作品名:『悪魔』 製作 : 97/01/15(2KB) 作者 : アキレウス 氏 形態 : ショートショート 「貴方の願いを叶えて差し上げます。」 男はそう告げた。 「冗談だろう?」 取り合うだけばかばかしいと、最初は思った。 「いえいえ、貴方の願いを、一つだけ、その通りに叶えて差し上げます。」 男はにこにこしながら、そう繰り返した。 「お前、ひょっとして悪魔というやつか?」 「はい、さようでございます。」 馬鹿にしたつもりで言ったのに、真顔で答えられてしまった。 そうか、それならこちらもそのつもりでからかってやろう。 「とすると、魂を取ったりするのか?」 「いえいえ、そのような事はございません。それは私どもの崇高な行いを妬む輩 が流した噂でございます。」 ふぅむ。どこの世界もそういうものか。 「では、なにかしかけがあるんじゃないのか? 美女をくれと言ったら”昔は美 女だった”とか、”美女が現れただけ”とか。」 「いえいえ、滅相もございません。そのようなデマをお信じになられてはなりま せん。私どもは誠実をモットーにしておりますので、お約束した願いごとは必ず その通りにお果たし致します。」 妙に律儀な奴だな。 「だが、その他にもしかけはあるだろう。カネが入って来ても、使えなくなると か、周りの奴に奪われるとか、逐われる立場になって殺されるとか。」 「いえいえ、とんでもございません。私どものアフターサーヴィスは万全でござ います。お客様がそのようなトラブルに巻き込まれないように細心の注意を払う のも私どもの仕事でございます。」 相変わらずにこにこしていやがる。 どうやら、思ったよりも悪い話ではなさそうだ。 それなら願い事はいくらでもある。カネ、オンナ、力。 そうだ、力。俺に悪魔の力が宿れば、如何なる奴も俺にひれ伏すに違いない。 が。本当にそんな事があるのか? 俺はからかわれているのでは無いか? 「では、何故俺なんだ?」 「皆さまそうおっしゃいますな。無論、私どもも暇ではありません。願い事がお ありで無いというのであれば、これでおいとまさせて頂きます。」 俺はしばらく考えた。ここであっさりと応じてしまうのは得策では無い。 そうだ。少しつり上げてやろう。俺に価値があるというなら売り込んでやる。 「そうか、ならば姿を消すが良い。」 次の瞬間、男は消え入るようにその場からいなくなった。 「任務、完了しました。」 「ご苦労。....まったく、人間という奴は疑り深く、こざかしくなったものだ。 だが、これであの男の欲望を虚しく解放する事が出来た。やつめ、きっと今頃は 愚かしい破壊の限りを尽くしておる事じゃろうて。さてさて、どのくらい恨怒悲 哀を起こしてくれる事じゃろうな。何一つ使わずに負力が入るわけじゃからな。 考えようによっては、楽な時代になったものじゃよ....」