
それはうんと昔、ずうっと遠い国の、ある町の物語です。町の真ん中には、大きな教会が建っていました。この教会には高くそびえる塔があり、遠くからよく見えました。 この塔には鐘がありました。とても美しい音で鳴るのだそうですが、誰もこの音を聴いた人がいません。 なんでも、クリスマス・イブに良い捧げものがあったときに、神様が鳴らしてくださるのだそうです。 でも、神様に気に入ってもらえる捧げものは、ずうっとなかったようです。ですから、誰も鐘の音を聴いた人がいなかったのです。 この町からずうっと離れたところに、小さな村がありました。この村には、ペドロとアントニオという、仲良しの兄弟が住んでいました。 今しも、おじいさんからこの教会の話を聞いて、胸をわくわくさせていたところです。 「ねえ、おじいちゃん、それはどんな教会なの。」 「それはそれはたいそう大きな教会でな、日曜日の礼拝には大勢の人が集まってな、立派なオルガンの伴奏にあわせてみんなが讃美歌を歌うと、 礼拝堂一杯に歌が鳴り響いて、えもいえぬ美しさに魂がふるえる感じさえするんじゃよ。」 「行ってみたいな! 行ってもいい?」 「そうじゃな、お前たちが、もっと大きくなってからじゃよ。」 兄弟は、この話を聞くたびに教会に行ってみたいと思うのでした。特に、クリスマスの礼拝に出てみたくてたまりませんでした。 その年のクリスマス・イブがやってきました。ペドロとアントニオは、教会に行きたくて、行きたくて、 とうとうおじいさんに内緒で教会に行くことにしたのでした。でも、鉛色の空から雪が降ってきて、とても寒い日になりました。 「お兄ちゃん、とってもきれいな教会なんでしょ。」 「ああ、そうさ。わくわくするなあ。早く見えないかな。」 「お兄ちゃん、ぼく献金を持っていないよ。」 「だいじょうぶ。小遣いを貯めておいたんだ。それより、お前寒くないか。」 吹きすさぶ雪の中を、積もる雪の中を歩いていくのは大変でした。でも教会見たさに二人は手をつなぎながら、一生懸命歩きました。 やがて、うす暗くなってきた頃に、町の灯りが見えてきました。町の門はもうすぐです。真っ白になった道の上に、なにやら黒いものがあります。 何でしょう。歩いていくうちに、アントニオが言いました。 「お兄いちやん、あれって、人じゃない?!」 「何だろう。行って確かめてみよう。」 二人は黒いものに近づいていきました。 「アントニオ、女の人だ!。ちょっと手を貸せ。」 「もう、冷たくなってるよ。」 「早く暖めなくっちゃ。」 「おばさん、おばさん!、起きて!」 「眠っちゃダメだ。起きて!、起きて!」 兄弟は必死になっておばさんの体をゆすったり、さすったりしました。でも、おばさんはすっかり弱っていて、薄目をあけているのがやっとでした。 しばらくしてペドロは言いました。 「アントニオ、お前一人で教会に行け。おばさんを放っておくわけにはいかない。何とか目を覚まさせて、おやつに持ってきたパンを食べさせなきゃ。」 「いやだよ。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ。一人じゃいやだ!」 「でも、そんなこと言ったら、二人とも礼拝に出られないじゃないか。」 ペドロはポケットから銀貨を取り出し、アントニオに握らせました。 「いいかい、これを持っていくんだ。礼拝堂の聖壇に、さりげなく、そうっと置くんだ。みんなに見られないようにね。 これが僕とお前の二人分の献金だ。さあ、早く行け。・・・・・戻ってくるとき、誰か連れてきてくれ。やれるだろう、いいな。」 アントニオはうなずき、一人で町のほうに急いで歩いていきました。その後ろ姿を見ながら、ペドロは涙を流してしまいました。 あれほど楽しみにしていたのに、あとちょっとの所で冷たく寂しい雪の中にいなければならなくなってしまったのです。
イブの礼拝は、それはそれはすばらしいものでした。アントニオはびっくりして教会の中を見回しました。建物も立派だったし、
とても大勢の人が集まっていました。オルガンと讃美歌の歌声といったら、会堂の壁をつきぬけて、町の外にまで響き渡るかのようでした。牧師の説教が終わりました。大勢の会衆が聖壇の前に並びました。献金や捧げものをするためです。 あるお金持ちはすばらしい宝石を捧げました。 黄金を篭に一杯盛ってきた人がいました。 貴重な本を捧げた人がいました。 冠を捧げた王様がいました。 そのどれもが、人々の溜息と歓声をさそうほど立派なものでした。でも、鐘の音は聞こえません。 耳を澄ましても、風の音が聞こえるだけです。「今年も鐘は鳴らなかった。」誰しもがそう思いました。 行列がなくなりました、次は聖歌隊の頌栄です。オルガンが伴奏を引き始めましたが、すぐ、弾いている手を止めてしまいました。 聖壇の脇にいた牧師を皆が見つめました。牧師が「静かに」と、合図を送りました。 聞こえてきたのです。最初はかすかに、次第にはっきりと、鐘の音が響いてきたのです。 皆はいっせいに聖壇を見やりました。そこには銀貨を捧げたアントニオが、呆然として立ち、上を見上げて鐘の音に聞き入っていました。 |