聖書と宝石

はじめに

 聖書にはさまざまな宝石が登場しています。「永遠なるもの」に強い憧憬をもっていた、古代のイスラエルとユダの人たちは 変質しない・朽ちない・輝く宝石に限りない執着を感じていたようです。 ところで聖書に記載されている宝石名は、今日のような科学的分類によっているのではなくて、当時の人々の区分によっています。したがって厳密な化学的組成や結晶構造ではなく、 主として色や堅さと形状、模様、透明度などで区別していたものと思われます。以下、そうした聖書の宝石について調べてみたいと思います。

T.旧約聖書の宝石
U.新約聖書の宝石
V.誕生石と聖書の宝石
W.番外編〜そのほかの石


T.旧約聖書の宝石

1.出エジプト記25:7

  エフォドや胸当て(ホシェン)にはめ込むラピス・ラズリやその他の宝石類である。

  出エジプト記28:9-12

  また、二個のラピス・ラズリを取り、その上にイスラエルの子らの名を彫りつける。 六つの名を第一の石に、残る六つの名を第二の石に、生まれた順に彫りつける。 印章に石の細工人が彫るように、イスラエルの子らの名をその二個の石に彫りつけ、その石を金で縁取りする。 この二個の石をエフォドの両肩ひもに付け、イスラエルの子らのための記念の石とする。 アロンは彼らの名を記念として両肩に付け、主の御前に立つ。

ヘブル語名:shoham
聖書和名英語名
新共同訳ラピス・ラズリ(瑠璃)lapis lazuli
口語訳縞めのうonyx
新改訳しまめのうonyx
NIV縞めのうonyx
NRSV縞めのうonyx
TEV紅玉髄carnelian
岩波訳紅玉髄・瑪瑙の一種。ラピス・ラズリ説あり。
chrysoprasus(緑玉髄), beryl(緑柱石), malachite(くじゃく石)という説あり

 ここでは、神様への捧げ物として金銀などと共に挙げられている宝石の代表例として挙げられている「ショーハム」 という宝石が登場します。聖書には「ショーハム」の色や質感などを示す記述はありません。
 創世記2:12、出エジプト記28:9,20、35:9,27、39:6,13、歴代誌上29:2、ヨブ記28:16にも「ショーハム」という語が 使われています。創世記ではハビラ地方でショーハムが産すると書かれており、ショーハムが祭司の胸当てやエフォドと呼ばれる 祭器またはお守りに嵌められていたことが分かります。なお新共同訳では所々「縞めのう」とも訳されています。
 このハビラ地方というのはエデンの園から流れ出る四つの川の一つビション流域で、良質の金をも産していたと創世記には 記されています。これがどこであるかは不明です。紀元前1300年当時のバビロンでは金の産出がほとんどなく、エジプト(シバ)、オフル(南部アラビア半島かソマリア近辺と言われる) が産地だったようです。ソロモン王が神殿の金や宝石をオフィルから輸入したという記事が聖書にはありますから、 多分その地方で産出した可能性が高く、あるいはそこが経由地となっていたのかもしれません。

古代ヘブライ語と「色」

 現代ヘブライ語(イブリット)にはツェヴァ(「色」)という語がありますが、旧約聖書には現れません。 「色彩」という抽象概念、(三)原色・彩度・明度などの明確な区別は聖書の時代には無かったようです。 それは新約聖書の時代も同じだったらしく、色彩を表す言葉の出現頻度は極少です。濃淡/明暗もあまり意識されていませんでした。
 
ヘブライ語の色
シャホール(黒)髪の毛の色。漆黒から、浅黒い日焼け肌まで表現。
ラヴァン(白)白髪、ただし白髪交じりまで。ベール(青白い)も表現
アフォル灰色(現代ヘブル語)
アド−ム赤い肉、血、赤牛、葡萄酒
ハクリルート充血した目(箴言23:29のみ)色彩といえるか微妙
ハームス深紅エンジ虫から染料を作った。
シャーシャル壁や(外国の)偶像の色
カホール(現代ヘブル語)
テケレト青紫。幕屋の材料の繊維、布。他の「青」の語は若草の緑や、顔色や傷の蒼さなど
ツァホヴ皮膚病で脱色した黄色っぽい毛(レビ記13:30のみ)色彩といえるか微妙
ヤローク(現代ヘブル語)
ヤレク青草、緑の植物(イザヤ15:6)これも色彩といえるか微妙
サゴール(現代ヘブル語)
テケーレト菫紫、紫青
アルガマーン赤紫、ツロ紫
ヴァロッドピンク(現代ヘブル語)
フム(現代ヘブル語)
タホール空色(現代ヘブル語)
カトムオレンジ(現代ヘブル語)

スカラベ型印章 中近東では碧玉(潜晶質の石英)、白めのう、縞めのう、蛇紋石、めのうなどの宝石でできた 印章がよく見つかっています。その多くはエジプト文化の影響をうけた、スカラベ型と呼ばれるコガネムシ状の塊で、 王のものにはシリンダー(円柱)状のものも見られます。
 印材としてはある程度の大きさを持った堅くて割れにくい素材が適しているわけですが、 それだけ加工は難しいのです。全体を楕円形に整形し、印面を水平にカット/研磨しなくてはいけません。 細かい文字や細工などはとがった鋼玉(コランダム)などで削りました。そして粘土板などに押印したのです。


 さて、「ショーハム」の正体が何かということは、決定的な資料が無いのですが、当時もっとも一般的であったと 思われる、縞めのうであったと考えられています。新共同訳以外が縞めのうと訳しているのもうなづけます。 しかし、日本語の「めのう」と、英語のonyx(オニキス)とは少し違うのです。英語では carnelian(カーネリアン、紅玉髄)と、 agate(アゲート、玉髄)などと区別していますが、日本ではみな「めのう」です。しかし、どうやら古代ユダでは区別をしていたようなのです。 それはら後から出てくる「セボー」や「ヤハローム」、「オデーム」があるので、区別する必要があるのです。 つまり、瑪瑙は「玉髄」と言うように、原石が楕円形のラグビーボールのような形で産出され、その真ん中の「髄」にある 潜晶質の石英なのです。多分黒、白、紅、黄、緑といった色分けでそれらの区別をしていたと思います。
 そして「ショーハム」は多分黒と白で、ちょうどカメオのように彫った文字の部分が白く浮き出るようなめのうであったと考えられます。

