平成 11年 (1999) 11月10日[水] 赤口

主張 “抜け道”封じ政党一本に

【企業献金禁止】
 世論の風当たりが強くて選挙が戦えない−という本音はともかく、自民党が政治資金規正法の規定通り、政治家個人への企業・団体献金の禁止へ方針転換したことは率直に評価したい。

 「国民に約束し、法律をつくった以上、国民の納得できる対応を取らなければならない」(森喜朗幹事長)とする決断は、政権政党として当然といえる。だが、早くも政治家個人への企業献金を断たないための“抜け道”の存在が取り沙汰されている。

 今回の禁止措置が、選挙戦乗り切りのカムフラージュに使われたのでは、国民の政治不信を深めるだけである。今こそ、政治の質を高める透明度の高い政治資金制度の確立へ、与野党一体となって取り組むべきだ。

 民主的な国家や健全な社会を守り育てるのは、国民すべての責務である。その具体的行動として支持政党や政治家に献金することは正当な権利だ。企業献金についても正当性が最高裁判例で立証されている。企業献金を「悪」と決め付け、全面禁止すべきとする意見には同調できない。

 ただ、平成七年一月施行の改正政治資金規正法に、法施行五年後の政治家個人への企業・団体献金の禁止措置が規定されたのは、リクルート事件など「政治家とカネ」をめぐる不祥事が相次いだことが背景にある。その後も政治家の汚職は後を絶たない。

 こうした現状を踏まえて、われわれは政治家個人への企業・団体献金の廃止はやむを得ないと考え、速やかに禁止措置を講じた上で受け入れ窓口を政党本部に一本化し政治資金の出入りをより透明にするよう主張してきた。「政策・政党本位」の政治の実現を掲げた政治改革の理念を生かすためにも、政党中心の政治資金制度の確立が急務であることを改めて指摘したい。

 小選挙区などの政党支部も機能を明確にし、支部長を務める現職議員や公認候補に直接企業献金が渡らないようにする措置が必要だ。資金集めのパーティーも目的や収支をよりガラス張りにすることが求められよう。

 何よりも、「カネのかかりすぎる政治」を根本的に改めることが肝要だ。政党助成金を含む多額の政治資金も、大半が冠婚葬祭や後援会の親睦会など選挙区対策に使われているのが実態だ。多数の秘書の人件費だけでも莫大な額に上る。米国のように議員定数(下院四百三十五人、上院百人と日本より少ない)を抑えて、政策スタッフを増員することも検討課題だ。

 議員を地域や業界の利益代表とみる有権者の意識改革も必要なことは、いうまでもない。

主張 時代に合った指針が必要

【クローン実験】
 東京農大のグループが行っていた、人間の細胞を牛の未受精卵に移植する実験は、クローン人間の誕生につながるおそれのある研究を禁止する文部省の指針に抵触する可能性が強い。実験を文部省などに連絡していなかったことも含め、勇み足の感は否めない。ただ、生命科学は日進月歩で、研究者に慎重さだけを求めていては、世界から取り残されてしまう。進歩に応じた指針の見直しも必要で、冷静に問題提起として受けとめたい。

 岩崎説雄・東農大教授の説明では、今回の実験は「細胞ががん化する原因因子を探すのが目的」で、「移植先にヒトの未受精卵を使っておらず、クローン個体にはつながらない異種間融合なので問題はないと考えた」という。白血病治療のための基礎研究であり、確かに、この実験からクローン人間ができることはありえない。

 一方、昨年八月に文部省が定めたクローン研究の指針では、「ヒトのクローン個体の作製を目的とした研究、またはヒトのクローン個体の作製をもたらすおそれのある研究は行ってはならない」としている。岩崎教授らの研究は、クローン人間をつくる技術への応用もでき、指針をまとめた学術審議会専門委員の角田幸雄・近畿大教授は「『おそれのある研究』にあたる可能性がある」と指摘する。

 また、指針は「違反するおそれのある場合、大学等の長の確認を受け、文部省の意見を求める」となっており、独断で実験を行ったのは、この規定に触れる。「問題はないと考えた」にしても“密室”の実験は拒絶反応を招くことを、研究者は認識すべきだ。

 クローン人間の研究については、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が「人間の尊厳に反し、許されない行為」との宣言を採択し、各国とも研究を禁止している。当然の措置であり、クローン人間の存在するグロテスクな未来など想像もしたくない。

 ただし、研究を入り口の段階からすべて禁止すべきかは、見解が分かれる。わが国でも、科学技術会議は「人間のクローン胚を母体に戻す行為」に限って禁止の対象にしており、文部省指針の「すべて禁止」とは異なる。

 クローン技術自体は、食糧増産や希少動物の保護、医薬品の開発などに有用で、実際、クローン牛の生産など、わが国でも積極的に行われている。

 ジェンナーの種痘も、華岡青洲による全身麻酔の外科手術も、当初は野蛮な行為とみられた。もとよりルールに違反した研究者の暴走は許されないが、われわれも科学の進歩にあまり憶病になってはいけない。