小小説 アメリアにて‥‥‥(マリモの育て方)
匿名希望:1999年9月19
改訂3版:2000年4月14

これは、ある一人の女がマリモへの愛に目覚め、 聖母と呼ばれるまでを描いたドラマであるということはない。

出演 CAST

マリモ ピァ アーモニア

サンスカル帝国女王

シャクチー カリン

マリモの娘

クルクル アシャー

マリモの弟、サンスカル軍人

カテコー ルース

クルクルの愛人、サンスカル軍人

田代 箱

サンスカル軍人

アヤメ グリフォン

サンスカル軍人

それは、アメリアの空が澄んでいた1日から始まった。

まりも教を国教とするサンスカルの女王マリモ=ピァ=アーモニアが、なんとなく集まっていた皆に向かってこう言った。

マリモ 「皆さん、先日、国旗国歌国教法も施行されたことですし、マリモを飼ってみるというのは如何でしょうか?」

カテコー 「マリモ、ですか?」

クルクル 「(マリモ? 姉さんを飼う? なにを言ってるんだ?)」

シャクチー 「母さん、マリモって?」

マリモ 「いい質問よ、シャクチー。あのね、マリモというのは、世界の多くの寒い淡水湖に住んでいる植物で、緑色で、なかには丸いものもあってとっても可愛らしいの。噛みついたりしないし、水を換えるだけで育つから、とても簡単に飼えるのよ。でも、天然のマリモはとても貴重だから、私たちが飼えるのは養殖のマリモなのよ。養殖でも愛を注げば元気に育つわ。それで、マリモはこういう姿をしているわ。ね、可愛いでしょ」

シャクチー 「私、飼ってみたい」

クルクル 「(植物のことだったのか、変なこと言わなくて良かった、ホッ)」

アヤメ 「陛下、あの、私の宿舎はペットの飼育は禁止されているのですが‥‥‥」

マリモ 「その点については問題ないはずです、マリモは植物ですから。それとも、観葉植物等も禁止されていましたか?」

アヤメ 「いえ、それならばかまわないはずです」

田代 「陛下、植物を飼うことはよいのですが、それで何か利になることがあるとお考えなのですか?」

マリモ 「先にも申したとおり、マリモは貴重な植物です。全国民が飼うというわけにはいきません。そこで、皆さんには最適な飼育方法について研究しつつ、マリモを増やしてほしいのです。皆がマリモを愛でるような世の中になれば、きっと争い事は無くなると私は考えています」

田代 「すばらしいお考えです」

クルクル 「(さすが姉さん、誰よりも民のことを想っておられる)」

シャクチー 「母さん、マリモって水槽に入れておくだけでいいの? えさはいらないの?」

マリモ 「マリモは水に入れておいて、時々水を換えるだけでいいわ、えさもいらないのよ」

そして女王から、マリモの飼い方についての説明が10分ほど続いた。

マリモ 「では皆さん、教団には私が話を付けておきます。一式が郵送されるようにしますから、よろしくお願いしますよ」

クルクルカテコー田代アヤメ
「はっ」


その後、各自の住居に「マリモ一式」が届いた。

シャクチー 「母さん、マリモってとっても可愛いね。今度、あの子たちと一緒にお風呂に入っていい?」

マリモ 「いけません、シャクチー。マリモたちは冷たい水が好きなの。暖めたら死んでしまうかもしれないわ。マリモは北海道やアイスランドといった寒い地方で育ったの。だから暑いのは苦手なのよ。それに、マリモは汗をかかないから、石鹸で洗うのもいけないし、お肌がカサカサになることもないから、化粧品等の油分をつけるのもいけないわ。シャクチー、わかってくれた?」