2.出エジプト記28:17-21 (出エジプト記39:9-13に並行記事あり)

祭司の装束(再現例)  それ(大祭司の胸当て)は、縦横それぞれ一ゼレト(約25cm)の真四角なものとし、二重にする。 それに宝石を四列に並べて付ける。
 第一列ルビートパーズエメラルド
 第二列ざくろ石サファイアジャスパー
 第三列オパールめのう紫水晶
 第四列藍玉ラピス・ラズリ碧玉
 これらの並べたものを金で縁取りする。 これらの宝石はイスラエルの子らの名を表して十二個あり、それぞれの宝石には、十二部族に従ってそれぞれの名が印章に彫るように彫りつけられている。


 これは通常、「大祭司の祭服」と理解されている装束ですが、出エジプト記では祭司アロンとその4人の子らのため作れ、 と命じており、この祭服を着るのが複数の人々であったことを示唆します。そして称号としての「大祭司」の概念は旧約にはありません。 しかし、新訳時代には「大祭司」という称号が使われるようになっていました。 それは数千人の祭司階級の頂点を極めるだけでなく、ターバンと額の徽章によって王と並ぶ権威を表すものでした。 いわばユダヤ教の教皇です。また、このようにテュロスの王に匹敵する豪奢な祭服をシナイの荒れ野を彷徨する貧しいユダヤ人が用意できたとは 思えないので、出エジプト記の記事にかかわらず、この規定が決められ実行されたのは実際には捕囚解放期以降のことではないかと推測できます。

a.オデム

ヘブル語名:odem
聖書和名英語名 ruby carnerian  「オデム」は「赤」を意味します。人が赤土(アーダーマー)から創られたので「アダム」と名付けられたのと語幹が似ていますね。 ルビーあるいは紅玉髄のような赤い宝石という訳ですが、ルビー(硬度9)を研磨し、 それに名字を彫るというのは難しいので、紅玉髄(硬度7前後)の方が適しているでしょう。LXX(70人訳)はsardios「紅玉髄」です。 並行記事のヨセフス「古代史」第3巻7章168節の英訳はsardonyx 右側がカーネリアン。
 ルビーとガーネット、スピネル、レッド・トルマリンは色や透明度が似ていたので、近世まで混同されていたとか。英国王室の至宝であり、王冠を飾っていたルビーが、 実はスピネルだった、という話が伝えられています。
新共同訳ルビーruby
口語訳紅玉髄carnelian
新改訳赤めのうcarnelian
NIVルビーruby
NRSV紅玉髄 carnelian
TEVルビーruby
岩波訳紅玉、ルビーの一種?

b.ピトダー

ヘブル語名:pi'tdah
聖書和名英語名 topaz peridot  トパーズは硬度8の硬玉、古代オリエントでは識られていなかったので、候補から除外していいでしょう。 橄欄(かんらん)石は、英語名のolivineが示すように、もともとオリーブ(もくせい科)の葉のような 色の宝石を意味していたのですが、中国経由で日本に伝わった時に、中国の常緑樹である橄欄(かんらん科)と取り違えられた、 という面白い由来があります。かんらん石(クリソライト)のうち良質で宝石として扱われるものは「ペリドット」と呼ばれます。 紅海のザバルガート島は3500年前からペリドット産地として知られていましたし、エジプトの国石はペリドットなのです。
 LXXは「黄玉」。ヨセフスはtopaz。画像左側がトパーズ(実はジルコン)で右側がペリドット。ちなみにトパーズとペリドットが違う鉱物だと判明したのは19世紀末。
新共同訳トパーズtopaz
口語訳貴かんらん石chrysolite
新改訳トパーズtopaz
NIVトパーズtopaz
NRSV貴橄欄石chrysolite
TEVトパーズtopaz
岩波訳黄玉、トパーズかクリソライトか?

c.バーレケト

ヘブル語名:bareqet
聖書和名英語名 emerald? crystal  「バーレケト」とは「輝く石」の意味ですから、光沢が優れた宝石のようですね。LXXは緑玉あるいはエメラルド。エメラルド(硬度8)は比較的古くから知られていたようです。 とはいえ稀少品で加工が難しく、大きな結晶を得るのも困難だったでしょう。その点、「水晶」(ロック・クリスタル、硬度7)の方がエメラルドの半分ほどの硬度で、名前を刻むのには遥かに適していたと思います。 ちなみに「イスラエルの子ら」の第三子はシメオンで、ヘブライ文字では4〜5文字になります。ヨセフスはemerald。へリオドールという説もあります。
新共同訳エメラルド emerald
口語訳水晶crystal
新改訳エメラルド emerald
NIV緑柱石 beryl
NRSVエメラルド emerald
TEVガーネットgarnet
岩波訳緑柱石、深緑色のエメラルド。ガーネット説あり。

d.ノーフェク

ヘブル語名:nofeq
聖書和名英語名 garnet turquoise  ヨセフスはcarbuncle(紅玉髄/ガーネット)。ガーネットとターコイズ、似ても似つかない宝石ですね。「トルコ石」とは言いますが、 原産地はエジプト周辺で、トルコはヨーロッパの中継地。「サツマイモ」の原産地が「薩摩」ではないのと似ています。
 ガーネットも古くから護符用として知られていたようですが、 ここはやはり豊富で、大きい石が入手しやすいターコイズだった、というのが順当なところでしょう。タルグムなどで、 この石が赤または青緑だったという資料もあるようです。LXXは”deuteron”で、赤く燃える炭のような色をした鉱物。
新共同訳ざくろ石garnet
口語訳ざくろ石garnet
新改訳トルコ石turquoise
NIVトルコ石turquoise
NRSVトルコ石turquoise
TEVトルコ石turquoise
岩波訳孔雀石。マラカイト、トルコ石説あり。

