ちびくま、東京へ行く。(その4)

第2日(11月25日)

「みなさん、おはようございます」
運転手さんのアナウンスで目が覚めました。
「長時間のご乗車、お疲れ様でした。このバスは、まもなく渋谷に到着いたします」
ちびくまは、と見ると、今目を覚ましたのか、それとももう少し前から起きていたのか、窓の外を眺めています。まだ夜明け前、薄明かりの中、静まり返った東京の町並みが見えました。

「おはよう。もうすぐ着くよ。降りる用意しようね」
「おかあさん、もうしゃべってもいい?」
「うん、いいよ。夜の間静かにできて、おりこうだったね」

バスは予定よりも早く、6時すぎに渋谷マークシティに着きました。トランクに預けていた荷物を受け取って、エレベーターで階下へ降ります。目指す京王線の駅はこのビルの真下です。ところが、到着が早すぎて、駅への入り口にはシャッターが降りていました。通りかかった人に、反対側の入り口を教えてもらって、とりあえず駅にたどり着きます。

京王井の頭線に乗って、明大前で乗り換え、さらに調布で乗り換えて、多摩センターへ向かいます。時間が比較的早いのと、下りなのもあって、調布までは座っていくことができました。駅や車内で、すばやく目的の駅までの停車駅数を数えて、ちびくまに予告します。正確な時間はわからなくても、「いくつめの駅で降りる(または乗り換える)とわかっていれば、初めて乗る路線でも、落ち着いていられるのです。ちびくまは、車内に表示されるローマ字の駅名を読んで、楽しんでいました。

最後の方は少し混み合ってきてはいましたが、無事朝のラッシュに巻き込まれずに多摩センター駅に到着。駅を降りて、頭の中に叩き込んだ地図と相談しながらピューロランド方面へ歩きます。朝食をとろうと計画していたマクドナルドのお店はすぐに見つかりました。その向こうに、ピューロランドも見えています。

ちびくま、朝マックは初めてですが、メニューはあらかじめネットで見せてあったので、ちびくまの注文はすぐに決まりました。
「おかあさんが持っていくから、ちびくまくんは先にテーブルに座ってて」
「はーい」

オーダーを受け取って、店の奥に入っていくと、ちびくまが空いたテーブルに座り、コートを脱いで待ち構えていました。ハッシュポテトを見て、「おかあさん、これなあに?」「じゃがいもで作った、ケーキみたいなもんだよ。食べてごらん」
「ふーん」「お味はどう?」「おいしいです」
寝不足でぼんやりした頭と体に、熱いコーヒーがしみわたる感じです。ピューロランドの開園まではまだ1時間以上もあります。コーヒーをおかわりして、夫や障担に無事到着のメールを送ります。

ところが、ピューロランドを見て、もう待ちきれない息子。「おかあさん、もういきましょう」「ちびくまくんは、ピューロランドにいきたいです」「もういきます」
ついに根負けして、まだ大分早いのに、店を出ました。

途中で、道の右側にそびえ立つ大きなビルに気がついたちびくま。
「おかあさん、べ*ッセのビルがあるよ!」べ*ッセのCMが大好きな彼は、社屋に書かれたロゴを見ただけで大喜びです。さっそくロビーの近くまで行って、しげしげと出勤してくる人々がビルに吸い込まれていくのを眺めていました。その間に、私は事前にダウンロードしておいたショーのスケジュールを見て、ピューロランドでの動き方を頭の中でシュミレーション。

ピューロランドへは、もちろんその日の1番乗り。チケットも、発売開始からほどなく買うことができました。平日の朝なのに、開園間近になると、かなりの行列ができたのにはびっくりしましたが、ともあれ、開園と同時に入園することができました。
ピューロランドにて(前編)

まず、コインロッカーに、手荷物とコートを預けます。ところが、ここで予想外のことが起きました。
「もう、ピューロランドいやだ。もうかえります」
突然ちびくまがこう言い出したのです。

ちょっとまってえ〜。
今、ン千円のチケット買って入ったばかりでしょ〜。
内心、あせりまくる私。

そこは、できるだけ平静を装って、「え〜、せっかく来たのに、もう帰るの〜?キティちゃんも、ばつ丸もいるんだよ〜」
「キティちゃん、みない。ばつまるもみない。もうかえる」
「じゃあ、ボートだけは乗ろうよ」

ピューロランドには、1つだけのりもの系があります。TDLのイッツ・ア・スモール・ワールドのサンリオ版という感じです。事前の調べで、これだけはちびくまが喜ぶだろうとあたりをつけてありました。開園直後なので、全く並ぶことなく乗ることができました。

予想どおり、ちびくまは大喜び。乗っている間はニコニコ顔でした。でも、降りるとやっぱり「もう帰る」。ひええぇ、まじ〜?