シャクチー 「はい、母さん」

マリモ 「マリモ一式に、温度計が付いてきたはずよ。水温が30℃を越えるようだったら、水を換えるなりして冷やしてあげてね」

シャクチー 「うん、わかった。あの子たち、大きくなるかな?」

マリモ 「マリモの成長はとても遅いけど、そこがまたマリモの魅力でもあるから、あまり焦ってはいけないわ」

シャクチー 「はい、母さん」

クルクル 「あ、姉さん、ちょうど良かった」

マリモ 「どうしました? クルクル」

クルクル 「姉さんはマリモを増やすって言ったけど、マリモってどうやって増えるのか知りたくて。見たところ種が出そうなところもないし、姉さんなら知ってるかと思って」

マリモ 「いい質問です、クルクル。マリモは糸状のもの、糸状体が絡み合ってできています。それら糸状体は、どうやら分裂することによって増えるようです。水中を漂う糸状体が絡まるか、マリモが分裂してまた丸くなる、というふうにマリモは増えていきます。しかし、最初のマリモや、分裂したマリモがどうやって丸くなったのかということは、未だ確認されていません」

クルクル 「なるほど、マリモは糸の集まりで、糸は分裂して増えるのか。ありがとう姉さん、勉強になったよ」


各自がマリモを飼い始めてからまだ間もない頃

マリモ 「アヤメ=グリフォン、あなたのマリモは元気に育っていますか?」

アヤメ 「はい、マリモの成長のために、錆び付いた頭を久しぶりに使ってみました。マリモは植物ですが、根がないので光合成で養分を得るはずです。光合成に必要なのは、水、二酸化炭素、そして日光です。そこで私は、マリモと共に日光浴をしてみました。おかげで背中がヒリヒリしていま‥‥‥」

マリモ 「マリモを直射日光に当てたのですか?」

アヤメ 「はっ、いけなかったでしょうか?」

マリモ 「(この国の軍人さんは、どうも人の話を聞かず暴走気味なのが良くないですね)。マリモを直射日光に当ててはいけません。マリモは、浅瀬とはいえ、水深何メートルという場所に住んでいます。そこに届く日光は、直射日光とは比較にならないほど弱いものです。最近は、湖の栄養過多が呼んだプランクトンが遮り、日光不足でマリモが枯死しているとも聞きます。ともかく、マリモを直射日光に当ててはいけません。蛍光灯などの弱い光か、日光では2、3枚のガラスを通して育てて下さい」

アヤメ 「はい、わかりました」

マリモ 「(ふぅーっ。前途多難だわ)」


数週間後

マリモ 「カテコー=ルース、あなたのマリモは元気に育っていますか?」

カテコー 「はい、陛下。大きさに変化は見えませんが、最近はプカプカ浮くようになりました。その様は例えようがなく美しいですね」

マリモ 「カテコー=ルース、あなた‥‥‥水を換えていませんね?」

カテコー 「(うぐぅ)、い、いえ、そんな‥‥‥」

マリモ 「マリモが浮くのがなによりの証拠です。マリモは光合成をして酸素を吐き出します。その酸素の浮力でマリモは浮きます。小さいマリモであれば簡単に浮きますが、マリモ一式に入っていた大きさのものなら、定期的に水を換えてさえいれば、酸素は払われて浮くほどつくことはないはずです。とにかく、今すぐ水を換えてくるのです。後で家庭訪問に参りますのでそのつもりで」

カテコー 「は、はい。失礼します」

カテコーは退室し、女王のつぶやきがそこに残った。

マリモ 「皆がマリモを愛でるというのは良い考えだと思ったのですが、あの者たちにはマリモを飼うことは無理だったのでしょうか。いずれにせよ、マリモが間違った飼い方をされていないかどうか調べなければなりませんね」

カテコー 「クルクル、大変だ!」

クルクル 「どうした? カテコー」

カテコー 「女王にマリモの世話をさぼってるのがばれてしまった。しかも、後で視察に来るぞ」

クルクル 「それはまずい。しかしマリモの飼い方なんて聞いてなかったぞ。そうだ、シャクチーに頼もう。カテコー、シャクチーを家まで連れてきてくれ」

そして、2人はシャクチーの助力で難を逃れることに成功した。


さらに、数週間後

田代 「陛下、見てください、私のマリモはこんなにも大きくなりましたよ」

マリモ 「‥‥‥田代、それは聖湖あかんの天然物ですね」

数日後、田代はギロチンにかけられた。

おしまい。


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