◆3月17日付・読売社説(1)

 ◇真の「底打ち」へ雇用対策を急げ◇

 政府の景気判断には、流れの方向を大づかみにする大胆さが不可欠である。同時にその流れを確実にするための政策の裏付けが用意されなければ、無責任な予想のしっぱなしで終わってしまう。

 経済企画庁は、三月の月例経済報告で、三か月ぶりに景気の現状認識を上方修正した。昨年十二月の報告から使ってきた「変化の胎動も感じられる」という部分に代えて、「このところ下げ止まりつつある」と表現を一歩前進させた。

 最近発表された経済指標は、好転と悪化のまだら模様を示している。ここであえて「下げ止まり」に言及したことは、これまで景気の変化をだいぶ遅れて追認することの多かった経企庁にしては、大胆で意欲的な景気判断の変更といえる。

 問題は、どのようにして「下げ止まり」を本物にするか、である。

 財政、金融という官製の景気刺激策が手詰まり感を強めている以上、民間企業自ら企業家精神を取り戻し、自助努力によって市場を切り開くことが欠かせない。

 だが、銀行界、産業界を問わず、バブル期に水膨れ状態になった民間企業が再生を果たすには、人員削減を含む大胆なリストラが避けて通れないのも事実だ。

 わずかに兆した景気下げ止まりの“芽”を育て、着実な回復につなげていくには、「リストラ」と「景気浮揚」という一見相反する二つを、矛盾なく両立させなくてはならない。雇用面での新しい仕組みが、ぜひとも必要である。

 対症療法ではなく構造改革の出番だ。

 経済戦略会議は、先に小渕首相に提出した最終報告のなかで、産業構造の変化に応じて雇用を流動化させるために、「能力開発バウチャー」制度の導入を提言した。

 「十年以上連続でフルタイムの就業をして、現在失業中の人」が、就職のために新たな技能を習得しようとする場合には、百万円を上限とするバウチャー(引換券)を与え、大学や専門学校の授業料などをそれで支払えるようにするものだ。

 現在ある教育給付訓練制度を大幅に拡充し、求人と求職がかみ合わない「雇用のミスマッチ」解消を狙っている。

 バウチャーの支給者を百万人とすれば、この制度の導入に必要な資金は、最大一兆円となる。一部の建設関連業者を潤すだけで産業構造の改革に役立つことの少ない、旧来型の公共事業と比べれば、必ずしもコスト高の政策とはいえない。具体化に向け政府部内で検討を急いでほしい。

 技能を習得した人材を意欲的に採用する企業を増やすためには、あわせて、税制面を中心とするベンチャー企業の育成支援も急がなければならない。

 政府はすでに、情報・通信や保健・福祉などの四分野で、二年間に計七十七万人の新規雇用を創出する方針を決めている。その着実な実行も必要である。

 財政、金融という「官」のリレーでつないできた景気下支えのバトンを、取り落とすことなく、「民」の手に渡したい。

 そのカギは雇用にある。

(3月17日9:39)

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