e.サピール

ヘブル語名:sappir
聖書和名英語名 sapphire lapis lazuli  宝石、というと誰しもがダイアモンド・ルビー・サファイア・エメラルドを頭に浮かべるくらい、サファイアは有名です。 ヘブル語名もサファイアを示唆しているように思えます。 しかし、古代ローマ帝国ではサファイアが知られていなかったようですし、硬度9のサファイアに文字を刻むなどは至難だったので、 ラピス・ラズリ(硬度5前後)かヒヤシンスではないかと考えられています。 ラピスはラテン語で「石」、ラズリがベルシャ〜アラビア語で「紺碧の天空」を意味します。エジプト・シュメール・ バビロニアなどが産地で、古代の遺跡からラピス・ラズリを使った宝飾品がわんさと出土されています。 大きな結晶が得られ、硬度も5前後なので加工にもずっと適しています。ヨセフスはなぜかjasper。
新共同訳サファイアsapphire
口語訳るりlapis lazuli
新改訳サファイアsapphire
NIVサファイアsapphire
NRSVサファイアsapphire
TEVサファイアsapphire
岩波訳青玉、サファイア。おそらく「サファイア」の語源。

f.ヤハローム

ヘブル語名:yahalom
聖書和名英語名 dia_cz blue_agate moonstone  「ヤハローム」は「硬い石」だからダイヤモンド? そりゃあり得ないでしょう。レーザー装置などなければ名前を刻めません。d〜fは2列目で、d・eが青系統なので、 ジャスパー(碧玉、緑色系統)よりは青っぽい瑪瑙(ブルー・アゲート)ではなかったかと思います。 LXXはonyucionでonyxの語源ですが、アッシリア語のunku(指輪)から来た言葉らしい。ヨセフスはなぜかsapphire、順番を間違えているのでしょう。
新共同訳ジャスパーjasper
口語訳赤縞めのうcarnelian
新改訳ダイヤモンドdiamond
NIVエメラルドemerald
NRSV月長石moonstone
TEVダイヤモンドdiamond
岩波訳硬玉。翡翠の類、ダイヤモンド・アメジスト説あり。

主な宝石の特性
名 前アメジストエメラルドオニキスオパールサファイアシトリン ジルコンダイヤトパーズルビー
硬 度77.5-875.5-6.5977.51089
比 重2.612.67-2.782.611.99-2.253.99-42.653.90-4.713.513.53-3.563.97-4.05
屈折率-1.57-1.581.53-1.541.37-1.471.76-1.771.54-1.551.77-1.982.411.61-1.631.76-1.77
分散度-0.014none-0.0180.0130.0380.0440.0140.018

g.レシェム

ヘブル語名:leshem
聖書和名英語名 opal cairngorm zircon 電気石(turmaline) これは正体の確定も推定も困難な宝石で、訳もばらばら。電気石、アゲートという説もあります。 ふうしんし石(ヒヤシンス)は神話の鮮血色の花と同じ色のジルコン。 多分オパール(硬度6)か黄水晶(硬度7)なのでしょう、この方が可能性は大きい。 ヨセフスはligure。
新共同訳オパールopal
口語訳黄水晶cairngorm
新改訳ヒヤシンスjacinth
NIV風信子石jacinth
NRSV風信子石jacinth
TEVトルコ石turquoise
岩波訳黄水晶。ヒヤシンス説あり。

h.シェボー

ヘブル語名:shebo
聖書和名英語名 agate 珍しく各訳が揃っていて、赤めのう(アゲート)。エジプトやアッシリアで豊富に見つかってます。 LXXはAchatesでアッシリアやエジプトでお守りに用いられていたagate(アガテ:古代アッシリア語)に関係していると考えられています。ヨセフスはamethyst。
新共同訳めのうagate
口語訳赤しまめのうsardonyx
新改訳めのうagate
NIVめのうagate
NRSVめのうagate
TEVめのうagate
岩波訳瑪瑙。石英・玉髄・蛋白石の混合物。

i.アヒアマー

ヘブル語名:'ahiamah
聖書和名英語名 amethyst 12ct アメジスト。古代の産地はインド。紫は高貴な色とされ、この永久に変色することのない宝石を身につけることは、 古代人の憧れであり、誇りでした。ヨセフスはagate。
新共同訳紫水晶amethyst
口語訳紫水晶amethyst
新改訳紫水晶amethyst
NIV紫水晶amethyst
NRSV紫水晶amethyst
TEV紫水晶amethyst
岩波訳紫水晶(アメジスト)。

j.タルシシュ

ヘブル語名:tarshish
聖書和名英語名 moonstone aquamarine 藍玉(らんぎょく?)という鉱物名は広辞苑には載っていませんでしたが、 aquamarineを新英和辞典で引いたら藍玉(らんぎょく)となっていました。 ベリル(緑柱石)は、必ずしも緑ではなく、赤・赤銅色・ピンク・薄緑〜緑〜灰緑、ほとんど無色まで幅広い色合いを含み、 しかもエメラルドまで含む、広範囲な概念です。透明なのか、混色なのか、それすら分かりません。LXXは「貴橄欄石」。 ヨセフスはchrysolite。
新共同訳藍玉aquamarine
(moonstone)
口語訳黄碧玉yellow jasper
新改訳緑柱石beryl
NIV貴橄欄石chrysolite
NRSV緑柱石beryl
TEV緑柱石beryl
岩波訳黄玉石。エメラルドの一種とも考えられる。

k.ショーハム(前述)ヨセフスはonyx。

l.ヤーシュフェー

ヘブル語名:yashfeh
聖書和名英語名 jasper 碧玉=ジャスパー。大き目の原石が入手しやすい。LXXはiaspisでこれもジャスパーを示唆しています。 中でも特に濃緑色のものが流布していたようです。模様まではわかりませんが。英訳ヨセフスはberyl。
新共同訳碧玉jasper
口語訳碧玉jasper
新改訳碧玉jasper
NIV碧玉jasper
NRSV碧玉jasper
TEV碧玉jasper
岩波訳碧玉石。「ジャスパー」の語源。

