作品名:『ペンギンのペンペンちゃん』(5) 〜遠い星から来た少年 製作 : 97/07/14(8KB) 作者 : 瞳夢 氏 形態 : 連載短編(コメディ) 〜遠い星から来た少年 1 ペンギンのペンペンちゃんはイワトビペンギンである。 その『イワトビ』の名は、彼らの故郷の島の岩場を、ピョンピョンとユーモラス に飛び跳ねながら渉るところから、来ているのである。 そして彼らは、自らのこの走行法を、『スキップ走行』と呼んでいるのであるが ……。 「ん〜〜〜〜、ぐがぁぁぁぁ……!」 岩場の中腹当たりに、木の枝葉で出来た巣の中で寝返りを打ちつつ、大きないび きをかくこのペンギン――毎度お馴染みのペンペンちゃんは、それが嫌いなのであ った。 おなかの辺りをポリポリとかきつつ、 「……むにゃむにゃ……俺をペンペンちゃんと……呼ぶなぁ……」 と寝言を言う。 イワトビペンギン独特の頭の上に、円錐のナイトキャップをかぶり、服はキャッ プと同じクマさん模様の上下のパジャマ。いつもの学ランは壁にかけてある。眠っ てはいても、その怒涛のような目つきの悪さは、相変わらずなのであった……。 2 不意に、ペンペンちゃんの家の前に影が差す。 「……ここか」 顔は太陽の逆行でよく見えない。 彼は、《ガイ=ダイゴウジ》と書かれた表札(ペンペンちゃんの魂の名である) の前で、軽く深呼吸をした。 「ペンペンちゃんの家は……」 「俺をペンペンちゃんと呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!」 『ぴゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……キラリーン☆』 唐突に飛んできたアッパーに不意を打たれ、何物かはお星様になる。 「はっ!」 そして、ペンペンちゃんは我に返り、「あ、そうか。もう昼か。そろそろ起きな きゃな。ところで右手が痛いんだが、俺は寝ぼけて何をしたのだろう?」 のうのうと言い放ち、家の中に戻ろうとする。 その時だった。 「ねぇねぇ、ペンペンちゃん、僕だよ、キョクリュウだよ」 「俺をペンペンちゃんと呼ぶなぁぁぁぁぁ!」 二度目の一撃。 『ぴゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……キラリーン☆」 「ふぅ……。ま、どうせそのうち戻る――」 「痛いよ、ペンペンちゃん」 「のあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」 髪の毛を逆立てて驚く。「殴られはずのてめぇが、何で家の中にいるんだ!」 「えー? どうしてぇ?」 「…………もういい……」 あきらめモードの彼である。 キョクリュウくんはペンペンちゃんの友達(と言うか専用サンドバッグというか) である。彼の大きく鋭い瞳に対し、小さくつぶらな瞳を持っており、性格もそれに 合わせて気が小さいのであった。 「ところでペンペンちゃん?」 「あんだ?」 パジャマをいつもの服装に着替えながら、返事をする。 「僕の友達が訊ねてきたんだけど、見かけなかった?」 「あ? 知らんぞ?」 「えー? おかしいなぁ、今日ペンペンちゃんちで、待ち合わせすることに、なっ てたんだけど……」 「おまえはどうして、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもい つもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつっっっっも!!」 ペンペンちゃんはいったん息継ぎをし、「勝手に話を進めるんだ!? 俺んちに 集まるんなら一言いえよ!」 「言ったら許してくれた?」 「……許すわきゃねーだろ」 「…………」 キョクリュウくんは目が点になる(いつも彼の目は点だが)。 「そもそも、自分ちで待ち合わせればいいじゃねーか」 言いながらペンペンちゃんは、冷蔵庫から牛乳瓶を取り出した。 『コンコン……』 入り口のドアをノックする音である。 「開いてるぞ」 ペンペンちゃんは返事だけして、構わず瓶を口に当てた。 「ど……どーも゛お゛ぞぐな゛り゛ま゛じで……」 そこには、全身あざだらけの全身タイツ男がいた。 『ぶーーーーーっ!』 「がははははははは! なにしやがんだてめーは!」 思わず吹き出してしまい、そいつの頭を殴る。 『ガツン!』 そいつはベチョッと倒れる。 「……ああ……怪我人に牛乳を吹きかけて笑い飛ばした上、殴るなんて、なんたる ひどい仕打ち……」 それは確かにひどい……。 「ど……どうしたの!?」 キョクリュウくんが慌ててそいつに駆け寄る。 「ああ? おまえの知り合いか?」 「この人と待ち合わせしてたんだよ」 とキョクリュウくんは言った。 歳は十五歳前後だろうか。人間の少年のように見える。青い全身タイツを着てお り、腰の部分がパンツの形に盛り上がっている。そして何より特異なのは、頭に 『絵本』を象ったかぶり物を、かぶっているところだ。 タイトルは、《ピクちゃんの冒険》。 「おまえさ……」 ペンペンちゃんは頭を抱え、「友達は選べよ」 「えー? どうして?」 