ちびくま、東京へ行く。(その5) |
ピピピピピ・・・・ 目覚まし時計の音で目が覚めました。同じベッドで抱き合うようにして眠っていた息子も目を覚まし、私の顔を見てにっこり笑います。 「おはよう。よくねんねしたね」 「おかあさん、きょうはゆうえんちいく?なんじしゅっぱつ?」 「うん、遊園地行くよ。何時に出発するかは、朝ごはん食べながら考えよっか。ちびくまくん、朝ごはんは、どれがいいですか。 1番 レストランへ食べに行く。 2番 コンビニでパンかおにぎりを買ってきて、ここで食べる。 3番 マクドナルドへ行く。」 息子はちょっと考え込んで、「2ばん」と答え、少し間をおいて、「やっぱり3ばんにする。マクドナルドいく」と答えました。2日連続朝マックか〜。ま、いいや。 ホテルを出るとすぐマクドナルドです。駅に近いためか、日曜の朝なのに結構混み合っていました。ちびくまのオーダーは昨日と同じ、でもドリンクだけは変えていました。その日その時の気分や好みで選択の幅を広げられるようになってきている証拠かもしれません。 私はコーヒーを、ちびくまはりんごジュースをお代わりして、ゆっくり朝食を楽しみ、一旦ホテルへ戻ります。ちびくまは、テレビをつけて、いつも土曜の朝見ている番組を見始めました。その番組が終わったら、出発しようということに決めました。 「チェックアウト」をちびくまは「ホテルの人にありがとうとさようならを言うこと」と解釈したようです。私が精算をしてもらっている間、横に立って、「ありがとうございました〜」と繰り返していたので、ホテルのおばさんから「こちらこそ、ありがとうございました」と返事してもらって嬉しそうでした。 ホテルから駅へ向かいます。 「お母さんは切符を買ってくるから、ここで待ってて」 「バスとタクシーみててもいい?」 「いいよ、でもここにいてね」 「はい」 こういうことができるようになったので、随分楽になりました。 1年生の頃から、少しずつ、1分、2分と小刻みに「その場で待つ」ことを教えてきて良かったなあと思います。 |
京王線に乗って、多摩動物園駅へ向かいます。駅を降りると、同じ建物のウインドウにプラレールが沢山並んでいます。思わずそちらへ吸い寄せられる息子をせかして、遊園地行きのバスに乗り込みました。 程なく、遊園地のゲート前に着きます。あらかじめネットでダウンロードしていた割引券を使って、少し安く、1日のりもの乗り放題のチケットを買います。振り向くと、遊園地のマスコットの着ぐるみが、息子の頭をなでてくれていました。私がチケットを買っている間、一人で後ろで待っていたので、気をつかってくれたのでしょう。でも、固まっている息子。私が近づいていくと、着ぐるみさんは息子にバイバイをして他の子どもの方に行きましたが、その途端、息子が「あ〜、こわかった〜」(笑) 学校のクリスマス会で先生が着る着ぐるみは平気ですが、中に誰が入っているかわからない着ぐるみは怖いのかもしれません。そういえば、昨日もキティちゃんにハグしてもらって凍っていましたっけ。 まだ開園間もないこともあってか、チケットもあまり並ばずに買え、中に入ってもまだ人はまばらでした。コインロッカーに荷物を預けて、さっそく乗り物に乗ります。 「どれにしようか」と息子に相談しながら、目に付いた乗り物に片っ端から乗っていきます。サイトを見て思っていたとおり、乗り物は息子のツボにはまるものが多く、息子は大喜びで乗っていました。 モノレール型バイクに電車、電気自動車、観覧車・・・補助輪なしの自転車に乗れる子ども限定のミニバイクコーナーと、唯一の絶叫系マシーンと、3年生以上でないと乗れない本格的なゴーカートを残して、他のアトラクションは全て昼までに制覇してしまいました。あとの3つは発達段階から考えてちびくまにはちょっと無理かなあ、と考えたのですが、幸い、息子もそれらに乗りたいとは言いませんでした。 お昼時になる頃には、遊園地もだいぶ混み合ってきていて、どのアトラクションにも長い列が出来始めていました。ここで一度休憩、昼食をとることにします。 パンフレットの写真とメニューを見せると、ちびくまは野外のテラスで食べるセルフサービスのレストランを選びました。晩秋とはいえ、よく晴れた温かい日なので、テラス席でも快適そうです。選んだメニューはやはりカレーライス。 空いたテーブルに座って待っていてもらって、私は列に並びます。ちびくまのカレーが先にできたので、一度テーブルまで持って行き、「先に食べていていいよ」と言って、もう一度窓口へ。やっとできあがったラーメンを持ってテーブルに行くと、息子はもう食べ終わっていました。 「おかあさんのラーメン、おいしそうだねえ」というちびくまに、 「少しわけてあげようか?」と言うと、嬉しそうに 「すこしわけてあげる〜」(やはり「あげる」と「もらう」を間違ってますね) ちびくま、体格としてはかなり小粒で、5年生の今も3年生の大きい子と同じか若干負けているくらいなのだけど、食事はしっかり「食べ盛り」という量を食べるようになったなあ、と感心します。