2.胸当て(ホシェン、breastplate)の配色(再現例)

breath12 12部族の名前:(右上から左へ)ルベン・シメオン・レビ、ユダ・ゼブルン・イサカル、ダン・ガド・アシェル、 ナフタリ・ヨセフ・ベニヤミン。文字は前9世紀頃の古代ヘブル文字、母音のためのワウやヨッドは無かったと思われるが 母音記号を除きBHSそのままを表記。赤2・青3・黄2・緑3・紫、黒の配色はバランスがとれていると思います。

3.エゼキエル書28章13節・ティルス王を飾った宝石



聖書新共同訳口語訳新改訳NIVNRSV岩波訳
1.odemルビー赤めのう赤めのうrubycarnelianルビー
2.pi'tdah黄玉黄玉トパーズtopazchrysoliteトパーズ
3.yahalom紫水晶青玉ダイヤモンドemeraldmoonstoneオニックス
4.tarshishかんらん石貴かんらん石緑柱石chrysoliteberllタルシシュ/金色トパーズ?
5.shoham縞めのう緑柱石しまめのうonyxonyx紅玉石
6.yashfeh碧玉縞めのう碧玉jasperjasper碧玉
7.sappirサファイアサファイヤサファイヤsapphiresapphireサファイア/ラピス・ラズリ?
8.nofeqざくろ石ざくろ石トルコ玉turquoiseturquoiseノフェク/トルコ石/マラカイト/柘榴石
9.bareqethエメラルドエメラルドエメラルドberylemeraldエメラルド。

 ※エゼキエル書のティルス王の宝飾の記述は、ユダ王国が没落し消滅しつつある時代に、ティルスという国が難攻不落・栄耀栄華をいかに誇っていたか、 、しかし主なる神の裁きが下るだろうという文脈中で書きつづられています。 ところで、出エジプト記とエゼキエル書を比較すると、面白いことがわかります。エゼキエル書の9つの宝石は出エジプト記の12の宝石の中に すべて含まれているのです。王国時代の貧しい農業国であったイスラエル/ユダに対し、ティルスは海洋・貿易国家であったので、世界中の富と宝が集まっていました。 ですから、大祭司の祭服は、ティルスに比肩できるような富を得て初めて実現できた装束であったと言えるでしょう。
 それらを勘案すると、エゼキエル書の書かれた後に、出エジプト記の胸当ての規定が追記された、あるいは石種が書き換えられた可能性が大きいと言えるでしょう。


4.その他の宝石

聖書新共同訳口語訳新改訳NIVNRSV備考
ramotさんごさんごさんごcoralcoral多分、白さんご
peninim真珠さんご紅真珠rubycoral多分、紅さんご
shamirダイヤモンド金剛石金剛石flintdiamondたがね用の鉱物
gabish水晶水晶水晶crystalcrystal水晶
kadkod赤めのうめのうルビーrubyruby赤く輝く石
zekukith宝玉玻璃玻璃crystalglass古代のガラス、玻璃
各訳とも、必ずしも文中での訳語は統一されてはいません。

これらの宝石についてはW.番外編〜そのほかの石をご覧下さい。

U.新約聖書の宝石

透き通った碧玉(黙示録21章11節)

dreamstone  都は神の栄光に輝いていた。その輝きは、最高の宝石のようであり、透き通った碧玉のようであった。

 ギリシャ語のiaspisは、透明な碧玉jasper , clear as crystalと、邦訳も英訳も揃っているけれど、ちょっと待った。ジャスパー(碧玉)は透明ではないのです。 また、ジャスパーが「最高か?」というと、希少価値からいって、そうとは断言できないと思います。ヨハネが思い描いた透明な青緑か緑の、 透き通った宝石、さて、何でしょう。



 黙示録の21章19節から20節までの中で、新しいエルサレムの土台に飾られる石として、12個の宝石が挙げられています。

 都の城壁の土台石は、あらゆる宝石で飾られていた。第一の土台石は碧玉、第二はサファイア、第三はめのう、第四はエメラルド、 第五は赤縞めのう、第六は赤めのう、第七はかんらん石、第八は緑柱石、第九は黄玉、第十はひすい、第十一は青玉、第十二は紫水晶であった。

東の3つの宝石

a.イアスピス

ギリシャ語名:iaspis
聖書和名英語名 jasper  「イアスピス」を縮めて読むと「ヤスピス」になり、「ジャスパー」に似ていますね。ヘブル語の「ヤーシュペー」 と同じ宝石と考えられています。
 「碧玉」とはいうものの、不透明な赤・黄褐色・暗緑・灰緑色とさまざまで、しかもまだら模様ありと、 簡単には色の判定がつきません。
新共同訳碧玉jasper
口語訳碧玉jasper
新改訳碧玉jasper
NIV碧玉jasper
NRSV碧玉jasper

b.サプイロス

ギリシャ語名:sapfiros
聖書和名英語名 sapphire 9.2 ct (Lab-Grown) lapis lazuli  この「新しいエルサレム」というのは、想像上の町であり、土台石の大きさ・硬度には制限が無いものと思われます。 したがってサファイアでも差し支えないと思われますが、「sapfeiros」は青い石全般を指していたようです。 するとラピス・ラズリが有力になりますね。現在のエルサレムの礎石で最大のものは9×2×1メートル、80トン と言われていますから、1カラット=200mgとして、4億カラット!しかも壁の長さは2220キロメートル、 幅が65メートルというのですから、想像を絶するスケールです。
新共同訳サファイアsapphire
口語訳サファイアsapphire
新改訳サファイアsapphire
NIVサファイアsapphire
NRSVサファイアsapphire

c.カルケードーン

ギリシャ語名:calkedon
聖書和名英語名 carnelian  「カルケードーン」は「カルセドニー」の語源なのでしょうね、きっと。でも「カルセドニー」(玉髄)はアゲート(めのう)・オニキス・カーネリアン・サード・ジャスパーなどを含み、 一体どれを指しているのか分からない、困った訳です。麺の種類で例えるなら、スパゲッティ・マカロニ・ミネストローネに続けて 「パスタ」とやるようなものです。xalkos(カルコス)は青銅あるいは銅・真鍮を指すので、赤銅色あるいは 青銅/真鍮色の鉱物なのでしょう、きっと。ちなみにスペルの似ているxaleposは「やっかいな」を意味します。
新共同訳めのうagate(onyx)
口語訳めのうagate(onyx)
新改訳玉髄chalcedony
NIV玉髄chalcedony
NRSVめのうagate

