わが国初の脳死による臓器移植は、臓器提供者の家族への配慮から、脳死判定の細かな手続きの途中経過が、ほとんど外部に知らされないまま実施された。
あれから二週間、家族の了解が得られたとして高知赤十字病院、日本臓器移植ネットワーク、厚生省の三者は十五日、脳死判定に至る経緯や家族に対するインフォームドコンセント(説明と同意)がどのように行われたかを初めて明らかにした。
最終的な脳死判定時間などは、依然「家族の要望」だとして伏せられたが、一定の情報公開がなされたことは、透明性を確保する上で評価すべきだろう。
わが国では、三十一年前の和田心臓移植の反省に立って、〈1〉臓器提供者(ドナー)に対する救命治療は最後まで十分になされるか〈2〉死亡判定は適切に行われるか〈3〉移植患者(レシピエント)の選定は公平・公正にできるか――が臓器移植をめぐる最大の問題点とされてきた。
つまり、臓器移植医療が広く認められ定着するためには、移植医療の「密室性」への懸念を払しょくし、医療に対する信頼性を確保することが不可欠だった。情報開示が重要視されたのはまさにそのためだ。
そうした視点から振り返ると、法施行後最初の症例となった今回のケースはいくつかの問題を提起した。
まず挙げられるのが臓器提供者とその家族のプライバシーの保護という問題だ。
過熱した一部の取材・報道が、家族の不信感を招き、そのことが脳死判定の途中経過を公表しないことにつながった。
臓器提供者の尊い意思を尊重する一方で家族には臓器提供に同意するかどうか自由に、冷静に判断する環境と時間が保障されなければならない。
それに関し、主治医や厚生省が「家族に決断してもらうのは酷だ」と「移植中止」に傾いた時でもなお、家族が強い意思で脳死判定・臓器提供を望んだ事実が初めて明らかにされた。頭が下がる思いだ。
そうした家族への配慮を十分した上で、臓器提供施設は、脳死判定手続きのデータを開示し、外部の専門家のチェックを受けるべきだと考える。
厚生省は、公衆衛生審議会の臓器移植専門委員会を近く開き、一連の経過の検証やプライバシー保護と情報開示の在り方などについて検討することを決めた。最大の焦点である今回の脳死判定についても、医学的評価を行うことにしている。
これまで、現実の脳死移植を想定した細かなルール作りがなおざりにされてきたと言わざるをえない。委員会では徹底的に議論を交わし、今回のケースを土台に、きちんとした手続きのルールを作るべきだ。
報道の側も、家族の反発を招いた取材を検証し、正確な事実に基づく節度ある報道の在り方を確立する必要がある。
やっと動き出した移植医療を後退させることなく、「善意」を次につなげたい。そうしてこそ初めて、いくつもの“命のリレー”を実現させた臓器提供者の尊い遺志を生かすことになるのではないか。
(3月16日8:22)