◆9月2日付・読売社説(2)
◇わが子を金のために殺した母◇
何とも哀れで言葉もない。多額の保険金をかけられ、実の母親に殺害されたと見られる佐賀県の高校一年生(当時)だ。
事実に不明な点も多いが、わが子の命を金のために奪った母親の心の荒廃は、母性の喪失などの言葉で片づけるには、あまりにも衝撃的であり深刻だ。
九〇年代に入り、保険金欲しさに母親が主役で、単独あるいは夫や愛人と共謀して実の子を殺した事件が、札幌、大阪、神戸などで相次いで起きている。
三十一歳の母親が内縁の夫と共謀して自宅に放火し、十一歳の娘を焼死させた大阪の事件では、大阪地裁の判決が「実の母親の行動として信じられない」と厳しく非難した。十六歳まで育てた二男に睡眠薬を飲ませ、海に突き落とした今回の事件の残虐さは、なおさら信じられない思いだ。
母親たちに今、何が起きているのか。群馬県では、十八歳の母親がパチンコに夢中になり、二歳と一歳の男の子を炎天下の車に放置して死亡させ、逮捕された。
幼児虐待も深刻化している。厚生省の調査では、九七年度に全国の児童相談所が扱った虐待の相談は五千三百五十余件で、八年前の五倍近くに上った。虐待者の55%が母親だったという。
厚生省の別の調査では、全国の乳児院に預けられた子供の四人に一人が、家庭で虐待を受けていた。親の養育責任の放棄や拒否、蒸発、怠慢、過度のしつけなど、親の未成熟さが目立っている。
原因は、いろいろ考えられるだろう。核家族化や地域社会からの孤立によって、長年の子育ての知恵が母親に伝わらず、母親たちの多くが育児ストレスを強めているのは確かだ。子育ての喜びを感じられない母親が増えているとの指摘もある。
自分の行為がどんな結果を生むかを認識する訓練を、親自身が受けていない面もある。幼児を車中で死亡させる悲劇が繰り返されているのは、その典型だろう。
ただ、こうした傾向は今回の保険金殺人の大きな背景ではあっても、わが子を殺す行為との間には大きな落差がある。
わが国では、長い経済成長の中で豊かさへの願望が肥大化し、メディアによってさらに増幅、拡散してきた。手っとり早い金もうけや拝金主義の傾向をいっそう強めたのが、バブル期だったと言える。
最近の厳しい不況の中では一転、肥大化した欲望が行き場を失い、あちこちで現実との落差に直面した。それが社会に、家庭に、個人に強いストレスをもたらし、そのはけ口が弱い立場の子供や高齢者らに向けられたと考えられないだろうか。
保険金を巡る殺人や犯罪の横行は、その一つの象徴だ。立場の弱い人々が、ぬれ手でアワの道具にされている。
和歌山カレー事件後、行政や業界が保険契約の不正防止に取り組んでいる。これまではチェックの甘さにつけ込まれた側面が強い。契約時のチェックを着実に実行すれば、犯罪の大半は防げるはずだ。
命を標的にした反社会的な犯罪を封じるためにも、いっそうの努力を求めたい。
(9月2日8:40)
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