「……もういいから帰れよ」 ペンペンちゃんは呆れて物も言えず、背中を向けたまま残りの牛乳を飲み干した。 「僕のことで誤解があるようですね」 不意に声を発したのはタイツ少年である。 「あ!?」 不信感を抱きつつ、ペンペンちゃんが立ち上がると、彼は無意味にニヒルな笑み を浮かべて立ち上がった。 「ふっ……」 「全身タイツでかっこつけるか……」 ボソリとツッコミを入れるが、彼には聞こえなかったらしい。 「僕はもとより人間ではありません」 彼は言った。 「そりゃあ……人間扱いしてもらえんだろうな、そんな格好してちゃあ」 「黙って下さい!」 彼は怒鳴ってから、「僕の名前はピクちゃんです」 「は?」 今度はペンペンちゃんまでが、目を点にする。 「何を驚いているんです? 何を隠そう! 僕は絵本の星から来た宇宙人なので す!」 「…………」 既に声も出ない。 「あ、疑ってますね。じゃあ、その証拠をお見せしましょう」 と、ピクちゃんとやらは頭の上のかぶり物に手を突っ込んでごそごそする。 「……言っとくが」 ペンペンちゃんは念を押すように、ドスを利かせて、「《うちゅうじん》とか書 いた名札を見せるだけじゃダメだぞ」 「え?」 ピクちゃんはきょとんとする。 「しかも、へったくそな字だったり、《じ》が《ぢ》になっていて、左右逆さまだ ったりしたらなおさらだ!」 「…………」 ピクちゃんは、『あっちゃ〜』という感じで紙切れを取り出し、「……もしかし てあなた、エスパーですか!?」 と、見せた紙切れはペンペンちゃんが言ったとおりの物だったりする。 「じゃかましーわ!」 ペンペンちゃんは今度はピクちゃんに蹴りを入れる。 「……い……痛い……」 「可哀想だよ。ペンペンちゃん、許してあげなよ」 キョクリュウくんが口を挟むが、 「いいんだよ。キョクリュウくん。僕は果たすべき使命を全うするまで、死んだり はしないさ……ふっ」 と、無意味にカッコつけてニヒルに笑みを浮かべる。はっきり言って、格好悪い。 「使命だぁ? よもや、地球の大魔王を倒すために派遣された、とか言うんじゃね ーだろうな。それだったら俺は信じないぞ」 ペンペンちゃんが言うと、今度はピクちゃんは驚愕したように彼を見つめ、 「……やっぱりあなた。テレパシストだったんですね……」 「…………」 しばし沈黙。 もう、どーしようもなくなってしまい、仕方なく、ペンペンちゃんはこう訊ねる。 「で! その大魔王とやらはどこにいるんだ?」 するとピクちゃんは、 「それを捜しているところだったのです。この島にいるらしいということは、分か っているのですが……。何でも、日本のテレビ業界をずたずたにした後、ラスベガ スを潰したとか。しかもその余波で世界中が大混乱に陥り、世界不況は今でも続い ていると言います……」 「…………」 ペンペンちゃんは心当たりを思いついたが、黙っておくことにした。こんな馬鹿 の相手をしてやる義理はない。 「あ、それだったらペンペ「「」 「俺をペンペンちゃんと呼ぶなぁぁぁぁ!」 思わず喋ろうとしたキョクリュウくんを、アッパーカットで遠くへ飛ばす。 「はぁ……はぁ……はぁ……。で! なんで地球の危機を絵本星人が、わざわざ地 球くんだりまで来るんだ? ウゴウゴルーガの絵本星人アワーでもあるまいに」 別に彼が宇宙人だと信じたわけではないが、本人がこう言うのだから、と合わせ てやったまでである。 「あ、それはですね。彼が子供の夢を破壊して回っている、という話でしたので」 「子供の夢?」 「はい。子供が夢見る可愛いペンギン。その像を彼は壊しているのです」 「はぁ……?」 曖昧に相づちを打つペンペンちゃん。よく分からない。 「絵本の星の人間として、そんな狼藉は「「」 と言う言葉を遮って、 「「「ンちゃんの仕業なんだ」 「え!? じゃあ、大魔王は……!?」 「…………」 要するに、戻ってきたキョクリュウくんが、ペンペンちゃんに殴られた事実はな かったかのような言葉を発し、しかもそれにピクちゃんが応じたのである。 「キョクリュウ、今テレポートして戻ってこなかったか?」 「え? そんなこと出来るわけないじゃない」 「…………」 言葉少なげなペンペンちゃんである。 「それじゃあ、大魔王の所在が分かった以上、ここで変身するしかないようですね」 ピクちゃんはまたもや、ニッと笑い、「へーんしーん! 完了!」 と両手を上に伸ばす。 「……は? どこが変身したんだ?」 全身青いタイツに絵本のかぶり物。「「変身前と変わらない。 「え? ああ、パンツの色が白から黄色になったんです。見ますか?」 「みとないわい!」 究極にまで格好悪い正義の味方である。……もっとも、この世の中で正義の味方 を名のる連中というのは、みんなこんなものなのかも知れないが。 「さぁ! 世界中の子供達の怒りを受けてみろ!」 ピクちゃんはジャンプする! 「覚悟! ペンペンちゃ「「」 「俺をペンペンちゃんと呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!」 『ぴゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……キラリーン☆』 こうして正義は敗れ去ったのであった。