僕はくまちゃん
僕はくまちゃん。さくちゃんのお友だち。
僕はさくちゃんが大好きだし、さくちゃんだって僕が大好きだ。
でも、ずーと一緒にいられないんだって。ママが言ってた。
さくちゃんは“人間”だから、僕と一緒に居れない時間があるんだって。
けど、僕はさくちゃんが大好きだから我慢するんだ。
でもね、でもね。
こんどはさくちゃんが“大人”になるから、もっと一緒に居れないんだって。
あんなにいっぱいおしゃべりしたのに、あんなにいっぱい遊んだのに。
さくちゃんは“大人”になって、僕は“くまちゃん”じゃなくなった。
僕は“クマのぬいぐるみ”なんだって。
ふかふかして、中に綿が詰まってて、生きていない、ただのぬいぐるみ。
お友だちじゃないんだって。
ねえ、さくちゃん。僕は生きてないの。楽しかった毎日は偽りなの。
さくちゃんは“大人”になって僕らの部屋から出ていった。
部屋にはさくちゃんの匂いと思い出だけが残った。
夕日がさくちゃんの影を消すようで、僕はたまらずさくちゃんを追いかけた。
皆が驚きの顔で僕を見たけど、僕はかまわず走った。
僕は蹴飛ばされたり、車に跳ねられたりしたけど走った。
時々綿がこぼれていった。それでも僕は走った。さくちゃんに会いたかった。
2日走って、僕はさくちゃんを見つけた。
さくちゃんは“大人”になってるけど、僕の大好きなさくちゃんだ。
「さくちゃん僕だよ、またお友だちになってよ!」
さくちゃんは僕を抱きしめなかった。昔毎日してくれたように。
そのかわり、目を大きく見開いて悲鳴を上げて、振るえながら倒れた。
僕は何がなんだかわからなかった。
腕がちぎれかかってるから?綿が飛び出しているから?
僕は悲しかったけど、救急車を呼んだ。
それから、救急車が来るまでさくちゃんの横で泣いた。
そしてさくちゃんは病院へ行った。
さくちゃんはあまり病院が好きじゃなかったからかわいそうだな。
僕も一緒に行きたかったけど、あまりにも疲れていて立ち上がれなかった。
僕は眠かった。
夢で僕はさくちゃんと一緒に暮らしてた。昔と変らずに。すごく幸せだった。
僕が最後に味わった幸せはあの夢だ。
僕は今、暗い部屋に居る。
さくちゃんと僕の部屋とは比べようもないほど寂しい部屋。
そこにはたくさんの人形や、ぬいぐるみがいる。
皆が誰かを待っている、そういう部屋。
僕も毎日、さくちゃんが迎えに来るのを待っている。
楽しかった毎日を思い出して。さくちゃんの顔を思い出して。
時間だけが僕にはたっぷりある。考える時間が。
“大人”って何だろう。なぜ僕は“くまちゃん”じゃなくなったのだろう。
さくちゃん“大人”って何?昔みたいに僕に教えてよ。
「おばかさんねぇ・・・」って、僕の頭をつついて笑ってよ。
さくちゃん、ここは暗くて寂しいよ。早く迎えに来て。
僕はさくちゃんのことを考えながら待っている。
毎日お坊さんの退屈なお経を聞きながら。