作品名:『ペンギンのペンペンちゃん』(9)
  製作  : 98/05/02(12KB)
  作者  : 瞳夢 氏
  形態  : 連載短編(コメディ)

   不良ペンギンの涙 解決編

前回のあらすじ
 キョクリュウくんが、NASAへの招待状を持ってきた。
 あまりに馬鹿々々しいそのチケットを無視し、昼寝をしていたペンペンちゃんだ
ったが、次に起きたとき、そこは宇宙船の中だった。
 何が起こったのか必死に考えるペンペンちゃん。
 その耳に、一人の男の悲鳴が迷い込む。クルーの一人が、風で宇宙船の外に放り
出されてしまったのである。
 宇宙デブリという恐怖と戦いながらも、危機一髪のところで彼を助け出したペン
ペンちゃんのところへ、一枚の手紙が迷い込む。
 差出人の名前は――地球公爵。この一連の事件の、全ての謎の鍵を持つ人物。
 そして何より、ペンペンちゃんとただならぬ因縁を持つ人物であった。


   1

「おまえは……!?」
 ペンペンちゃんはその顔を見た瞬間、驚きを隠すことはできなかった。
「……言っておくが、『おまえは……!? ……誰だっけ?』というネタはなしだ
ぞ」
 地球公爵はニヤリとほくそ笑みながら言う。
 それに合わせ、ペンペンちゃんもニヤリとほくそ笑み、
「ああ。ちゃあんと覚えているさ。……第二話で俺から五十万円ふんだくられて以
来、散々な人生を送ってきた、ディレクターさんよぉ!」
 ペンペンちゃんは地球公爵――もとい、ディレクターに啖呵を切った。
「ディレクターさん!? ……ラスベガスで、奴隷商人に売られていったんじゃな
かったの!?」
 キョクリュウくんも、ペンペンちゃんの後ろに隠れながらも、息せき切って言葉
を吐いた。
 そう。彼はディレクターだった。
 第二話、第三話、と散々な目に合い、第四話のラスベガス編でついに表舞台から
姿を消したはずの男だ。
「そのとおり。私はあれから奴隷商人に売られ、ADとも真っ黒兄ちゃんとも別れ
別れになり、世界各地でまさに奴隷として働かされた。……地獄のような日々だっ
たよ。
 だが! 女神は我を忘れたもうたわけではなかった! 我が故郷でもある東京で
働くことになったとき、再び勝利を手にするチャンスが訪れたのだ!」
 言って彼は大きく手を振った。完全に陶酔状態である。
「私は、尽きることの無い、永久機関を拾ったのだ!」
「永久……機関を……拾っただと?」
 ペンペンちゃんは眉間に皺を寄せ、「どこに落ちてるんだよ、そんなモン……」
「んっふっふ……。そのそんなモンが、存在するのだよ」
 ディレクターはかみ合わない会話をし、不適に笑う。
「永久機関って何?」
 キョクリュウくんはペンペンちゃんに訊ねた。
 ペンペンちゃんは、ディレクターの方を見たままで、
「おまえも名前くらいは聞いたことあるだろう。……永遠に自分の力だけで動き続
ける機械のことさ。
 たとえて言うなれば、食べ物を食べなくても、生き続ける生き物のようなものだ。
それがどれほど《不条理》か分かるだろう? それと同じように、永久に動き続け
る機械もまた、存在できないのさ」
「ふーん……。そうなんだ」
 キョクリュウくんは曖昧に答える。
「私は、今まで誰も注目しなかった、全く新しいエネルギーを使用することに成功
した。誰もが馬鹿馬鹿しいと鼻つまみにしてきた物を応用した結果が、この船だ!」
 ディレクターは大きく手を広げて見せた。彼の表情は自信に満ちていた。彼は全
身全霊を持って、自らの勝ちを確信していたのである。
「全く新しい……エネルギーだと?」
「そうだ! 全人類を震撼させ、宇宙進出をも可能にし、そして何よりも私に巨万
の富をもたらす絶対のエネルギーだ!」
 彼は後ろを向き、その手を天井にかかげて叫んだ。
「今ここに見せてやろう! カモン!! 先生!」
 ――そして!
 それは起こりはじめた。
『じゃらららららららららZUN! ちゃぁぁぁぁらぁぁぁぁぁ!! ズンダン!
ちゃぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
 唐突に流れ出すBGMと、ペンペンちゃんとキョクリュウくんの前に、ドライア
イスと共に唐突に姿をあらわす巨大なステージ!
 演出は、かなり派手だった。
『ぐいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん』
 派手なモーター音を響かせ、地鳴りすら起こしながら、その階段状のステージは
セリ上がる。そして、そこに並ぶ美女、美女、美女……。看護婦さんからスチュワ
ーデス、バニーガール、コスプレ美少女、果ては触手植物型美少女まで。一般にマ
ニアックと呼ばれる、ありとあらゆる装いの美女達が、中心を取り囲むステージが
現れた。
「なんだっ!?」
 ペンペンちゃんは警戒の形相で、そしてキョクリュウくんは困惑の形相でそれを
見つめる。
「さあ拝め! 崇めるのだ! 新しい時代を開く偉大なる魂を!」
『――がしゃーん!』
 そしてそのステージが完全にセリ上がりきったとき、ステージの中心にいる人物
が顔を出した。
「あーっ!」
 思わずキョクリュウくんが叫ぶ。
「えへ……えへ……えへへへへへへ……」
 《それ》は言った。
「おまえは!」
 ペンペンちゃんが叫び、そして次のセリフは二人同時だった。

