作品名:『行列戦隊ニホンジン!』
  製作  : 96/09/18(4KB)
  作者  : 瞳夢  氏
  形態  : 超短編


 ある日僕は、新宿のアルタ前で行列を見つけた。どうやら何かの順番待ちらしい。
今人気のラーメン屋か何かだろうか。
 凄い列である。どこが先頭でどこが最後尾なのかも分からない。
 今僕は新宿駅アルタ前にいるが、列は紀ノ国屋書店方向と新大久保駅方向の二方向
に伸びていた。人は皆、紀ノ国屋書店方向を向いている。
 僕は俄然興味をそそられ、先頭に何があるのか知りたくなった。
「先頭はどこだろう……」
 もしかしたら、先頭は紀伊国屋書店かも知れない。あそこが何かイベントでもやっ
ているのだろう。
 僕は紀ノ国屋書店に向かおうとした。
 が、歩き出す直前、少し迷った。このまま先頭に行ってしまっていいのだろうか。
 もし、もしもだ。先頭にもの凄い面白い物があったとして、その面白い物を販売し
ていて、僕がそれが欲しくなったとしたら、僕は確認した後、この列に列ばなければ
いけなくなる。
 とするとだ。これほど人気のある列なのだから、今もきっと増え続けているだろう。
そうすると、僕が先頭を確認してその後最後尾に付くまでの間に、かなりの数の人間
が増えてしまうことになる。
 まっすぐ最後尾に列んだ方が得策だ! 僕はそう考え、紀伊国屋書店とは反対方向、
新大久保駅方向に歩き出した。
 列はアルタ前を通り過ぎ、陸橋を渡り、新宿駅をぐるりと一回りして甲州街道にま
で及んでいた。僕はさらにその列の最後尾を目指した。列は延々続き、最後尾は都庁
前の交差点付近だった。
 そこにプラカードを持った男がいて、
「最後尾はこちらです!」
 と叫んでいる。プラカードには《会場までの待ち人数15358人》と書かれてい
た。よくもまぁ、そんなに列んだものだ。数字の部分は電卓のようになっており、一
人増えるごとに一つカウントアップされる物らしい。
 僕はプラカードの男に近づき、
「これ、何なんですか?」
 と尋ねた。しかし男は、
「いや、僕も客なんですよ。最後尾の人はこれを掲げて、通行人に最後尾を知らせる
規則らしいんです。あ、そのボタンを押せばプラカードの人数表示が増えるので、押
すことになってるそうです」
 男はプラカードを僕に押しつけ、列に列んだ。
 僕は仕方無く、ボタンを押して数字をカウントアップさせ、プラカードを手に持っ
た。
 こんな人前で、大声を出さなければならないのかと思うと少し恥ずかしかったが、
これに列んでいる人はみんなやっている事なのだ。まあいいだろう。
「最後尾はこちらです!」
 男と同じように叫ぶ。
 一分も経たないうちに一組のアベックがやってきた。平凡な顔の男とべっぴんの女
だった。
「これ、何の列ですか?」
 女が訊いてきたので、さっきと同じように説明してやる。すると女は彼氏にプラカ
ードを持たせ、二人で列に列んだ。
 それから、僕は待った。三十分、一時間、一時間半。しかし、一向に列は動き出さ
ない。全く。いい加減少しずつ動き出してもいい頃だが、列はピクリとも動かない。
誰かがせき止めているんだろうか。
 ストレスも溜まってきていた。イライラして、タバコの本数が増えてきた。
 だが、ここで列を抜けて先頭の様子を見に行ってしまえば、また最後尾行きだ。何
せ、最後尾は僕が列んだときよりも更に数百メートル後ろにある。列び直しはあまり
にもつらい。
 二時間経った頃、タバコが切れ、同時に僕の我慢も臨海点に達した。
 もう我慢できない! 先頭に行って文句を言ってやろう!
 僕は、清水の滝(舞台でなく滝だ)から飛び降りるような気持ちで列を抜け、先頭
に向かって歩き出した。
 陸橋を越え、アルタ前を通り過ぎ、そして、紀伊国屋書店へ。しかし、列はもっと
先だった。そこから歩いて数分。丸井デパートの交差点に、先頭があり、またもやプ
ラカードを持った男が、
「開会までもうしばらくお待ち下さい!」
 と叫んでいた。
 しかし、男が立っている以外には特にそれと言ったものはない。場所からして丸井
のイベントなのだろうが、丸井に何か垂れ幕か看板があるわけではないし、近くの建
物にそれらしき物もない。
 僕は不審がりながらその男に近寄り、
「あの〜、いったい何があるんですか?」
 と尋ねた。すると、男はニヤニヤしたまま、
「それが教えられないんですよ。最後尾でお待ち下さい」
 とだけ言った。
「いや、僕はもう並べないんで。お願いします」
 すると男は、
「仕方ないですね。もう列ばないですね? これを聞いたらもう列んじゃダメですよ。
約束できますか? 絶対ですよ?」
 と、何度も念を押してきた。
 首を縦に振るのに勇気が必要だった。こんなに人気のあるイベントを、逃してしま
うのは惜しかった。
「は……はい……」
「分かりました。ではお教えしましょう」
 男はだいぶ勿体付けた調子でそう言い、コホンと咳払いしてこう言った。
「列に何人列ぶか、調査してるんですよ」
 僕はげんなりした気分になった……。