◆5月10日付・読売社説(1)

 ◇コソボ解決の道を混迷させるな◇

 ユーゴ空爆を行っている北大西洋条約機構(NATO)軍機が在ベオグラードの中国大使館を誤爆し、館員らに多くの死傷者が出た。極めて不幸な事件である。

 中国政府は怒りを込めて非難している。NATO側は「意図的に標的としたものではなく、残念な誤りであった」と釈明するとともに、犠牲者とその家族、中国政府に哀悼の意を表明した。

 ここまでは被害者、あるいは加害者としての当然の反応であり、姿勢といえる。大事なのはこれからの対応である。

 中国も、米英などNATO主要国も、そしてコソボ紛争の調停者としての役割を期待されているロシアも冷静に事件を収拾することで、国連安保理における大国間の亀裂拡大を防ぎ、紛争をすみやかに政治解決のレールに乗せるべきである。

 NATO軍による民間人や施設への誤爆は過去にも繰り返されている。死傷者数などの比較では、より悲惨な事例も少なくない。ただ今回の中国大使館誤爆の政治的衝撃度は、今後の紛争解決努力に及ぼす悪影響という観点からは極めて大きい。

 先週、日米欧にロシアも加わった主要八か国(G8)が外相会議を開き、コソボ紛争の「政治解決の原則」で合意した。

 コソボにおける〈1〉暴力と抑圧の即時停止〈2〉軍、警察、民兵の撤退〈3〉国際的文民・治安駐留組織の展開〈4〉難民の安全で自由な帰還――などの七項目である。

 今後、G8外の唯一の安保理常任理事国である中国の同調を得て、この合意を安保理決議として採択する運びが期待されていた。そうなれば、国連尊重・大国協調の枠組みの中でコソボ紛争収拾の国際的努力の歯車が動きだすことになる。

 その矢先に起きた大使館誤爆で中国の態度が硬化することは避けられまい。

 安保理での拒否権を持つ中国が抵抗して安保理決議の採択が遅れれば遅れるほど、コソボ紛争収拾のための国連努力は足踏みすることになる。

 私たちは、そのような事態に陥ることを懸念する。中国大使館の犠牲には大きな同情を寄せる。同時に、中国が事件への怒りのゆえに、G8合意で生まれようとしているコソボ紛争政治解決の道を混迷させることのないよう強く願っておきたい。

 NATOは、コソボ紛争の元凶はユーゴスラビアのミロシェビッチ大統領であるとして、ユーゴ空爆を正当化している。

 コソボ紛争の最大の責任が同大統領にあることは確かだ。だがNATO軍事行動の目的の正当性が、結果の責任をすべて免除してくれるというものでもない。

 NATO軍は、中国大使館以前にも、コソボやそれ以外のユーゴ各地で、民間の列車や難民の車列、病院などへの誤爆を引き起こしている。死傷者も多数出ているようだ。NATO支持者でも、そのニュースに心を痛めない者はいなかろう。

 NATOは誤爆防止のための真剣な取り組みを行うべきだ。民間人犠牲の拡大はNATO軍事行動への疑問を起こさせ、国際世論の支持を後退させることになる。

(5月10日8:26)


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