北の3つの宝石

d.スマラグドス

ギリシャ語名:smaragdos
聖書和名英語名 emerald  「エメラルド・グリーン」というほど、エメラルドは緑色の宝石の代表だと思っていたら、 昨今は赤やピンクに近い色も出回っているのですね。「緑玉(緑玉)」という日本語は死語に近いけれど、 緑色の玉、あるいはエメラルドを指します。画像は熱水式合成エメラルド、1.58カラット。
新共同訳緑玉(emerald)
口語訳緑玉(emerald)
新改訳エメラルドemerald
NIVエメラルドemerald
NRSVエメラルドemerald

e.サルドニュクス

ギリシャ語名:sardonyux
聖書和名英語名 sardonyx  名前からして「サードニクス」。
新共同訳赤縞めのうsardonyx
口語訳縞めのうonyx (agate)
新改訳赤縞めのうsardonyx
NIVサードニクスsardonyx
NRSVサードニクスsardonyx

f.サルディオン

ギリシャ語名:sardion
聖書和名英語名 carnelian  各訳は一致してカーネリアン、赤めのう。それはBC25世紀頃のエジプトの遺跡からも発見されています。
新共同訳赤めのうcarnelian
口語訳赤めのうcarnelian
新改訳赤めのうcarnelian
NIVカーネリアンcarnelian
NRSVカーネリアンcarnelian

南の3つの宝石

g.クリュソリソス

ギリシャ語名:cryusolithos
聖書和名英語名 peridot  名前からして「クリソライト」(貴かんらん石)。
クリスタルのように透明な青緑。
新共同訳貴かんらん石chrysolite
口語訳かんらん石olivine
新改訳かんらん石olivine
NIVクリソライトchrysolite
NRSVクリソライトchrysolite

h.ベリュロス

ギリシャ語名:berullos
聖書和名英語名 beryl?  ベリルも緑柱石もエメラルドまで含む広い概念。ギリシャ語名は「ベリル」の語源(ペルシャ語起源の説あり)。 ただし古代は緑色の宝石全般を指していたらしい。 「d.スマラグドス」をエメラルドとすると、淡青/緑色の宝石か。
新共同訳緑柱石(beryl)
口語訳緑柱石(beryl)
新改訳緑柱石(beryl)
NIVベリルberyl
NRSVベリルberyl

i.トパジオン

ギリシャ語名:topazion
聖書和名英語名 zircon_topazcolor  「黄玉(おうぎょく)」、まず間違いなくトパーズでしょう。画像はインペリアル・トパーズそっくりの色で直径13mmの「高級天然ジルコニア」。 インペリアル・トパーズだったら数百万円するでしょうが、360円でした。
新共同訳黄玉topaz
口語訳黄玉石topaz stone
新改訳黄玉topaz
NIVトパーズtopaz
NRSVトパーズtopaz

西の3つの宝石

i.クリュソブラソス

ギリシャ語名:cryusoprasos
聖書和名英語名 chrysoprase/jadeite fluolite  各訳がだいたい「翡翠」か「緑玉髄」にしているのですが、何と「蛍石」(フローライト)説が有力らしい。 色は緑・紫・赤・青など多彩。新約ギリシャ語辞典(岩隈)には「緑玉髄あるいは蛍石」と書いてあります。 「クリュソ」は英語で言えば「ゴールデン」に当たる言葉。なお、クリソプレーズは「ひすい」と訳されますが、厳密に言えば、ひすいは硬度7の宝石で 翡翠はジェダイトです。左がクリソプレーズ、真ん中が翡翠、右がフローライト。
新共同訳ひすいjadeite
口語訳ひすいjadeite
新改訳緑玉髄chrysoprase
NIV緑玉髄chrysoprase
NRSV緑玉髄chrysoprase

j.ヒュアキンソス

ギリシャ語名:hyuakinthos
聖書和名英語名 onyx_blue zircon red  青玉(せいぎょく)。辞典には載っているが「コランダム(鋼玉)の一種で青または緑色の一種」 ということで該当する英単語なし。ヒヤシンスは「風信子石」でジルコンの一種。「風の便りの子」なんて名前、 放蕩息子の喩えを思い浮かばせる。
新共同訳青玉−−−
口語訳青玉−−−
新改訳青玉−−−
NIV風信子石jacinth
NRSV風信子石jacinth

 ギリシャ神話に「ヒアシンスの花の由来の話」があります。アポロンがヒュアキンソスという名の少年と円盤投げ遊びをしていたとき、 アポロンの投じた円盤が地面に跳ね返り、円盤を捕ろうとしていた少年の額に当たってしまいました。 驚いたアポロンは、駆け寄って少年を抱きかかえ、蘇生を試みますが、頭からしたたり落ちる血潮は止まることなく、 辺りの地面を真っ赤に染めました。アポロンは嘆き、少年のことが歌でもって語られるようにと語ると、 地面を染めていた鮮血は消え去り、百合のような花に変わった。しかし百合のように純白ではなく、 深い紅色だったということです。ただし、この花は現代の「ヒヤシンス」を指すのではなく、おそらくあやめ科の一種か、ひえんそう、 あるいはパンジーの一種なのだそうです。そして赤褐色のジルコンはかってヒアシンスと呼ばれていたのだそうです。 ただし、原石のままではただの石ころにしか見えないので、1000度近くまで加熱処理する必要があります。 ジルコンはかなり古くから焼かれていたようですが、赤色のジルコンではなく、別の深紅色の石であった可能性もあります。

k.アメスストス

ギリシャ語名:amethustos
聖書和名英語名 amethyst  最後は「アメジスト」で一致。終わりよければ・・で12個完結。
新共同訳紫水晶amethyst
口語訳紫水晶amethyst
新改訳紫水晶amethyst
NIV紫水晶amethyst
NRSV紫水晶amethyst

