハレンチ事件を起こしてしまったのでは何にもならない。
「教育ママ・パパ」といわれる人たちも、試験の成績や偏差値だけが人間の価値ではないことを知ってほしい。やはり、小さいころから、社会のルールを守り是非善悪の判断力を身につけるためのしつけが大切なのである。
大学の医学教育にも、問題がないとはいえない。専門教育と教養教育の区分を廃止した平成三年の大学審議会答申以来、各大学は医学部も含め、さまざまなカリキュラム改革を行ってきた。その結果、大学一年の段階から専門教育が行われるようになり、教養教育がおろそかになった面がある。
特に、医学は「医の倫理」「医の哲学」といった基礎的な教養が大切な学問である。慶大や三重大に限らず、各大学の医学部はこれまでの教養教育をもう一度、見つめ直し、カリキュラムの改善に努力してほしい。
「医は仁術」といわれる。慶大の医学部長は「今後は人間性、倫理性の問題を根本から考え、出直していきたい」と述べた。この自戒の弁を評価し、今後を見守りたい。