ちびくま、東京へ行く。(その3) |
さて、いよいよ出発の日がやってきました。ちびくまは朝からわくわくそわそわ。学校へ行く前から「おかあさん、きょうのばん、とうきょうへしゅっぱつ?」を 何度も繰り返していました。 いつもどおりの時間に帰ってきた息子と、夕食の買い物をして、いつもどおりの時間に夕食を食べます。興奮して食事がおろそかにならないように、夕食のメニューはちびくまの大好物のハヤシライスにしました。「おかあさん、なんじしゅっぱつ?こうべからプリンセスロードにのるんだね?」と何度も確認しながらも、私の狙い通り、しっかり夕食を食べてくれました。 さて、いよいよ、自宅を出発。荷物は一まとめにして、小型のキャリーバックに詰め、貴重品だけは小脇に抱えられるショルダーに入れました。念のために持っていく息子の紙おむつはリュックに入れて本人に背負ってもらいます。 自宅から徒歩5分のバス停から、神戸行きの最終の高速バスに乗り込みました。お客さんはまばらでしたが、ちびくまは迷わず最後尾の窓側の席を選んで座りました。夜行バスの座席選びはあたりだったかも。 神戸到着は予定通りの10時25分。夜行バスはここから11時に出るので、約30分の待ち時間があります。待合室に入ると、会社から直行してきた夫が見送りに来ていました。夫にしばらくちびくまを見ていてもらうことにして、私は近くのスーパーで車中でちびくまに飲ませるお茶や、自分のためののど飴などを買いました。シアトルへ行くときも日本に帰るときも、飛行機の中で7時間一睡もできなかった経験から、ナイトキャップとして缶チューハイも1本。 バス待合室に帰ると、まもなく、私たちの乗る夜行バスがやってきました。既に何度も自分の乗るバスをインターネットで確かめていたちびくまは、「おかあさん、バスがきたよ!ちびくまくん、あれにのるんだね!」と大興奮。 「そうだね。でも、ちびくまくん、あのバスに乗るためのお約束があったね。覚えているかな?」と訊くと、 「おぼえてる。バスにのったらしずかにします。しゃべってはいけません」 「良く出来ました。じゃあ、お約束を守ってバスに乗ろうね」 「はい」 乗車準備完了の表示が出るまで、ちびくまはずっとバス乗り場に通じる自動ドアの前でうろうろしながら待ち続け、表示が出るなり、 「おかあさん、もうでたよ!バスにのろう!おとうさん、いってきまーす!!」 夫に元気良く手を振り、私と一緒に夜行バスに乗り込みました。 座席には少し余裕があって、幸いちびくまの前は空席になっていました。 ちびくまはすぐに指定された席に座り、シートベルトをします。 「このまま、ねんねするんだね」 「そうよ。ねんねしてしまってもいいように、少しお席を倒しておこうね。ほら、ベッドみたいでしょう。毛布もかけておいてね」 「はい。おそとみてもいい?」 「いいよ、でも静かに見てね」 「はい、おやくそくです」 そうこうするうちに、いよいよバスが動き出しました。 「わあ〜」と小さく歓声を上げたちびくま、はっとしたように私の顔を伺います。 「まだ大丈夫。でも、もうすぐ電気が消えるから、そうしたら静かにしましょうね」 「はい」 最初に、車内の説明のビデオが流れます。ちびくまは、食い入るようにそのビデオを見ていました。ビデオが終わると、すぐに消灯です。 ちびくまはカーテンを少し開けて、静かに外の景色を見ていました。もう高速に入っていますし夜なので何が見えるわけでもないのですが、ちびくまには楽しい景色なのでしょう。私はヘッドホンで音楽を聴きながら、チューハイをすすり、息子の様子を眺めていました。 時々息子は私のほうを振り返ってにっこり笑ったり、ヘッドホンを指差して、目顔で「なにきいてるの?」と訊いたりしていましたが、最初の約束どおり、ごそごそ動いたり、声を出したりはしませんでした。そして、そのうち、窓のほうに顔を向けたまま眠ってしまいました。 私は息子に毛布をかけなおしてから、缶チューハイを飲み干すと、シートにもたれて目を閉じました。シアトルに行くときも、帰るときも、私が一睡もできなかったのは、ひとつには息子から目を離すことができないと気を張っていたからだということに気がつきました。今、隣の席で、静かに寝息を立てている息子。よくもここまで育ってくれたものだ。そんな感慨に浸っているうちに、いつしか私も眠りに落ちていきました。 |