作品名:『真夏の思い出』 製作 :96/09/16(2KB) 作者 :おじゃ 氏 形態 :超短編 <真夏の思い出> 「今日は何をして遊ぼうか」 公園では、子供たちがそんな話をしていた。1学期も終わりっ て夏休みに入ったようで、何だか羨ましい。宿題はどうしてい るのだろうか、そんな事は自分の心の中を覗けば全てわかる。 ぱっと散る子供たち、そんな中に1人、残された少年がいた。 声をかけても振り向きもしなくて、寂しそうに家路を辿っていっ た子供、何だか妙に引っ掛かる。同じような経験をしたような、 そんな記憶が心の傷を疼かせていた。少年時代の傷は、なぜか 一生残ってしまう。こうして今でも・・・。 昨日見た少年は、今日は公園に居るだろうか。私はそっと昨 日座っていたベンチに腰を降ろし、目を閉じた。自分の少年時 代の思い出がそこにはあった。ベンチは思い出再生機となり、 私を少年に戻してゆく。 今日は、秋の思い出、冬の思い出、春の思い出にひたってい たのだが、どうやら真夏の思い出はどこかに落としてしまった ようだ。どうしても思い出せないのである。 目を開けた時、昨日の少年が私の前に立っていた。心配そう な顔で私を見つめていたので、私は言った。その言葉は、どこ かで聞いた事があった。そう、私がまだ少年の頃、ベンチに一 人座っている老人から。少年は、にこっと微笑み、私と指きり をした。少年はきっとわかってくれただろうか。そしてまた思 い出にひたる為、私は目を閉じた。 私の落としたはずの思い出は、心の傷に重く引っ掛かってい た。傷がふさがらない理由はそこにあった。そして拾いあげた 思い出は、どこかに落ちてしまわないように、心の奥にしまっ ておく事にした。いつでもその思い出にひたれるように。