受胎告知 聖書研究 ルカ1:26〜38

 説教準備のための、原書構文解析です。品詞の色分けは 緑が名詞、青緑が代名詞と関係代名詞、ピンクが動詞、 紫が分詞、青が形容詞、濃黄が冠詞又は指示代名詞、赤が前置詞、黄緑が接続詞、グレーが副詞ほかです。
 黒の長い縦線はSVOCの区分、黒の縦二重線は文節の終わり、赤の下線が前置詞句あるいは前置詞、 青の縦線は前後どちらかを修飾する言葉です。もっとも、厳密なものではありません。
 本来の構造解析であれば、もっと要素をバラして、入り組んだ線を用いるのですが、今回も出来るだけ行数を減 らし、  画像幅を小さくするために、簡略化しています。なお、英語の逐語訳を付けていますが、各語はいろいろ多様な 意味があり、必ずしも訳語と一致している訳ではありません。

 時制(時称、アスペクト)は「ヨハネ序文」15節で解説しています。 詳しくは専門書をご覧下さい。

 プリントして用いる場合、画像の右端が切れる場合があります。その場合は、一旦HTMLファイルとして保存し、 WORD、一太郎ほか、HTML対応のワープロソフトで開いてみてください。

ルカによる福音書1:26−28a

Luke.doc
A それから6ヶ月目に
B 遣わされた/天使ガブリエルが/神から
C 町へ/ガリラヤの/名はナザレ
D 処女(の所)へ/結婚する筈の/男性と/その名はヨセフ//ダビデの家系の
E 処女の名はマリアム
F [彼は]行った/彼女のそばへ
G 彼は言った

「それから6ヶ月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町の、ある処女の所へ神から遣わされた。 彼女はある男性と結婚する筈になっており、男性の名はヨセフでダビデの家系に属し、処女の名はマリアム。 天使は彼女の近くへ行き、言った。」

6ヶ月目というのは、ガブリエルがザカリヤにエリサベツの懐妊を告げた時から6ヶ月目です。 非常に長文ですが、主語は天使ガブリエル、述語が「遣わされた(受動態)」と「言った(能動態)」で、 あとは目的語とその修飾語です。日本語で一つの文章として訳すのは難しいですね。
Eで「マリアム」と書いてあるのは、ギリシャ語本文がそうなっているのです。アラム語の音写を記述して いるのですね。他の福音書は「マリア」になっていて、ルカだけがそのように表記しています。 ちなみにヘブライ語ではミリヤームです。
 ガリラヤはBC732年にアッシリアに征服されて以降、バビロニア、ペルシャ、マケドニア、エジプト、 シリアの領土を転遷し、その度ごとに捕囚、移民を繰り返し、文化的・民族的な混交を余儀なくされました。 BC80年、ハスモン(マカベヤ)朝のアレキサンドロス・ヤンナエウス(104−78)によってユダヤ人に解放され、 それ以降ユダヤ人の入植(移民)が急増し、ユダよりユダヤ的であったとされています。復古主義が流行り、 名前をギリシャ風でなく、ヘブライ語あるいはアラム語で名乗るユダヤ人が多かったようです。
 マリアムの親戚のエリサベツがユダの山地にいたことから、彼女もそのような移民の娘あるいは孫娘くらい の世代であったことがうかがえます。

ルカによる福音書1:28b−29

Luke.doc
A 平安あれ。[あなたに]喜びあり、[あなたに]祝福あり。
B 主があなたと共に
C するとその言葉によって/[彼女は]大変とまどっている(未完了)
D そして[彼女は]不思議に思っている(未完了)
E 何かと/この挨拶は

「平安あれ、喜びと祝福はあなたと共に。主はあなたと共に。」
「その言葉に彼女は大変とまどい、不思議に思った。」
「この挨拶を何と理解したらいいか。(希求法)」

Aの箇所はヘブライ語新約聖書では「シャローム」、「平和があなたにあるように」という、 日常的によく使われる挨拶ですが、天使が「シャローム」というのは、格別な意味合いがあるように 思います。またBは歴代史に頻出する表現で「ヤハゥエ・イモー」なのですが、ガブリエルが 「みだりに口にしてはならない」ヤハゥエと言ったとしたら、マリアムの当惑がいっそうはっきりします。 Eの希求法の用法は珍しく、「思案的疑問文」になっています。

ルカによる福音書1:30−33

Luke.doc
A そこで言った/天使は彼女に
B 畏れるな、マリアム
C [あなたは]理解するだろう/恵みによって/神からの
D あなたは身ごもる(未来)/あなたの胎内に
E そして(やがて)男の子を産む
F あなたは名付けなさい(命令法)/彼の名をイエスと
G その名は(やがて)なる/偉大に
H その男の子は/最高位の者と/(やがて)呼ばれる(受動態)
I (やがて)彼は与えられる/主なる神から/ダビデの王座を
J そして(やがて)彼は支配する/ヤコブの家を/永遠に
K そして彼の王権に/終わりはない(未来形)