   「ゆうき とむ!!!!」

 そう。そこにいたのは、この小説の原作者であるはずの優樹 瞳夢だった!
 煌びやかな服装に身を包み、いつもだらしない顔を極限までだらしなくし、周り
を美女で囲むその姿は、まさに変態の極み! この世の不浄をすべて吸い尽くした
ようなその顔に、彼は満面の笑顔(なのだろう。たぶん)を浮かべていた。
 彼こそが、この宇宙船を支えるエネルギーの源だったのだ。
「分かっただろう。これこそが私が得たエネルギーの正体だ!
 名づけて――《不条理エネルギー》!!!」
 ディレクターが、こちらに向きなおし、叫ぶ。
「《不条理》エネルギーだと!?」
「そうだ! この無尽蔵のエネルギーさえあれば、何でもできる! 相対性理論を
超えることも、力学の第二法則を超えることも、そして、因果律を覆すことすら、
今の私には難しくはない!」
 その言葉に、ペンペンちゃんたちは呟く。
「なるほど。どうりで物語がシリアスだったわけだぜ……。あいつがいないんじゃ、
しょうがねーよな……」
「そ、そうだね……」
 だがその呟きを、ディレクターは無視し、
「この力があれば、世界征服など一瞬で完了する! そして、今こそおまえを負か
すことができるのだ!」
 ディレクターが一歩踏み込んだ。
「くっ……」
 ペンペンちゃんはたたらを踏む。
 優樹 瞳夢自身は、どうしようもない馬鹿だが、ディレクターはそこそこの馬鹿
である。その『そこそこ』の分だけ頭がいいわけだから、不条理エネルギーを手に
した彼に勝てるかどうか、ペンペンちゃんには自信が無かった。
 何しろ、この船の力のほどは、昼間目の当たりにしたばかりなのだ。
「おまえ……。あいつの力を世界に普及させる気か!」
 ペンペンちゃんは訊ねる。
「当然だ。こいつの《不条理》エネルギーは、金の成る木になるのだからな……」
 彼の目は、野望にとり憑かれたそれだった。
「てめえ! 世界を滅ぼす気か! おまえの言う《不条理》エネルギーとやらが、
どれだけ危険なものなのか分かってるのか!」
 ペンペンちゃんは叫ぶ。
「滅ぼす? とんでもない! 私は世界を変えるだけだよ、ペンペンちゃん……」
「俺を……ペンペンちゃんと呼ぶな……!」
 彼の怒りの声は、しかし、彼自身の歯ぎしりの中に消える。
「本当に……!」
 唐突に声を上げたのは、キョクリュウくんだった。
「本当にあなたは、世界を変えられると!?」
「そうだ。私にはそれだけの力がある」
 ディレクターは、キョクリュウくんを見下すような視線を向ける。
「そして、私の最大にして最高の野望は、今ここに完成するのだ!」
「野望だと!?」
 ペンペンちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で、ディレクターを睨む。
「そうだ! 野望だ! この快感がおまえには分かるまい!」
 ディレクターは勝ち誇った顔で、ペンペンちゃんを睨む。
「……ね、ねえ……」
 不意にキョクリュウくんが、袖の部分を引っ張る。
「なんだ?」
 虚をつかれ、ペンペンちゃんは少し振り返った。
「ステファニーさんって、結局はあそこに並ぶために、この船に乗り込んだのか
な?」
 思わぬ指摘に、少し驚く。
「た、確かにそうだ」
 彼はディレクターに訊ねた。
「おい! ステファニーは何のために、この船に乗ったんだ!?」
