<1998年秋から2000年までのみちこの句>


    1998年秋〜


    柿の実のまだ青きとき初吟行

    秋興や今公園に天と我

    寒菊や廃墟の庭を明くして

    むらさきの実の妖しかり冬木立

    群れなしていて声の無きウサギかな

    日溜まりに鼻風邪気味も心地良し

    悴みて玻璃越しに観る雲南の書




    1999年


    ほろ酔ひの目には寒灯増えて見へ

    冬ざれに心の色を探しをり

    風邪に伏す夫の鼾や米を磨ぐ

    春昼の百八煩悩茶を啜る

    願はくば今宵だれかと花の宴

    春風の吹きて駱駝の瘤光る

    河馬もまた欠伸している春の午後

    山羊に餌やる子と母と春の風

    手折り来し花呉れ賜ふ午前様

    箸置きをガラスに替へて初夏の卓 (NHK俳句王国全国大会で入選)

    暗がりの香りの主やリラの花

    夏空や若さの欲しきときもあり

    釈迦生まれ我らも生まれ時流れ

    柿雄花落ちる一瞬間の有りて

    夕映えを肴に一献夏めきぬ

    青梅や想ひは特急亡母のもと

    二千億の星々いずこ梅雨夜空

    目の合ひてちと恥ずかしき大鯰

    昼寝する海馬の夢は広き海

    車窓よりちらりちらりと秋見つけ

    母逝きし日にも咲きをり秋桜

    呑み疲れ詠み疲れして秋の旅

    参道を登りつめればうろこ雲

    わが夫の優しさに似て薄紅葉

    秋の灯にかざすわが手の父に似る

    身に沁むや母の形見の琴の爪

    行く秋や箪笥の奥の白き足袋

    個性(さが)曲げることも難し吾が秋思

    木蓮の冬芽それぞれ天を指し



    2000年


    寝不足の小皺も増えて初化粧 (初句会: 兼題 /初、雪、寒 )

    初写真ほろ酔ひ気分の抜けぬまま

    諍ひしあとの気まずさ寒の雨

    酒幕の灯想ひ惜しむや二月尽 (句友礼子さんが酒幕を閉鎖したとき)

    残雪や夫と手をとる下山道

    青空を丸く切り取り王の陵

    王も妃も静かに眠れ春御陵

    王陵を東に西に春疾風

    白木蓮咲きて華やぐ視界かな

    春色のスカーフそよぐ今朝の路

    曇天を支へて茂る青葉かな

    青葉風バンジーの娘が宙に跳ぶ

    皆くぐれ万緑のもと不老門

    梅雨薄日差して不老の門潜り

    新茶をばいれて話の弾みけり

    籠枕夫と取り合ふ日曜日

    イーゼルの主待つ部屋青葉風

    わが心海に放ちて七夕夜

    あの月にこの地球(ほし)の影夏夜空 ( 7月26日月食の日)

    寝転びて夏の休暇は地図の上

    くっきりと白さ眩しきビキニ跡

    炎天の庭の一隅古タイヤ

    炎天や影から影へ急ぎ足

    快テンポエアロビクスで光る汗

    韓の友踊るマダンの蝉時雨

    ふるさとに兄とおとうと赤トンボ

    長椅子に憩ひて知りぬ秋の風

    爽やかな風捉へゆく午後の街

    人波に逆らひ歩く秋思かな

    チリリンとグラス鳴らして良夜かな

    子のいない夫婦の夕餉秋茄子

    秋天や呵呵大笑の人と居て

    口髭を整へ夫の秋深む

    露天風呂月に映えたる妹(いも)の背な

    おしどりやいつか一人になる準備

    木枯しや記憶薄れしヒトゲノム

    凍て晴の空に聳ゆる仁旺山

    慶福宮マフラー欲しき吟行日

    軋し軋しと雪踏み歩く過去までも

    三界に家なき妻や冬銀河

    淡雪やくるくる廻はる赤き傘

    淡雪の解けて睫毛を濡らしをり

    きのふより野鳥よく来る枯木立



    <その他諸々句>

    夕焼けをもっと見たくて遠回り

    夕焼けを何度も覗く厨窓

    弟は三児の父よ赤とんぼ

    キッチンは私のお城夕焼けて

    古里へ帰る日来る日蝉しぐれ (八月九日帰省)

    貰ひ泣きして南北の蝉しぐれ (南北離散家族の出会いをテレビで見て)

    バロックのチェンバロ響く夜半の秋

    朝寝する吾を起こすか法師蝉

    盆の月もてなし上手は下戸なりき (永守さんの奥さんに)

    盆の月身世打鈴の人と愛で (「身世打鈴」の作家・姜さんと)

    秋の蝶地蔵の肩に一休み

    鷺草は白き花なり哀しかり (久留米を発つとき)

    野分去り韓半島の夜明けかな

    野分去り朝白みゆく刻々と

    秋風や形見となりし古眼鏡

    遺されし古き琴爪暮の秋

    涙腺の緩みし夫と十三夜 (結婚記念日に)

    身に沁みて抓む鮨なり記念の夜

    妻の座の三十年や秋深む

    夫の髪少し切りやる夜長かな

    戯れ言を言ひて更けゆく秋の夜

    十ばかり青きを見つけ花梨の実

    蔦紅葉絡めて古き石の橋 (全羅道・順天仙厳寺)

    天上の星を数へし紅葉の夜

    秋天や轟き去りぬジェット音

    「人」を詠む

    人来ると嬉しき知らせ大根焚く

    握手して別れし人や萩の夜

    人待ちの夕暮れ嫌ひ散り紅葉

    大根焚く夕暮れそぞろ人恋し

    麗人と呼ばれし友と秋惜しむ

    湯豆腐や格子を開けて粋な人

    情厚き人の集ひや秋更けて


    ☆「色」を詠む

    銀翼の一途に向かふ冬茜

    パステルは三十六色冬菜描く

    群れ鳥はお山の森へ冬茜

    寒風に晒して帰へる赤き鼻

    凍てかへる紺青の空銀の月

    出されしは銀のお皿に冬いちご

    めかし込み出かける夜や緋のマント



    けふ一日海鼠となりぬ心地かな

    焼きいもが今日のお土産夫帰る

    キムジャンや韓のをんなは逞しき

    鰭酒や静かに流る韓の琴

    山行けば白く飛び飛ぶ冬の雲

    数へ日や十二支そらで誦じる子

    まなうらの母は晴着を縫ひ給ふ

    夕まぐれ何処かで落葉焚く気配

    イヤリングひとつ無くして年の暮

    しみじみと酌み交はしたる年の夜

    美酒酌めば秀句生まるる年一夜

    花の水替へて淑気の高まれり

    教へ子も親父顔なり年酒酌む

    バンドエイド貼りて四日の無精妻

    暮れなずむ空を映せし氷面鏡

    降る雪に術後の友を見舞ひけり (徐教授を見舞う)

    人日や笑ひこらへて病室に

    初場所の実は気になる桟敷席

    街路樹の影の淡さや春浅し

    淡雪やいまだに解けぬ蟠り

    満月の朱色に光る余寒かな (陰暦一月十五日)

    薄氷を照らしてあかき今日の月

    浅春や嬉しきまでにまろき月

    微笑みが挨拶代はり春の朝




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