「そこで天使は彼女に語った。
『畏れるな、マリアム。
あなたは理解する。神からの恵みにより。
あなたは胎内に身ごもり、やがて男の子を産む。
その子の名をイエスと呼べ。その名はやがて偉大なものになる。
その子は最高位(の人)と、やがて(人々から)呼び讃えられる。
彼はやがて与えられる、主なる神から、ダビデの王座を。
彼はやがて支配する、ヤコブの家を、永遠に。
彼の王権は、終わることがない。』」

30節から33節にかけて、天使の言葉は詩文体で書かれています。ザカリヤへの告知(1章13−17節) と同じですね。ですからヘブライ詩のような並行法ふうに訳してみました。
Luke.doc
wehinaf harah weyiladeth ben wekhara'the eth-shemo yeshua
and then (look?) and conceive son and call * name Joshua
Fの部分はヘブライ語新約聖書では上記のようになっています。*「ィエシュア」=ヨシュアですね。

ルカによる福音書1:34

Luke.doc
A そしてマリアムは言った/天使に
B どのようにしてこの事が成るのでしょう。
C 私は男を知らないのに

「そしてマリアムは天使に言った。
『どうしたらそうなるのでしょう。私は処女なのに(意訳)』」

Bは「どのようにしてそのことがあり得るのか」というように、否定的にも解釈できまし、 「どのような理由でそのようになるのか」とも解釈できます。"pos"をどのように解釈するか、 35節以降の文脈によって理解する必要があると思います。

ルカによる福音書1:35−37

Luke.doc
A そして答えるため/天使は彼女に言った。
B 聖なる霊が(やがて)来る/あなたの上に
C 最も偉大な方の力が/(やがて)あなたを包む
D それによって誕生させられる者は/神の子と(やがて)呼ばれる。
E あなたの親戚のエリサベツは/男の子を宿した。
F 月は6つ目になっている(現在形)
G 彼女は石女(うまずめ)と呼ばれている(現在形)者だ。
H [それには]不可能はない(未来形)
I 神の一つ一つの言葉にとって

「天使は彼女に答えて言った。『聖霊があなたの上に下る。即ち最も偉大な方の力があなたを包み込む。それ だから誕生してくる者は、神の子と呼ばれるようになる。(意訳)』
『あなたの親族のエリサベツは、男の子を孕み、はや6ヶ月目になったが、彼女は石女と呼ばれていたのだ。 (意訳)』
『神の言葉すべてに、不可能はないのだ。(意訳)』」

ここは天使がマリヤに答えている部分、「どうしたらそうなるか」又は「どうしてあり得るか」の答えで、 散文体です。「答えて」は分詞なので形容詞的用法、そして「聖霊」、「最も偉大な方の力」、 「神の言葉」の三つは、具体的にマリヤに働きかける神の力の、三つの異なったフェイズ、ということは 殆ど同じ内容とみていいでしょう。 そして、それが今起こりつつある出来事の原因であり、起動力であり、推進力であるという、 それがガブリエルの回答というわけです。

ルカによる福音書1:38

Luke.doc
A するとマリアムは言った。
B 「はい、[私は]主の仕え女、あなたの言葉のように私になりますように。」
C そして天使は彼女から離れ去った。

「するとマリアムは言った。『私は主の仕え女、あなたの言葉どおり私になるように』」

Bの部分は"eimi"というbe動詞が略された形で、「私は主(ヤハゥエ)にとっては卑しい女奴隷に過ぎません」 を意味するでしょう。「なるように」(genoito/ginomai)はこれまた希求法で、 半信半疑の回答というニュアンスを示しています。奇跡を確信した答えではなかったのです。



2005/12/07
引用聖書:
"NESTLE-ALAND NOVUM TESTAMENUM GRAECE" 6.Druck 1999: (c) DEUTSCHE BIBLEGESELLSCHAFT, 1898 and 1993
聖書 "Holy Bible": New International Version

参考文献:
J-Bible 2nd (c) 日本コンピューター聖書研究会 1996-1998
新訳ギリシャ語辞典 岩隈 直著 増訂6版 2000/05/10 (株)山本書店
新約聖書のギリシャ語文法 織田 昭著 2003/05/20(有)教友社
ヘブル語大辞典 名尾 耕作著 1982/07/20 (株)聖文社
聖書語句大辞典 7版 日本基督教協議会文書事業部 コンコーダンス委員会 (株)教文館