Written by Mio

「りかちゃん、ぼくね、えいえんのつばさがもらえるんだって」
昔、となりに住んでいたゆうくんがこんなことを言った。
その頃まだ小さかった私には何のことだかさっぱりわからなかったけど、 2つ年上のゆうくんをやっぱり大人なんだわって尊敬の眼差しで見つめていたっけ。

窓の外に広がる赤茶けた大地にゆうくんの乗った小型宇宙艇は落ちていった。 途中で一瞬赤くきらめいたものだから、お星さまみたいだなって思ったのよ。
でも、あれは事故だった。
ゆうくんは生まれつき体が弱くて、 本当なら地球へ行ってここよりもっと進んだ医療を受けるはずだった。
どこが悪かったのかは知らなかったけど、最後に会った時は青白い顔をしてたくさんの機械に囲まれていた。 私を見て弱々しく笑う彼の笑顔がこわくて、このまま死んじゃうんじゃないかと思った。 そばに行けなかった。結局、声をかける事も出来ずにそのまま病室を出て来てしまった。それが最後。
地球行きの見送りには私も行ったけど、彼に会う事は出来なかった。
そして、ゆうくんの乗った船はこの窓の外、塵のように降ってきたんだった。

静まり返っているこの通路には私の他に人はいなくて、 私は時々こうしてゆうくんに会いに来ている。
宇宙港のいちばんはずれにある通路で、 この先はゆうくんを見送りに来た緊急用のエアドッグがあるだけだった。
今は新しく別の所に造られたおかげで、ここのエアドッグは使用されていない。
「やっぱりここに来てたか」
振り返らなくても誰だかわかる。
「こうちゃん」
私の横から窓をのぞき込む気配がする。
「家に行ったらいなかったからきっとここだろうと思って来たけど、 当たりだったな。……泣いてたのか?」
「泣いてなんかいないよ」
窓に映るこうちゃんの顔を見ながら言う。 そこには真面目な顔をしたこうちゃんの姿があった。
「そうだよな。ずいぶん昔のことだしな」
こうちゃんは私の肩に軽く手をおいた。
あったかい手。
「ねえ、何か用だったの?」
「用がないと会いに来れないのかな?」
「そんな事、ないと思うけど」
「昔はよく3人で遊んだよな」
「そうだね。よくいじめられたよね」
こうちゃんとゆうくんと私の3人は、家も近くてよく一緒に遊んでいた。
その頃、私はよくこうちゃんにいじめられては、 ゆうくんに庇ってもらっていたものだった。 泣きじゃくる私を家まで手をつないで連れて帰ってくれたこともあったっけ。
「あの時さぁ」
こうちゃんはじっと窓の外を見つめながら、淋しそうに笑った。
「あの時、俺が最後にあいつの見舞いに行った時、あいつ言うんだ、俺に」
私はこうちゃんの顔を見た。
「“こうちゃん、りかちゃんをいじめちゃだめだよ”って。 “泣かせちゃだめだよ”って。あいつ言ったんだ。 自分は苦しいはずなのに最後までお前の心配してたんだよな」
最後に会った時のゆうくんの顔を思い出す。
病室を出る前にちらっと見たゆうくんの顔は、悲しそうだった。
もう二度と会えない事を彼は知ってたんだろうか。
何度も助けてくれた彼に、私は何もしてあげられなかった。
あの時。何か言葉をかけてあげられていれば、 彼のあんな悲しそうな顔を見ることもなかったかもしれない。
「まあ、お前がこうして会いに来てくれてるんだからあいつも淋しくないさ」

こうちゃんはそう言って、私の肩においた手に力を込めた。
そうかな、そうだといいな。ごめんね、ゆうくん。私を許してね。
何もしてあげられなかった私をいつか、許してね。
頬をつたう涙に気付いて、手で拭う。
「帰ろうか」
こうちゃんが優しく言った。
「そうだね」
私は最後にもう一度窓の外を見た。
そこに、ゆうくんはいる。


つくえのひきだし