暗い男
彼は下ばっかり見ている男の子だ。もちろんいじめられている。下ばっかり見ている子というのは、他の子からすればいじめずにはおけない存在なのかもしれない。彼は生まれたときから下を向いていたのかは誰も知らない。それについて、語ろうとするものがないのだ。ただ、皆の心には彼が下を向いているところしか残っていなかった。
彼は毎日のようにいじめられた。彼はただ下を見ているだけだ。抵抗することはない。「お前はいつも下ばっかり向いて、周りが暗くなるからやめろよ!」これはいつも繰り返される言葉。ここからいじめが始まっていくのだ。しかし、この日はいつもと違った。ついに、彼の逆襲が始まったのだ。「そこは去年の5月23日にB組の東條君が給食を吐いた場所だよ。」はじめ誰もこの言葉の意味がわからなかった。「田口くんが立っているところは今年の3月15日に鼻血がこぼれてた場所だし、関根くんのところは水が溜まってて蛆がわいていたところだよ」
そう、彼は暗くて下を向いているのではなかった。地面におきたあらゆることを記憶している少年だったのだ。
以後、彼はいじめられることはなかったが、友人ができたということもない。彼の頭の中には、地面に起こったことが、正確に刻まれていくだけなのだ。