「そっか〜。でも、お母さんは、コンサートが見たいんだ〜。1つだけでもいいから、一緒に見てくれる?」とりあえず、1番に見ようと思っていたショーの劇場へ連れて行きました。でもやっぱり「もういやだ。帰る。これ見ない」しょうがないなあ。これ以上は無理かも。とりあえず、一度劇場から出て、園内の他のところをぐるっと見て回ります。ひととおり見て帰ってくると、ちょうどショーが始まるところでした。「ちびくまくん、行こう!」半ば強引に息子の手を引いて、劇場へ入ります。

入るとすぐに、ショーが始まりました。「いやだ、いやだ」と言いながら、しぶしぶ付いて来たちびくまですが、オープニングの歌と踊りを見て、少し表情がゆるんだのがわかりました。もともと、「おかあさんといっしょ」のコンサートなどをTVで見るのは大好きなのです。お話が進んでいくうちに、大好きなキャラクターが出てくると、にっこり、いつもの笑顔が出ました。これなら、なんとかなりそうです。

ピューロランドにて(後編)

このショーが終わるときには、ちびくまはニコニコして拍手もしていました。
「コンサート、どうだった?」「おもしろかったよ」「じゃあ、もう1つ見に行こうか。今度はキティちゃんのコンサートだよ」「みにいきます」やたっっ!
こうして、2つ目に狙っていたショーは、全く問題なく見ることができました。

やはり、事前に私が心配したとおり、ちびくまがイメージしていた「遊園地」と実際のピューロランドはずいぶん違っていたのでしょう。それで、混乱して、「もう帰る」と言い出したもののようです。簡単にあきらめないで良かった。2つのショーを見た後は、息子も、ピューロランドがどういう場所なのか、理解できたようで、「もう帰る」とは言わなくなりました。

2つ目のショーが終わったところで、館内のレストランに移動して食事。ちびくまは写真入りのメニューを見て、カレーライスを選びました。彼はカレーライスが大好物なので、外食してもたいていはそれで乗り切れます。昼食を食べながら、午後見る予定のショーを確認します。

ショーの合間にはまたボートライドに乗ったり、障級の友達へのお土産を買ったりして、ついに、予定していたショーを全て見ることができました。

あらかじめ予告していたとおり、4時過ぎにピューロランドを出発しました。

「おかあさん、ピューロランド、たのしかったねえ。またこようね」
「おかあさん、べ*ッセのビルもみられて、よかったねえ」
ご機嫌なちびくまと一緒に、暗くなり始めた街を彩るきれいなイルミネーションを楽しみながら、多摩モノレールの駅に向かいます。

電車やバスが大好きなちびくまのために、できるだけ色々な路線に乗れるようにプランニングしてあるのです。目指すホテルは、モノレールの某駅前。
ちびくまは車窓から、暮れなずむ街の景色を楽しんでいました。
ホテル到着

目的地に着くと、ホテルまでは徒歩3分です。駅周辺の目印を頭に入れておいたおかげで、場所はすぐわかりました。途中、駅ビルに入っている飲食店の看板と、あらかじめ地図で調べておいたファーストフードの店の位置をすばやくチェック。コンビニでペットボトルのお茶を買って、ホテルに着いたのは、ちょうど予定のチェックイン時刻でした。

部屋は4階の一番端。お世辞にも豪華ではありませんが、こじんまりしたアットホームな雰囲気で、静かで清潔。タバコのにおいもしません。「女性一人でも安心してお泊りいただけるビジネスホテル」というネットの宣伝文句に偽りはなさそうです。シングルルームにダブルベッドのある部屋は、私たち親子にはちょうどいい広さ(狭さ?)でした。

ちびくまは早速コートを脱ぎ、靴も脱いで、ベッドの上に寝転がります。
「テレビつけていい?」「いいよ」
いつも家で見ているN*K教育をつけて、すっかりくつろいだムードのちびくま。
「おかあさん、ばんごはんはなんじから?どこでたべるの?」
「そうだねえ。この番組が終わったら出発しようか。ハンバーグと、フライドチキンと、おうどんと、ピザがあるけど、どれにする?」
「えーとねえ。ちびくまくんはピザにします」

駅ビルにファミレス風のイタリアンがあるのはチェック済み。今日の夕食はそこに決定です。息子はピザ、私はスパゲッティにしました。
食後は1Fにあるスーパーで、息子の夜食におにぎりとお茶、私用に焼き鳥とチューハイを買ってホテルに帰ります。

お風呂には私が先に入りました。狭いユニットバスでも、夜行バスの疲れが残る体には極楽です。息子にとってはユニットバスは初体験。「お湯が飛ばないようにカーテンを閉めてシャワーを浴びる」ことを教え、いつものように、シャンプーと体洗いは服を着たまま手伝います。石鹸を流したあと、湯船にお湯をためて、浸からせて完了。

お風呂上りは、持参したパジャマに着替え、ベッドを汚さないようにレジャーシートをひいて、さきほどスーパーで買ってきた食べ物を広げます。ペットボトルと缶チューハイで「かんぱーい」して、TVを見ながらゆっくりくつろぎます。

さきほどピザを1枚、1人でぺろりと平らげた息子ですが、おにぎりもしっかり食べました。「おかあさん、バス、たのしかったねえ。ピューロランドもたのしかったねえ。あしたはゆうえんちにいくんだよね。あさ、なんじしゅっぱつ?」

「何時に出発するかは、明日の朝ごはんを食べながら考えようね。じゃあ、明日は遊園地でいっぱい遊ばないといけないから、今日は早く寝ましょう」
目覚ましは相談して7時にかけました。ちびくまのいつもの就寝時間よりは大分早かったのですが、疲れていたのでしょう、ちびくまも、そして私も、あっという間に眠ってしまったのでした。



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