ちびくま、東京へ行く。(その2) |
出発は音楽会の翌週にして、ちびくまに対しては「音楽会を頑張ったご褒美」ということにしようと決めました。 メインのピューロランドへは土日の混雑を避けて、学校を一日お休みして平日に行ったほうが良さそうです。夜行バスなので、朝東京に着いてピューロランドに行って、その夜のバスで帰ってくる、という強行軍も可能なのですが、それではたぶん私も息子も体力的にかなりきついし、初めての、しかも慣れていない人が常にそばにいる、というストレスにさらされる旅行先では、2人きりでくつろぐ時間が、ちびくまのためにはどうしても必要です。また、ショーが中心のピューロランドは、ちびくまがイメージしている「遊園地」とはかなり勝手が違いそうです。もし楽しめなかったときに、そのまま帰るのでは息子のなかに「失敗体験」が残ってしまいます。そこで、もう1箇所、ちびくまがイメージしているであろう「遊園地」へ行くことを計画に加えました。 こうしたことを全て考慮に入れると、11月24日木曜日の夜に出発、25日の朝東京に着いて、ピューロランドへ行き、現地で1泊、翌26日は別の遊園地で1日過ごしてから夜東京を発ち、27日日曜日の朝に神戸に帰ってくる、という日程ができあがりました。 さっそくバス会社に電話を入れて、座席を予約します。「知的障碍のある子どもと一緒に乗るので、他のお客さんのご迷惑にならない座席を」と相談すると、バス会社の人は最後部の窓側の席を勧めてくれました。そういえば、ちびくまは路線バスに乗ったときも最後部の窓際を好んで座ります。それで、お勧めどおりの席を取ってもらいました。 次にホテル探し。人の決して多くない、こじんまりした静かなホテル。子連れで泊まっても安心な立地と雰囲気。駅に近い。近くにコンビニやファーストフード、ファミレスなどがある。でもって料金がリーズナブルなところ。部屋は少し狭いくらいのほうが、ちびくまは落ち着きそうです。 インターネットで検索をかけると、希望の条件を全て満たすビジネスホテルがピューロランドから鉄道1本12分ほどの駅前に見つかりました。しかも、シングルルームのスペースにダブルベッドのある部屋、というお得な宿泊プランがありましたので、迷わずこれをネット予約でゲット。 さらに調べると、このホテルのある駅から1駅先に、多摩テックという遊園地があることがわかりました。ここはホンダ・鈴鹿サーキットの系列で、ゴーカート系の乗り物が多く、対象年齢は若干低め。ちびくまにはぴったりです。2つ目の遊園地はこれで決まりました。 あとは、東京に着いた朝、ラッシュに巻き込まれないようにピューロランドへ向かうことが必要です。これも、着いてすぐに京王線に乗ればなんとかクリアできそうです。しかも、ピューロランドの近くには、朝6時半から開いているマクドナルドの店舗が複数あることがわかりました。当日の朝食はこれで決まり。 インターネットのおかげで、自宅のリビングに座ったままで、これだけのアウトラインができあがりました。 |
さて、ここまで固まった段階で、ちびくまに「運動会をとても頑張ったし、音楽会の練習も頑張っているので、ご褒美にピューロランドへ行きましょう」という話をしました。もちろん、ちびくまは大喜び。その日から、私の顔を見るたびに、と言っていいほど、「おかあさん、ちびくまくんはがんばったごほうびにとうきょうへつれていってもらうんだね。24にちしゅっぱつだね。ピューロランドいくね」という念押しが始まりました。 自閉っ子に安定した気持ちで何かにトライしてもらうには、事前に見通しが立つように準備することが欠かせません。学校の遠足では、先生たちが事前にタイムスケジュールを入れた「しおり」を作ってくれていますが、これは下見に基づいたもの。私が事前に現地に下見に出かけて行くわけにはいきません。最初に詳細なスケジュールを示してしまうと、時刻にこだわりのあるちびくまにとっては、却って「変更」を伴うストレスの多いものになってしまいそうです。そこで、最初は全体の大きな流れを示し、その後1日ごとの流れを示し、その次は半日ごとのスケジュールを、というように、徐々に確実になった分だけのスケジュールを彼に提示することにしました。 ただ、宿泊先のホテルや、訪ねる予定の遊園地、朝マックのメニューなどは、事前にインターネットのサイトで写真を見せて視覚的にイメージしやすいようにしておきました。ちびくまは視覚記憶と聴覚記憶がいずれも抜群なので、一度見せておけばカードなどを作る必要はほとんどありません。 また、ちびくまは、道に迷った、入れると思っていたお店に入れなかった、などのハプニングをとても嫌います。そこで、地図サイトから目的地周辺の地図をダウンロードし、電車やバスの時刻表なども可能な限りネット上でチェックしておきました。たとえ初めて行く場所でも、母である私は、ちゃんと道をわかっていて、迷うことなく息子を導く必要があります。ちびくまのような記憶力を持たない私は、必要な情報をプリントアウトして、必要なものについては試験勉強よろしく頭に叩き込みました。 |
昼間の交通手段を使うのであれば、これで準備完了と言っていいと思うのですが、今回の場合は夜行バスを使う、という大きなステップが残っていました。 バスが走っているときに席を立ったりしない、大声を出したりしない、というのは、バス使用歴の長いちびくまにはしっかり身についています。しかし、昼間であれば許容されるであろう、ちびくまの無邪気な小声でのひとりごとや拍手なども、夜行バスでは大迷惑・トラブルの元にになる可能性があるといくことです。 このことについては、「夜のバスに乗るためにお約束」として、何度も息子に話をしました。 夜行バスは、次の日お仕事に行く人が乗るものであること。 だから、電気が消えたら、他のお客さんはみんなすぐに眠っていること。 だから、夜行バスの中では、声を出したりせずに、ずっと静かにしていなくてはいけない。しゃべるひとは他のお客さんの邪魔になるので、降りなければならないこと。 窓から外を見てもいいけれども、カーテンを完全に開けずに、少しだけあけて、隙間からそっと見なければいけない。楽しいものを見ても、声を出して笑ったり、お母さんを呼んではいけない。 ちびくまは、神妙にその注意を聞いていました。 「どう?お約束を守って、夜のバスに乗れるかな?それともやめとく?」との私の問いに、息子は 「ちびくまくん、しずかにできる。おやくそくをまもります」ときっぱり答えました。 |