Refer

出エジプト記の大祭司の胸当てと、黙示録の土台石との対比/比較


 ここまで分析したら、大祭司の胸当てとどのような関係になっているか、比べてみたいと思いませんか? そこで同じギリシャ語で書かれているLXX(70人訳)を使って比較してみました。
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 12個中8つの名が一致しました。例外はあるものの、北=1列目、東=2列目、西=3列目、南=4列目に対応しているのがお分かりでしょうか。

胸当にあって礎石にないもの:4.anthrax(carbuncle,紅玉髄) 7.ligurion(ligure) 8.acatees(agate) 12.ouncion(onix)

礎石にあって胸当にないもの:3.calkedwn(carcedony) 5.srdunux(sardonyx) 10.xrusoprasos(chrisolite) 11.huakinthos(hyacinth)

※位置関係からCanthraxをBカルセドニー、KonucionをDサードニクスに充てるとすれば、 残るのは胸当ての3行目の2つと西の2つですね。聖書ヘブライ語またはギリシャ語を語源とする宝石名は、 アメジスト、カルセドニー、クリソプレイズ、クリソライト、サファイア、サードニクス、ジャスパー、 トパーズ、ヒヤシンス、ベリルと、結構ありますが、昔日の区分そのままで今日のそれぞれの宝石の種類に一致するとは限りません。 たとえば、サピールとサファイアが同一とは断定できないのです。

3.その他の宝石

聖書新共同訳口語訳新改訳NIVNRSV備考
kulustallos水晶水晶水晶crystalcrystal クリュスタロス
margarites真珠真珠真珠pearlpearl マルガリテース、「豚に真珠」という諺の元


V.誕生石と聖書の宝石

誕生石

 誕生石は聖書の12の宝石が由来とされています。そこで誕生石と聖書の12の宝石を比べてみましょう。 複数の誕生石がある国については、他の国と共通な石を選びました。

日本イギリスアメリカフランス 出エジプト記黙示録
ガーネット RubyCarnerianJasper
アメジスト TopazChrisoliteSapphire
アクアマリンブラッド・ストーンルビー EmeraldBerylChalcedony, Agate
ダイヤモンド GarnetTurquoiseEmerald
エメラルド SapphireSardonyx, Onyx
真珠白カルセドニー DiamondMoonstoneCarnelian
ルビーカーネリアン JacinthOpal,etc.Chrysolite(Peridot), Olivine
ペリドットサードニクス AgateBeryl, Chrysolite, Olivine
サファイアペリドット AmethystTopaz
10オパール真珠 BerylChrysoprase, Chalcedony
11トパーズ Onix, etc.Jacinth
12トルコ石 JasperAmethyst


 比べて分かるのは、およそ聖書の並び順とは無関係なことと、他の国に比べてフランスが最も黙示録の礎石の構成に近いことです。


W.番外編・そのほかの石


 メノウは、原石が馬の脳に似た形をしていたから、「瑪瑙」という名前になったのだそうです。 そして原石を割って、石の芯(髄)にある宝石(または貴石)が「玉髄」というわけです。画像の石は周囲がメノウ、 中が水晶になっています。

 メノウのスライス。この石のコア(髄)は半透明な乳白色(ホワイト・カルセドニー)になっています。絵の具を水に垂らしたような年輪模様がいいですね。 このように薄くスライスできるようになったのは、勿論現代技術ならではのことです。 見た目ピンク色だったのですが、透かしてみると褐色が強く現れたので、多分ピンクに染めたのでしょう。

 ホワイト・アゲート(白メノウ)。アゲートはクォーツ(水晶)の変種でモース硬度7、比重2.61。 このホワイト・アゲートを現代の錬金術師たちは 黒・緋赤・緑・青色などに染め上げて、別の名前(たとえばブラック・オニキス)にしてしまいます。 硝酸鉄で赤色、塩酸で黄色、砂糖と硫酸で黒、塩化クロムで緑という按配です。 つまり色の付いためのうの多くが、もともとはホワイト・アゲートだったりします。

 ジャスパーいろいろ。左からレオパード・スキン・ジャスパー2個とピクチャー・ジャスパー、 レッド・ジャスパー。学名ではなく、宝石屋さんの通称なのでしょう。 ほかにオーシャン・ジャスパーにピカソ・ジャスパーなんてものもありますし、その中に貝や木の化石を含んだものがあります。 ジャスパーの色・模様は全部違いますから、色と模様を言葉で説明することは至難の業ですね。

 ブラッド・ストーン。アメリカでは3月の誕生石になっています。黒に近い濃緑地に赤い星状の模様があるので、 この名前になっています。これもジャスパーの仲間。この赤い色はキリストの血をあらわすと言われています。 それで3月、ちょうどイエス・キリストの受難の月の誕生石になっているのでしょうね。 もちろん聖書にはそのような記事は全くありません。中国には鶏血石という石があり、印材によく使われます。 これも「ブラッド・ストーン」と呼ばれる場合が多いのですが、星模様ではなく流紋状に赤色が現れています。

 縞目が美しいボツワナ・アゲート。ついつい序でに買ってしまった(笑)。今回の企画で、「瑪瑙」の種類の多さに驚きました。 メノウと言えば縞メノウだけだと思っていたら、オニキス・アゲート・サードニクス・カーネリアンと、随分種類が多い。 もともとメノウは「玉髄」(カルセドニー)の一種なのですが、一般的にはメノウとカルセドニーが混同されているそうです。 そのカルセドニーはジャスパーやクリソプレーズ(ひすい)、ブラッド・ストーン、珪化木も含まれるなど、広い範囲の鉱石を含んでいます。 オニキスは縞メノウで、黒と白が層状になっているものは、古くからカメオ細工の材料にされてきました。 サードニクスは縞メノウのうち、色が紅に直線/平面状の白い縞が入っているもので、8月の誕生石です。しばしばカーネリアンを含めて呼ぶそうです。 カーネリアンはオレンジかかった赤色が基本。

 ブラジル産のブルー・カルセドニー。ということは、「カルケードーン」の候補になり得ます。これもメノウ類です。 なおカルセドニーは縞模様とインクルージョンが無いものを指しますが、なぜか縞模様の入っているものも カルセドニーという名で呼ばれている場合があります。

