父とともに

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2.不安

わたしはそのころ職場の異動があり、新しい部署で何をどう手をつけていったらよいのかわからず悩んでいました。自分の力の足りなさを感じて家に手紙を書いたりしていました。
ある日曜日、外出して家に帰ると何件かの無言の留守電が入っていました。ナンバーディスプレイの着信記録を見ると留守電の他にも10分おきくらいに非通知で電話がかかってきていました。少し気味が悪くなったのですが後で母から電話があり、父がわたしの手紙に返事を書いたけれど読んだかどうかと何度も電話をかけたのだそうです。『夜まで帰ってこないなんていったい何をしているんだ』と嘆いていたという話でした。父はそんなにしつこいことをする人ではないはずなのに、わたしはどんどん不安になっていきました。
父の行動は積極的になり、弟に小さなゲームを買って送ったり(もう子どもじゃないのに!)、私小説のようなものを書き出したり、同窓生の行方を探したりと人が変わったように元気に動き回っていました。朝2時か3時になると起きだしてとなりの部屋でごそごそするので母はよく眠れず疲れ果てていました。
また仕事をやめて韓国語の学校へ行くという計画を立てたりしていました。(これはかなり本気だったようです。)
その年のお盆休みはせわしなくて私はあまり実家へ帰る時間がとれず、ほんの数日帰ったのですが、父は物置から見つけてきたプラレール(鉄道のプラモデルの模型)を部屋中に並べて見せたり、つねにテンションの高い状態でした。機嫌がよくて楽しそうに見えるのですが、並べたレールをほったらかして別のことを始めたり、すぐに気がそれてしまいます。テレビを見ると何がおかしいのかわからないところでいちいち大きな声で笑います。普段とちがうことがはっきりわかりました。母は「もうがまんできない。」と疲れ切っていました。
札幌へ戻って間もなく、飲み会があって遅く帰ると留守電が入っていました。『お父さんが書き置きを置いてどこかへ行ってしまった。』という母からの伝言でした。家に電話をすると、母が出て、父は近くのスナックへ行っていてさっき帰ってきたと話してくれました。「今お風呂に入っているから…。もう何かが起きても自信がない。」母のことばにわたしは心の底から不安を感じました。底のない穴に落ちていくような気持ちでした。電話を切ってから涙があふれました。お酒で酔っていたのと涙とで何がなんだかわからない状態になり、ロフトの階段を踏み外して転がり落ちてしまいました。
転がり落ちたときに猫のトイレに突っ込んで、トイレを壊しました。大きなけがはなく、あちこちぶつけて後でひどい見た目になりましたが、そのときは体の痛さよりも心の痛みががまんできないほどでした。

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