ゲゲゲの鬼太郎
たつやくんは、小学5年生。口数も少ない、おとなしい子です。
なかなかピアノも上手で、練習も頑張ってしてきます。ただ、少し足りないものがあります。
積極性です。「こんな感じかなぁ」と、漠然と弾いているので、訴えかけるものが感じられないのです。
そんな たつやくんの お気に入りは”フードのついたトレーナー”です。
ある日のこと、寒かった様子で、たつやくんは、フードをかぶって教室に現れました。
その姿を見て、私は あることに気づきました。フードをかぶった、たつやくんの顔は、
「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する、”ねずみ男”そっくりだったのです。
私は 自分の その思いつきに、笑ってしまいました。たつやくんは、私が何故 笑っているのか解らず、
怪訝そうな顔で私を見ました。その顔を見ると、私は ますます笑ってしまいました。
その日は、いつものように レッスンを終えて、たつやくんは帰っていきました。
次の週です。たつやくんは、また、フードのついた洋服を着てきました。フードは、かぶっていません。
私は、もう一度 たつやくんのフードをつけた顔が見たかったので、「ちょっと・・・」と言って かぶせました。
顔を見た私は、またまた笑ってしまいました。何度見ても、やっぱり、”ねずみ男”なのです。
笑いながら、楽しくレッスンをして、その日も、たつやくんは、帰っていきました。
さあ、また次の週です。その日も たつやくんは、例のトレーナーで現れました。
まずい・・・
私は、堪えきれず、大笑いしてしまいました。そこまで笑われると、たつやくんも黙ってはいません。
先生、この前から、なにを笑っているのさ!!
いつもの おとなしい感じのたつやくんでは、ありません。私は、正直に言いました。
たつやくん、ちょっと、それを被ってみせてよ。
と、フードをかぶせ、笑いながら たつやくんに説明しました。
たつやくん、「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる”ねずみ男” そっくりだよ
私は 涙を流して 笑いつづけました。お腹をかかえて、笑いました。気がついて たつやくんを見ると
今まで、見たこともないような 険しい顔でした。そして、ピアノを弾き始めました。
すごい勢いで、弾きました。力強い、たくましい音色でした。
子供を見て、つい笑ってしまった私は、講師としては失格です。でも、いつものように ただ、ピアノを弾かせていても
この時の たつやくんが 弾いた 勢いのある 演奏は聴くことは出来なかったでしょう。
それから、たつやくんに、そんな音色が欲しい時、”ねずみ男”のことを言うようになりましたが、
効き目があったのは、ほんの2,3回でした。
先生は、よっぽど ”ねずみ男”が好きなんだね
たつやくんが 呆れ顔で私に言った時、もう新しい方法を 考えないといけないな、と思いました。