みちこの俳句十選


    1999年
    ほろ酔ひ


    柿の実のまだ青きとき初吟行

    秋興や今公園に天と我

    地球といふ星平和なれ秋祭り

    寒菊や廃墟の庭を明くして

    日溜まりに鼻風邪気味も心地よし

    冬ざれに心の色を探しをり

    ほろ酔ひの目には寒灯増えて見へ

    風邪に伏す夫(つま)の鼾や米を磨ぐ

    襟足のうぶ毛の先に春の風

    真夜中のカーテン揺らす風は春




    2000年
    二千億の星


    掴まらず逃げの一手の柳絮かな (柳絮りゅうじょは柳の綿毛のこと)

    柿雄花落ちる一瞬間の有りて

    青梅や想ひは特急亡母(はは)のもと

    二千億の星々いずこ梅雨夜空

    目が合ひてちと恥ずかしき大鯰

    車窓よりちらりちらりと秋見つけ

    旅立ちの朝(あした)カンナの赤く燃え

    秋の灯にかざす吾が手の父に似る

    行く秋や箪笥の奥の白き足袋

    木蓮の冬芽それぞれ天を指し




    2001年
    ほろほろと


    大き靴小さき靴有り年賀客

    淡雪やくるくる廻る赤き傘

    春めくやふるさと遠き博多帯

    もくれんの花を灯りの散歩かな

    わが心海に放ちて七夕夜

    炎天の庭の一隅古タイヤ

    子のいない夫婦の夕餉秋なすび

    口髭を整へ夫の秋深む

    おしどりやいつか一人になる準備

    ほろほろと酔ふて候ふ温め酒




    2002年
    ことば紡ぎ


    漱石に欠伸貰ひて日永かな

    春宵や猫には猫の行きどころ

    母の日や母とはならず母は無く

    静けさや般若波羅密多とんぼ飛ぶ

    だれか居るしあわせ月はまんまるく

    ゆるやかにワイパー動く秋思かな

    カモメカモメ飛んで干潟のいわし雲

    この夫(つま)にこの妻ありて菊日和

    冬の街ことば紡ぎの糸探す

    熱燗を酌めば老父は饒舌に




    2003年
    海のことば


    半月の梢にかかる余寒かな

    握る手のぬくもり嬉し木の芽風

    リンゲルの音無く落つる日永かな

    今生の旅の終りも夕焼けて

    ブラームス聞き惚れなほす夜半の秋

    潮騒に九月の海のことば聞く

    幸福(ヘンボク)という名の漁船秋日中

    部屋に灯を点し人待つ暮の秋

    降り止みて宵の路面の暮秋なる

    オンドルに馴染み過ぎたる異邦人



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