平成 11年 (1999) 11月26日[金] 仏滅

主張 公正な調査研究の書庫に

【歴史資料センター】
 平成十三年春に設置予定の「アジア歴史資料センター」について、政府は当初の構想を大幅に修正し、収集対象を国の機関が保管する公的資料に限定する方針を固めた。アジア各国に散在する資料には、信ぴょう性に乏しいものもあり、資料の精選を図ろうとする政府の意向を支持したい。

 アジア歴史資料センター構想は村山富市元首相が平成六年、戦後五十年記念事業の一環として打ち出したものだ。翌七年、同センターの設立に関する有識者会議は、国内とアジア各国における近現代史資料の収集を提言した。当時、「村山談話」に代表される過度の贖罪意識や、日中、日韓の共同歴史研究ブームがあった。そこには、近隣諸国と歴史認識を共有したいという一部政治家たちの願いもあった。

 しかし、それは現時点では、ほとんど実現不可能なことである。南京事件について、中国側からさまざまな証言が寄せられているが、伝聞や誇張が多く、日中間の歴史認識には依然、大きな開きがある。

 「従軍慰安婦」問題を例にとっても、政府が一年半がかりで集めた二百数十点の公文書の中には、軍や警察による「強制連行」を示すものはなかった。にもかかわらず、当時の日本政府は「強制連行」を認めて謝罪した。「従軍慰安婦」という言葉も戦後の造語であることが分かり、教科書からも「従軍」が削除される。一時の時の勢いだけで軽々な判断を下してはならないという証左である。

 やはり、日本政府は国内の公的な一次資料に基づいて、毅然とした主張を行うべきである。そのためには、当時の公文書類をデータベース化し、いつでも引き出せるようにしておく必要がある。同センターにはまず、そのような役割を期待したい。

 政府は、収集した資料の陳列や展示を行わない方針だという。これも適切な判断である。現在、全国各地で戦争の偏向展示が問題になっている。展示となると、資料が絞られ、だれしもが納得する展示は実現が難しい。歴史の調査や研究のために、必要なデータが得られる態勢になっておれば、それで十分だと思われる。

 米国立公文書館は占領時代の憲法制定過程などに関するGHQ(連合国軍総司令部)文書を順次、公開している。日本も外交文書は公開するようになったが、BC級戦犯に関する資料は今も、法務省の地下倉庫に眠り、保存が困難になってきている。同センターには、こうした貴重な遺産を日本の後世の歴史研究や歴史教育のために保存する役割も期待したい。