 ホワイト・カルセドニー。これも「カルケードーン」の候補ですね。フランスでは6月の誕生石になっています。 ニッケルが含まれてアップル・グリーン色になっているものがクリソプレーズ、鉄分で赤色になったものがカーネリアンと呼ばれます。

 琥珀。古くからよく知られていたのに、なぜか聖書には登場しません。これもエジプトやメソポタミヤのまじない師などが 小道具の飾りとして使っていたようです。胸飾りのレシェムがこれに該当するのではないかという説もありますが。

 一部の英訳聖書で胸当ての6番目の宝石をダイヤモンドとしていますが、ダイヤモンドは紀元前4〜5世紀に発見され、 紀元前3世紀以降のローマ帝国時代になって、初めて他の宝石と区別されるようになったのだそうです。 それも産出は希で、所有できるのはごく一部の人に限られていたようです。ですから、紀元前10世紀頃の 大祭司の胸当てに使われていた可能性はまずありません。
 「玉みがかざれば」とは言いますが、ダイヤモンドの研磨はほとんど不可能で、原石(主として正8面体)のままで護符に用いられる事が多かったようです。 ダイヤモンドを磨く技術は、やっと15世紀末になってベルギーの宝石職人ベルクェムが開発したのでした。 この宝石の持つ大きな屈折率(2.41)を生かす58面のブリリアント・カットが発明されたのは1700年前後。18世紀後半に産業革命が起き、 富裕層と中産階級の増大に伴って、宝石の王座を占めるようになりました。画像は左端が合成キュービック・ジルコニア、三連石が天然ジルコン(風信子石)。 いずれもダイヤモンドの代用品。

 タイガー・アイ、虎目石です。古代エジプトでは神像の目に嵌めて使われていたり、神官や占い師などの護符やまじない道具(と思われるもの)に 張り付けられた状態で多数発見されていますが、なぜか旧約聖書には出てきません。トパーズよりよっぽどたくさん大型の原石が出回っていた筈なので、 胸当てに使われていても良さそうなものですが、謎ですね。ひょっとしたら「ピトダー」かもしれませんよ。

 孔雀石(くじゃくせき)、マラカイトです。その名のとおり、緑に縞模様が入った孔雀の尾羽に似た色の美しい石ですが、この緑色は内包する銅成分によるものです。 プトレマイオス朝最後の女王クレオパトラ(BC51〜30在位)が愛した石として有名です。右側が原石(ラフ)。 この孔雀石を砕いて粉末にし、アイシャドーとして用いたのだそうです。 普通の鉱石マラカイトはずっと柔らかくて、強く擦ると緑色の粉が指先に付きます。現代の宝飾用マラカイトはそれを加工して硬化させているのでしょう。

 真珠は今のように養殖することはできなかったので、ペルシャ湾や紅海沿岸が古代真珠の産地とされていますが、 滅多に採取できない貴重な宝石でした。ヨブ記28:18ではさんごや水晶に比べ真珠がずっと高価であったことが判ります。 「真珠」という言葉自体が「真の珠」、宝石の中の宝石を意味しています。 真珠貝(マザーオブパール)の貝殻は王妃エステルの夫・アハシュエロス王の宮殿の舗床に大理石や他の宝石と共に嵌められ、 諸侯の度肝を抜く絢爛豪華さを演出していました。黙示録の幻のエルサレムの門構が真珠というのも頷けます。 真珠貝の種類はアコヤ貝に近いPinctada vulgarisや黒蝶貝、白蝶貝などです。 旧約では「ペニニーム」が真珠ではないかと言われていますが定かではないようです。対して新約の「マルガリテース」は 明確に真珠とされています。マタイによる福音書7:6には「豚に真珠を投げてはいけない。それを足で踏みにじり、向き直ってあなたがたにかみついてくるだろう。」 というイエス・キリストの言葉があり、西洋版「猫に小判」の諺の発祥元になっています。 また同じマタイ13:45には「天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を捜している。高価な真珠を一つ見つけると、 出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う」とあり、当時最高級の真珠を得ことは天国に入るほど困難で あったことを示しています。画像は淡水真珠。

 ヘブライ語のガビーシュ(ヨブ記28;18のみ)、ギリシャ語でクリュスタロスが水晶と訳されています。 ただしヘブライ語ではバーレケト、ケラーという語も水晶と訳されているケースがあり、特にケラーはLXXでクリュスタロスと訳されているので、 水晶説が有力です。画像はファントム・クォーツ「白色幻影水晶」。

 宝石ではありませんが、古代のガラス。石英質の砂を加熱溶解して作ります。最初は、自然の火災や溶岩流の通った後に発見され、 貴重なものでした。前2000年期にオリエントでは製法が開発され、エジプトやイスラエルでも出土品として見つかっています。 その時代のものは鋳型に流して作られたため不純物が多く、表面に鋳型の砂粒がこびり付いたり、中に混ざったりしていました。 それでも他の宝石が極めて貴重であった時代には宝飾品として用いられました。ヨブ記28章の「玻璃」はそのようなガラスを指していたのでしょう。 ローマ時代になると、管を用い、吹いて整形する技術が開発されました。無色透明ではないものの、透き通るガラスが出回るようになりました。 黙示録の4,15,21章に出てくるのは、この透明度の高いガラスだったでしょう。画像は古代ローマン・ガラス(アフガニスタン出土品)。 穴は最近あけられたもので、古代のガラス・ビーズは5円玉みたいな平たい形が多かったようです。

 レッド・コーラル/赤珊瑚。ヘブライ語聖書では「ペニニーム」として箴言に頻出します。 ただし新共同訳では「真珠」と訳されていますし、哀歌4:7では汚れのなさ・清さを意味しているので、 日本的感覚からいくと白珊瑚の方がぴったりきます。 もしかしたら次のラ モートが赤珊瑚でペニニームが白珊瑚かもしれません。 ペルシャ湾や地中海、紅海で採れたものがテュロス(ツロ)経由でイスラエル/ユダに運ばれていたようです。 ネックレスや腕輪、頭飾りに使われていました。日本でも江戸時代に簪(かんざし)の定番として使われていたので、 黒髪に似合ったのでしょうね。でも当時のユダヤ人女性はベールを被っていたので、多分ひたいかベールの上から飾ったのでしょう。

