| 書 評 コピ−ライタ− 海 津 実 |
一方には、事実や真実をさえ蹴散らかして、暗雲に突き進もうとする”時代”がある。しかし、そんな激動の中を泳ぎながら、人は決まって、戸惑ったような表情を見せていないだろうか。何か、どこかに”大きな忘れもの”をしているのではないかと、胸がうずくことも少なくない。
中国残留の人々にまつわる課題も、そのひとつだ。戦後半世紀を過ぎてなお、報道は思い出したように取り上げ、テレビの前の私たちは、大きな忘れものをしている人特有の顔つきをする。それでいて、解決に向かおうとする歩みは遅く、関心も他人事として遠い。日常に追われて風化の一路をたどってきた。
著者は一地方議員として、この中国帰国者問題に関わり、以来30数年、地道ながら積極的な活動を続けている一人だ。親しく帰国者たちと出会い、中国を訪れ、関係者と語り、時代から忘れられた人たちの眠る方正や麻山の日本人公墓にもたたずむ。ある中国残留婦人がもらした「どうしても言いおきたいことがあります」という言葉は、今や著者自身の思いにもなった。その視点には、人としての情と社会的な知がさりげなく重なって、多くの共感を呼ぶ。
この一冊は、まさに歴史の当事者であった人の手記と、著者が現地をこつこつと旅して集めた証言、そして裏付けとなる参考資料から構成されている。中国残留者問題に関心をよせる人々と、それ以上に多くの”忘れ物”が気がかりな人々に、さまざまな波紋を投げかける。
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