◆7月5日付・読売社説(1)

 ◇国も貸借対照表を作ってみては◇

 民間の研究機関が、相次いで国の貸借対照表(バランスシート)を試作している。現金の出入りだけを記載した現在の予算書や決算書では、財政状況を的確に説明できない、との批判が込められている。

 地方では、すでに三重県などが貸借対照表を作成し、公表している。作成を公約に掲げた石原東京都知事も、近く原案をまとめ、今秋には完成させる方針だ。

 貸借対照表は、資産と債務を項目別に整理して示した会計帳簿だ。民間企業では損益計算書とともに経営の根幹をなす帳簿だが、官庁の一般会計の予算書は、項目ごとにいくらの収入があり、それを事業ごとにいくら使うか、しか表記していない。

 会計基準の改正で急速に透明度を高めている企業会計に比べ、政府や地方自治体などの官庁会計は、“大福帳”にとどまり、財政の実態を明らかにしていない。大蔵省は、貸借対照表の作成に向け、検討を急ぐべきだ。

 PHP総合研究所が試作した九六年度の貸借対照表によると、国と地方自治体、社会保障基金を合わせた「一般政府」の資産総額は、現金、預金などの金融資産と、土地、道路などの固定資産の合計で九百十六兆円だった。

 これに対し、債務の総額は国債、地方債に公務員の退職金、共済年金の積み立て不足などを合わせ、七百四兆円に上った。資産から債務を引くと二百兆円強のプラスだが、資産には道路の底地など売却不能なものがあり、それを差し引くと実質三百六十八兆円の債務超過になるとしている。

 一方、「構想日本」が試作した同年度の貸借対照表では、社会保障基金を含む国の資産総額は五百六十八兆円、債務総額は千四百七十一兆円で、債務超過額は九百三兆円だ。厚生年金の積み立て不足を計上したため、PHPより債務が膨らんだ。

 企業は銀行が融資を止めた段階で倒産するが、国は国民が税金を納める限り存続する。債務超過でも国の倒産を心配する必要はない。ただし、債務超過は現世代から次世代への付け回しとも言え、歯止めなく増えるのは好ましくない。

 大切なのは、大蔵省が財政の実態を様々な切り口で国民に明らかにすることだ。

 国債を発行して公共投資をすれば、国の債務と資産はともに増える。公共投資が経済の活性化をもたらし、税収が増えれば、やがて債務は減る。貸借対照表を毎年、作成することによって、公共投資が効果的に働いたかどうかの手掛かりがつかめる。

 大蔵省は、国会の監視が厳しい一般会計の見ばえを良くすることに意を注ぎ、特別会計や財政投融資などに“隠れ債務”を潜り込ませて、財政を不透明にしている。

 貸借対照表を、一般会計と特会、財投などとの資金の出入りを統合した連結ベースで作成すれば、こんなごまかしも無意味になる。連結は予算書にも導入したい。

 国有地の評価額、老朽化による資産価値の減少(減価償却)の扱いなど、技術的な問題点を詰め、国の貸借対照表を作るべきだ。それは欧米主要国の常識でもある。

(7月5日9:17) Copyright 1999 The Yomiuri Shimbun