 ホワイト・コーラル/白珊瑚。ヘブライ語では「ラ モート」、新共同訳のヨブ記28:18で「さんご」エゼキエル書27:16では「赤さんご」。 コーラルは真珠より産出量が余程多く、色も白・朱・紅・黒とさまざま流通していました。その中でも濃い赤が好まれていたようで、 それは現在も変わらないようです。

 アレキサンドライト、という宝石があります。太陽光や蛍光灯下では青緑、白熱電灯やローソクの明かりでは赤色になるという、 変わった宝石です。紀元前の有名なアレキサンダー大王に由来があるのかな、と思っていたら、大違い。 その石が1830年、帝政ロシアで発見され、皇帝に献上された日がたまたま皇太子アレキサンドル二世の誕生日であったため、 この宝石がアレキサンドライトと呼ばれるようになったのだそうです。もちろん、皇太子の名はアレキサンダー大王に由来したのでしょう。
 聖書に関係した石を集めていたところ、ヤフオクで見つけて、珍しさについつい買ってしまいました。13*9mm、5.4カラット。 もちろん本物ではなく、人工。

 現代の代表的な「石」といえばパソコンのCPU(中央演算素子)。画像は200MHzのMMCペンティアム。 ペンティアムが出始めた頃(66MHz版)には1個50万円くらいしていました。カバーには金メッキがしてありました。そのダイは2.5平方センチ厚さ1ミリ弱くらいの薄いシリコン板、1カラット当たりにすると20万円くらいですから、宝石並みでしたね。 最近のダイサイズはもっと小さく薄くなっています。今ペンティアムの66MHzは50円くらい?。



引用聖書:聖書(新共同訳)日本聖書協会

 参考図書:新聖書大辞典 (株)キリスト新聞社 1971

 完訳 ギリシャ・ローマ神話 トマス・ブルフィンチ 大久保 博訳 角川文庫 1960

 Josephus New Update Version Hendrickson Publishment 1987

 原典新約時代史 荒井 献ほか 山本書店 1976

 ジェムストーン百科全書 八川シズエ 中央アート出版社 2004

 広辞苑 岩波書店 1967

 新英和中辞典 研究社 1969

 旧約聖書U 出エジプト記・レビ記 木幡藤子・山我哲雄 岩波書店 2000

 旧約聖書\ エゼキエル書 月本昭男 岩波書店 1999

 図説 旧約聖書の考古学 関谷定夫 ヨルダン社 1985

 図説 新約聖書の考古学 関谷定夫 ヨルダン社 1987



あとがき

 宝石に限らず、聖書に登場する動植物を特定するのは非常に困難です。特にヘブライ語で書かれている部分は、 聖書外の資料が乏しく、色・形・模様などを記述した文献が無い場合が多いので、類推することさえ困難です。現代のように鉱物を分子レベルで結晶構造の分類をし、 さらに硬度や屈折率を測定するなどの技術の無い時代だったのですから、正確な鑑別ができた筈もありません。 それを正確に翻訳せよ、と言うのは、土台無理なのですが、何らかの訳語をつけないといけないので、「サファイア」とか「紅玉」とか訳しているわけです。

 僕が20代の終わりごろ、「新聖書大辞典」の「宝石」の項を読んで、「いつか聖書の鉱石見本を」と思っていましたが、 当時は今ほど宝石類が安くなく、合成品すらも高値の花だったので、それは夢物語だったのでが、 30年も経ったら、何とインターネットのオークションで安価に手に入れることができるようになっていました。 そこで「胸当て」ということで、ペンダント(またはペンダント・トップ)で揃えてみました。 フリーサイズ、男女共用ですしね。現代はいい時代、昔はイスラエル王国の大祭司の胸当てを飾るほど 貴重だった宝石が、(一部合成品にせよ)庶民でも入手できるのですから。
 聖書の時代は所得が低く、物価が高かったのです。たとえば、14歳未満の子供の機織りの年季奉公は毎月5ドラクマで、 奉公明けに12ドラクマが衣服費として支払われる、という記録がAD66年のパピルスに記されています。 一揃いの服が月収の2.4倍ということは、月収10万円に換算すると24万円ということになります。 聖書には「明日は何を着ようかと、思い悩むな」と書いてあるのは、衣服が高価で、襤褸(ぼろ)になっても買えない状況を意味します。 また、昨年クリスマスにちなんでミルラ(没薬)30グラムを420円で買いましたが、 没薬1ミナ(571g)にかかる税金の上限が銀40ドラクマ(上記奉公人の8ヶ月分の給料に相当)ということですから、 税金だけで30g当たり2.1ドラクマ(上記奉公人の0.4ヶ月分の給料に相当)になります。 ものによりますが、現在に比べ100〜1000倍くらいは物価が高かった(給料が安かった)ということになりますね。

 今の日本は、町の宝石屋さんやデパートでいくらでも様々な宝石の現物を見ることができますし、 インターネットやカタログ通販で自宅に居ながら買うこともできます。お金持ちなら、自宅に宝石屋さんが来てくれるのでしょうね。 うちには来ないけれど(笑)。ブラジルやアフリカ・東南アジアなど、世界中から宝石が集まってきます。 聖書が書かれていた時代には、聖書記者が自ら記す宝石を間近に見ることは難しい事だったと思います。 大きくて高価な宝石はテュロスやアレキサンドリアまで買い付けに行かないと入手できなかったと思います。 今ならアメジストの裸石(ルース)を100円から買うことができますが、 聖書を読むときに、「アメジスト?、それなら私も持ってる!」あるいは「私でも買える」という感覚で読んでしまうと、 当時の生活実感とかけ離れてしまいます。紫水晶は、当時は祭司や貴族が好んで身につけたのだそうです。 ですから、一般庶民はアメジストを手にすることさえ容易ではなかったのでしょう。

1st Updated 2008/01/10-25