 その質問に、ディレクターはほんの一瞬だけ、呆気に取られたような顔をしたが、
「……あの女か。おまえ達の思っている通りだ! あの女も、そこにいるプラカー
ド女も、元は優樹 瞳夢への貢ぎ物だったのだ!」
「なんだと!?」
 ペンペンちゃんは舌打ちし、「……なんて残酷なことを……!」
「安心しろ。彼女らは優樹 瞳夢の元へ行くことを拒んだ。プラカード女も、あや
つの元へ行くよりは、と、ああやってつっ立っているのだ」
 見ると、彼女はまだそこにいた。
「なるほど……」
 思わず納得するペンペンちゃんとキョクリュウくん。
「そして、優樹 瞳夢自身も、現実の女性は受け付けなかった。
 彼の周りにはべらされている女どもは、皆、彼自身が作り出した立体映像だよ!」
 見ると、彼女たちは優樹 瞳夢にほおずりしていた。考えてみれば、そんなこと
を現実の女性がするはずがない。
「あわれな……」
 ペンペンちゃんは、顔をゲンナリさせてそう呟く。
「加えて言うならばこの部屋も、奴の東京の自宅を模して作ってある。もちろん、
あっちは本物だがな……」
「どういう家なんだろう……」
 キョクリュウくんが呟き、カビを模した床と、グロテスクでスライミーな壁を見
回す。
 ディレクターは一度、ニヤリと笑うと、
「さて。……茶番はこれくらいにして、そろそろ対決といこうじゃないか」
 言って二、三歩、前へ出た。
「ちっ……」
 自分の不利の分かっているペンペンちゃんは、敵の前進に合わせて後退する。
「さあ!」
「くそっ……」
「さあ!!」
「この変態!」
「何とでも罵倒するがいい。さぁ!」
「畜生め……」
 ペンペンちゃんは覚悟を決めた。これ以上はもう、どうにもならない。
「さあさあさあさあ!」
 そしてディレクターはザッと右手を、ペンペンちゃんの前に突き出し、
「……お好み焼き代、払え」
「え?」
 その瞬間。
 世界は凍り付いた。
「…………」
「…………」
 …………。
「もしかして、最大の野望って……」
 ペンペンちゃんは思わず訊ねかえす。
「そうとも! 第三話でおまえが踏み倒したお好み焼き代だ! さあ払え! さあ
さあさあ!」
 ディレクターはさらに詰め寄る。だがペンペンちゃんは、
「……二話分も引っ張っといて、こういうオチかよ……」
 と、肩の力を落としてため息をつき、「あのさぁ。……財布なんか、持ってきて
ねーよ」
「え? なんで?」
 不思議そうな顔をするディレクター。
「あのなぁ! 俺はおまえに! 無理矢理に船に乗せられたんだ! 財布なんか取
る暇ねーよ!」
「……………………」
 今度はディレクターが凍り付く。自分で墓穴を掘ったことにやっと気づいたわけ
だ。
「……じゃ、じゃあ。……今までの俺の努力は……」
「全部無駄」
 ペンペンちゃんの呟きに、
「そ……そんなぁ〜〜!」
 彼はガックリとひざをつく。
「それに、《不条理》エネルギーを使って、お金でもなんでも出せばいいじゃない
か」
 ペンペンちゃんが言うと、
「い、いや。優樹 瞳夢はそういう当たり前のことはできないんだ」
 キョクリュウくんは冷や汗をかきながら、
「……それって……」
 と呟き、それに続けてペンペンちゃんは、
「『何の役にも立たねー』ってことじゃねーか」
 と言う。
『ガラガラガラガラ……』
 今度こそディレクターは、音すら立てて、今度こそ再起不能なほど崩れ落ちたの
であった……。

