◆4月6日付・読売社説(1)

 ◇ペイオフの強行は危険すぎる◇

 二〇〇一年四月に予定されているペイオフ(払い戻しが保証される預金の上限を一千万円とする措置)の解禁まで、残り期間が二年を切った。

 自民党や経済界、有識者などの一部からは、「ペイオフ断行は預金流出などの混乱を招き、安定感を取り戻しつつある金融システムを再び動揺させかねない」として、解禁延期を求める声が強まっている。

 これに対し、政府は、「銀行の不良債権処理を促し、経営者のモラルハザード(倫理の欠如)を防ぐために必要だ」として、予定通り解禁する方針を変えていない。

 だが、現実問題として二年後を想定した時、日本経済は本当に、ペイオフに耐えられるのだろうか。

 現実の金融システムや景気の現状は、当初見込んでいたペイオフ実施の環境と、大きく違ってきている。

 第一に、銀行経営の健全化が大幅に遅れた。大手行への公的資金注入が決まったのは先月で、ペイオフの前提となる不良債権の抜本処理はようやくこれから始まる。二年後の完全処理が見通せる状況にない。

 第二は、マクロ経済である。小渕内閣は二年間で経済再生を図るという目標を掲げている。仮に首尾よく不況から脱出できた直後にペイオフを実施しては、病み上がりの景気にかかる負担が大きすぎる。

 日本には企業の預金も含め、一口座で一億円を上回る預金が、百兆円以上もあるといわれる。それらが、より経営が健全な銀行に競って預け替えされる結果、金融不安をあおるようなことがあれば、景気が底割れしない保証はない。

 実務的な問題点も浮上した。

 ペイオフ実施には、一人の預金者が複数名義で預けている預金を「名寄せ」することが必要だが、口座数が多い大手行では、気の遠くなるような時間と人手がかかる。ペイオフ制度がある米国でも、ごく小規模の金融機関が破綻(はたん)した場合の処理にしか、ペイオフは使われていない。

 速水優・日本銀行総裁も先月末の国会答弁で、ペイオフとは別の新たな預金者保護の枠組みづくりを提案し、予定されているペイオフ制度が預金者保護の仕組みとして万全ではないことを、暗に認めた。

 確かにこれまで、「二〇〇一年四月」というペイオフの解禁期日が圧力となって、銀行の不良債権処理やリストラを後押ししてきたのは、事実だ。ペイオフ解禁を見合わせることは、経営者のモラルハザードを助長する恐れがないとはいえない。

 しかし、公的資金注入が決まり、経営健全化の手を緩める大手行には、政府が株主として権限をふるうことも可能になる。モラルハザードを許さない“装置”が銀行経営に組み込まれたともいえるわけで、注入以前と状況は変わってきてもいる。

 日銀の「三月短観」で企業の景況感が改善するなど指標に明るさも見え始めた。

 金融再生委員会と大蔵省、日銀はこの機を逃さず、二〇〇一年四月以降の預金者保護のあり方を早急に詰め、責任を持って、国民の前に提示しなければならない。

(4月6日8:44) Copyright 1999 The Yomiuri Shimbun