寿永の昔のことである。
「おごる平家久しからず」、のことばそのままに、
さしも栄えに栄えた 平家が運つきて遂に源氏のため、
はかなく西海の藻屑と消えてから間もない頃であった。
ついぞこの辺りには見かけない五人の美しい姫たちが
どこからともなく流れて来て、 この砂浜にささやかな住居を作って
暮らしていた。
付近の人々は「あのお姫さんは皆お顔がよく似ている。
御姉妹かも知れない」
「羽衣をなくして飛ぶことを忘れた天人ではあるまいか」
「いや、さき頃壇の浦で亡んだ平家のお姫さんたちに違いない」などと
いろいろうわさを していたが、
姫たちは五人とも決して村人と口をきかないので、
それを確かめることはできなった。
ある日、一匹のかにが濡れた背を赤く光らせながら浜辺をはっていた。
ふとそれを見つけた一番年上の姫は、「まあきれいなかにだこと・・・・・
お前は平家のかにでしょう。
平家の赤いみ旗が夕陽を浴びて、お前のように真赤に輝いている間は・・・。
それにつけても憎いのは源氏です。
お父様もお兄様も、あの荒々しい源氏のために
あわれな御最期を遂げられたのです。
赤い平家のかにがいるからには、きっと白い源氏のかにもいるにちがいない。
ああ源氏のかにはどこにいるのでしょう。あの白い源氏のかには・・・」と、
はるか海のかなたを見つめて気が触れたかのように叫びつづけた。
そして、驚いてかけ寄った四人の妹たちを見るなり、
赤く血走った眼をそそぎながら
鋭い声でお前たちは早く源氏のかにを探しておいで。
わたしはそのにくい源氏のかにを
踏みつぶしてやるから」といいつづけた。
四人はいいつけられたとおり一日中探したが見つかるのは赤いかにばかりで、
白いかには一匹も姿を見せなかった。
あくる日もその次の日も朝から晩まで四人は浜へ出て砂を掘ったり
石をおこしたりして一生懸命探したが駄目であった。
七日日の夕方、もどかしそうに妹たちの帰りを待っていた姉姫は、
疲れきって しおしお帰って来た妹たちを見て
「四人がかりで一匹のかにが探せないのは どうしたのですか。
恐らく一日中遊んでいたのでしょう。
さあ、もっと探しておいで・・・」と、言葉きびしく叱った。
夏の夜の海は潮がいっぱいなぎさに満ち、
月がぼんやり波間を照らしていた。
姫たちは夜どうし白いかにを探してまわったが、
やっぱり見つけることはできなかった。
四人はそのまま帰ることもできないので、相談の結果、
赤いかにに白粉をつけて
持ち帰ることにした。
「お姉様、お喜びくださいませ。源氏のかにが見つかりました。」
そう言って差し出した白いかにをじっと見つめていた姉姫は
やがて気味悪い笑みを浮かべ、 あたりを見回して手をさしのべ、
かにをつかむが早いか庭の手洗鉢へ投げ込んだ。
するとかにの白粉はたちまちとけてもとの赤いかにになってしまった。
それを見た姫はそばにあった刀をとると一番末の姫に切りつけた。
この恐ろしい有様に 三人の妹姫は「あれ・・・」と叫んで外へ走り出た。
そして「お姉様どういたしましょう。
もう帰ることはできないし・・・」
「三人いっしょにこの海に沈んで、お父さまやお兄さまのお側へ行きましょう。」と
中で一番年上の姫が目に涙をいっぱいためて言った。
そこで三人はしっかりと抱き合って暗い波の底へ沈んでしまった。
その夜一人残った姉姫は、殺した妹の死がいを抱いて「憎い源氏を討った」と
叫びながら浜辺をかけ回っていたが、やがてとある岩の上に立って
「ああ、あそこに妹たちがいる。」といってそのまま海へ飛び込んだ。
月は早くも西に落ちてあとにはただなぎさを洗う波の音だけが暗やみの中にしていた。
こうして亡くなった五人の姫たちが、それぞれ赤・緑・黄・黒・白と五色の
小石に化したのであるという。五色浜には今も美しい五色の小石がある。
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