   2

「優樹 瞳夢!」
 ペンペンちゃんは、ステージの上の原作者に向かって怒鳴った。
 ビクッと彼は震えた。
 一瞬のうちに周囲の美少女達が消失する。気が付くとプラカード女は、エレベー
タに乗ってどこかへ去っていくところだった。
 ペンペンちゃんは一歩一歩。階段状のステージを、今回の事件の温床に向かって
登っていく。
 彼はビクビクと震えながら、ペンペンちゃんが登っていくのを見つめていた。
 一歩。一歩。
 そしてついにペンペンちゃんは頂上へ登りついた。目の前の男は――というより
生き物と思われる物体は、ズリズリと後ろへ下がった。
「おまえのせいで……おまえのせいで……」
 ペンペンちゃんはワナワナとこぶしを震わせる。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
 彼の顔は恐怖に引き攣り、そして股下の辺りから、ついに異臭のする温かい液体
がこぼれだす。
「うひあへあやらへふひあ〜〜〜〜!!」
 意味不明な悲鳴を上げ続ける優樹 瞳夢。
 ――ペンペンちゃんはしばらく睨み続けた。
「…………」
「ひぁあぁあぁあぁあぁあ!」
「…………」
「うひいいいいいいいいい!」
「…………」
「げいいいいいいいいいっ!」
 が。不意にそのこぶしをゆるめる。
「……!」
 驚いたように、優樹 瞳夢はそれを見つめる。
「……ふう」
 とペンペンちゃんはため息をつき、クルリと後ろを向いてこう言う。
「もういい。……帰るぞ」
 瞬間、優樹 瞳夢の顔にパッと笑みが浮かんだのであった……。

 かくして、事件は終わりを告げた。


  エピローグ

 ――いつも平和なペンギン島。
「……けっきょく何だったんだろうな」
 浜辺でポツリと、ペンペンちゃんは呟いた。
「そうだね」
 キョクリュウくんも答える。二人は並んで、夕日の沈む海を眺めている。
 波は、寄せては返し返しては寄せ、いつもの通りの風景を作り出していた。
 あの宇宙船は結局まやかしだったのだ。今はそう思うしかない。
 作者は東京に帰り、クルー達はNASAに帰った。そして、ペンペンちゃんは家
に帰ってきた。
 ディレクターは縛り上げていたはずだったのだが、気が付くといなくなっていた。
きっと、どこかでまた、お好み焼き代を回収する手だてでも考えているのだろう。
「ま、いっか!」
 ペンペンちゃんは呟く。
「そうだね!」
 キョクリュウくんもそれに答える。
 夕凪はいつまでも、二人を見つめていた……。


 ――そのときだった。
「あちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 突然! 海の中から男が飛び出してきた。
『ばしゃああああん!』
 そして、シュタッとそこに立つ。
「なんだ!?」
 現れたのは、筋肉隆々で顔にカマキリの仮面を被っており、不思議な踊りを踊る
男である。
 驚くペンペンちゃんに、男は言った。
「勝負だ勝負だ! しゅっしゅっしゅ!」
 と、シャドーボクシングをして見せる。
「な……何なんだいったい……」
 ペンペンちゃんが呆れていると、
「ああ!」
 とキョクリュウくんは手で小槌を打ち、 「優樹 瞳夢が戻ったから、話がいつも
の馬鹿話に戻ったんだよ!」
「そ、そんな……。またこういう、鬱陶しいのと付き合わなきゃいけないのか!?」
 ペンペンちゃんの目に、ジンワリと涙が浮かぶ。
「シリアスな話といつもの馬鹿話。どっちがいい?」
 その問いに彼は、叫び声でもって答えた。

 「どっちも、イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 と。
 彼は産まれてはじめて、心の底から涙を流したのであった。
 ちゃんちゃん☆

                        不良ペンギンの涙 おしまい