テレビの前でお買い物
人が聞いたら、あきれられそうなのですが、我が家では、ほとんど一日テレビがつけっぱなしです。ちびくまは朝一番にテレビをつけ、テレビをつけたまま眠ろうとします。リモコンの操作も、チャンネル番号も(CATVなので、100チャンネル近くあるのですが)もうバッチリです。
ちびくまが生後1ヶ月の時、我が家は阪神大震災を体験しました。幸い、食器の大部分が壊れた以外、大きな被害はなかったのですが、真っ暗闇の中で遠心分離機にかけられたような、あの恐怖感は長い間忘れることができず、私は震災後半年ほど、寝る時も電気はつけっぱなし、パジャマにも着替えず、トイレにもかならずちびくまを抱いて行きました起きている間は人の声がしていないと怖いので、いつもテレビかラジオがつけっぱなし。ちびくまが自閉症ではないか、と疑い始めた頃、ある本に「お母さんの精神状態が不安定で、子供が十分甘えられなかったり、テレビをつけっぱなしにしていたりすると、子供が自閉症になる」と書いてあるのを(ちなみにこれらはまったく事実に反しています。こういう本が無批判に育児書として売られているのが怖いです)読んで、ああやっぱり、と自分を責めたものでした。
その頃の刷り込みがあるのか、はたまた他の理由があるのか、とにかくちびくまはテレビの音がしていないと、なんとなく落着かないようなのです。じっと見ているというわけではなく、BGMのようにつけておいて、自分の好きな物が出てくると喜んで、その言葉を繰り返して言ったり、言葉をプラスチックの文字で綴ったり、歌やメロディをくちずさんだり、という感じなのですが。そして、普通のマンガとか、幼児向き番組ではなく、ニュース専門チャンネルかショッピング専門チャンネル、あるいは地域情報のチャンネル、テレビガイドチャンネルを見たがるのです。これらのチャンネルに共通しているのは、出てくる人や構成パターンがいつも決まっていて、同じ事を何回も繰り返すこと。そして、文字や数字の情報が多く、人物が出てくる場合も、こちらに語り掛けるように、まっすぐ前を見て話していることでしょう。テレビのチャンネルひとつとってみても、自閉症児にインプットされやすい情報の形がよくわかります。
それはさておき、高いCATV代を払いながら、30分ごとに繰り返されるローカルニュースを一日中見せられたのでは、親の方はたまりません。それで、ちびくまが喜び、親も見てそこそこ楽しい、という理由で、最近はTVショッピングの専門チャンネルを選ぶことが増えました。
このチャンネルでは、なんと24時間生放送でTVショッピングをしているのです。商品も化粧品、アクセサリー、衣類、リネンや寝具類、ちょっとした家具や電化製品まで、バラエティーに富んでいます。最初このチャンネルを知った頃は、「こんなチャンネル、見る人がいるのかしら?」と思いました。でも、アメリカおそるべし。このチャンネルでは毎日“Today's Special Value"といって、日替わりの特売品を用意しているのですが、これだけで1日の間に数万個、金額にして数億円を売り上げてしまうのです。他にも商品はいろいろある訳ですから、日商は十億から十数億というところでしょう。動くカタログ販売みたいなものですが、なんともスゴイ。もっとも、衣類の感覚だけは、どうしてもついていけないものがあります。なんであんなのがバカ売れするんだろう?(笑)
ここにでてくるホスト・ホステスというのは、もと全国ネット局のアナウンサーや、デパートの敏腕営業など、あまり美人すぎず、ハンサムすぎず、親しみやすい感じの人を選んでいるようです。語り口も友達が「ねーねー、これ見てー。いいでしょー♪」と自慢するような感じで、日本のテレビショッピングのようなわざとらしさはかなり緩和されています。
おもしろいなー、と思うのは、この番組放映中に、視聴者の電話を受けるコーナーがあるのです。電話をかけてくるのは、今紹介している商品を過去に買ったことがある人か、これから買おうという人で、どうしてこの商品が欲しいのか、実際使ってみてどういいか、といったことを語ることになっているのですが、実際はなんとなく、ホストやホステスのファンがかけてきている、という感じの会話になるのです。「まあ、ジュディ、あなたとお話できるなんて夢のようだわ」「メアリー・べス、あなたがホステスの時はいつも見ているわ」といったあたりから、「リン、あなたって本当にすばらしい人ね!(どうしてTVで物をうってるだけで人柄がわかるのよ(笑))」「あなたは私のアイドルよ」といった熱烈ファンタイプまで、でも、みーんなファン倶楽部、という感じが、とってもやらせっぽい感じで笑えます。本当にやらせでないのか、確かめてみたいものです(笑)。商品そのものよりホスト・ホステス、というのは、商品が女性用のアクセサリーとかでも、男性ホストが紹介し、甘いマスクのそのホストがこちらに(カメラに)向かってニッコリと微笑むたびに、「今日の販売数」のカウンターがカタカタッと増えるところでもわかります。
でも、この電話に興味を持って聞き出して、気付いたことがあります。この電話をかけている人の9割以上が、お年寄りなのです。日本と比べて、子供の親離れが早くて確固たるものであるアメリカ。3世代同居とか、2世帯住宅とか、アメリカではほとんど考えられないでしょう。親は親、子は子、クリスマスなどには家族が集まるけれど、普段は老夫婦だけ、または1人ぼっちの暮らしです。いわゆる老人ホームの数もたくさんあります。車がなければ何もできないようなこの国で、年老いて運転もままならなくなった人たちは、コミュニティが用意してくれる老人専用バスに乗り、老人クラブへ通い、ダンスや趣味の習い事をしています。そして、テレビの前で、こちらをむいて話しかけてくれるホスト・ホステスにうんうん、とうなずきながら、息子や娘、孫たちへのバースデイ・プレゼントやクリスマスプレゼントを買っているのでしょう。毎日会う、おなじみのホスト・ホステスは、この人たちにとって、息子や娘の代わりとも言えるのかもしれません。電話がつながったはいいけど、延々話をしようとして、途中で切られてしまう人もいます。
現在、かつてなかったほどの繁栄を誇るアメリカ経済。日本のバブル時代のように、雇用は膨れ上がり、賃金がどんどん上がり、土地や家の値段が暴騰し、株成り金・土地成り金がどんどん増えています。この上昇気流のようなアメリカの気運の中で烽條\分あって、一日テレビの前でお買い物をし、ホスト・ホステスと話がしたくて、電話をかけるお年寄りたち。なんだかちょっと寂しげな光景です。
自由な時間もお金もない、ビンボー人の我が家でも、今日もTVショッピングがついています。「見てください、この指輪。ゴージャスでしょう?今度の結婚式にこれをしていったら、花嫁さんより目立っちゃうかもね♪」にっこり笑うホステスを尻目に、アイテムナンバーをプラスチックの文字で書いて、満足顔のちびくまです。注文用の電話番号だって、もうばっちり覚えています。だけど、家の外でチャンネル名を連呼したり、テーマソングをしっかり歌うのはやめてくれぇ。知らない人が聞いたら、私だって思われるじゃないの。「障害児を持って孤独なお母さんが、テレビショッピングに…」って。
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