偏食のうえに食が細くて、「栄養が足りないんじゃないか」と心配したころもあったんですが。 さて、食事が終わったところで、この後の予定をちびくまと相談します。もう、目ぼしいアトラクションは乗りつくしてしまったので、私としてはこの後、場所を変えて、近くの動物園に行ったり、渋谷まで戻ってNHKスタジオパークや子どもの城へ行ってもいいんじゃないかと思っていました。ところが、ちびくまはがんとして「ゆうがたまでゆうえんちであそぶ」と言い張ります。 これは私の失敗でもありました。遊園地の混雑具合が予測できなかったので、「遊園地で遊んだ後、どこか他のところへ行く」と言っておくと、時間がなくて行けなかったときに「行けなかった」という思いが残るのではないか、と思い、今日の予定としては「遊園地で遊んだ後、電車に乗って渋谷へ行き、夕ご飯を食べた後バスに乗る」としか説明していなかったのです。息子にしたら、今になって「他のところへ行こう」と言われても、心の準備ができないのかもしれません。 どう説明しても、息子の意思が変わりそうにないので、これまでに乗ったアトラクションにもう1度ずつ乗っていくことにしました。ところが、朝のスイスイぶりとは打って変わって、どのアトラクションにも長い行列ができてしまっています。 他の多くの自閉っ子と同じく、ちびくまも行列に並ぶのは大嫌い。短めの列の時には、少しぐずぐず言いながらも一緒に並んでいることができましたが、人気のあるアトラクションの長い行列にはさすがにパニックを起こしそうになりました。その上、こういう場なので、小さな子ども、特にその泣き声やぐずぐず言う声、それを叱り付ける大人の声など、ちびくまが最も苦手とする刺激が山盛りです。そこで、「お母さんが見えるところにいること」と「お母さんが呼んだらすぐに来ること」を約束させて、外から行列に入れるぎりぎりのところに来るまで、ちびくまは列のそばで遊んでいてもいいことにしました。 以前なら、一人で他のところへふらふら行ってしまうのでこういうことはできませんでしたが、「大人のそばからある程度以上は離れないでいる」ということができるようになったので、可能になりました。学校で常に介助の先生が付いてくれていたり、ガイヘルさんとお出かけをしたりする経験から、「大人は自分を守ってくれ、望みをかなえてくれる存在」ということが理解できたことが大きいのではないかと思います。 自閉を知らない人の目には「普通の、やや落ち着きのない小学生」にしか見えないだろうちびくまにそういうことを許していると、「あんなに大きい子なのに甘やかしている」と思う人もいるかも知れないけど、息子はちゃんと頑張って待っているのですし、そのことを私はわかっているのだから、この際、他人の目は気にしないことにしました。 こうして、乗ろうと思っていたアトラクションをほとんどもう1度こなしたところで、ちょうど閉園15分前になりました。コインロッカーから荷物を出して、再び駅へ向かうバスに乗りました。今度は予定通りの行動なので、ちびくまも納得しており、スムーズです。 |
さて、バスで朝降りた駅に戻ると、ちびくまの目は、またプラレールのずらりと並んだウインドウにひき付けられました。朝は急いでいたので、ちびくまをせかしたのだけど、帰りはバスの発車する夜11時までに渋谷に着きさえすればいいので、十分余裕があります。ちびくまに「中も見ていいよ」と言うと、大喜びで建物の中に入っていきました。 建物正面の入り口には「京王レールランド」という看板が上がっています。ガラス張りの建物の中に入ってびっくり。でっかいジオラマが、スペースの半分ほどをしめています。子供サイズの、京王電鉄の制服・制帽があったり、売店で売られているものも、限定版のプラレール、Nゲージなど、電車グッズばかり。鉄道ファンなら、大喜びしそうなところです。鉄ちゃん(鉄道ファン)が多い自閉っ子の中にあって、少数派のバスマニアであるちびくまにとっても、さすがにこれはそそられる光景だったようで、ジオラマに張り付いてじっと見ていました。 ジオラマを管理しているのは、2人の青年。そのうちの1人は、お客さんに外から声をかけられてもにこっと笑うだけで特に返事を返しているふうでもなく、でも、うっとりとした顔で、熱心にジオラマのそこここを調整したり、電車を走らせたりしています。こんな仕事なら、誰よりも集中してできる、という人は、息子のお仲間にはきっと沢山いるだろうなあ、こんな職場が沢山あったらいいのになあ、などと思いながら見ていました。 息子に時刻表を示して、何分の電車に乗るか、決めさせることにします。意外なことに、電車を2本見送っただけで、3本目の電車に乗る、と言いました。息子は電車も好きだけれど、やはりバスターミナルでバスを見ているだけで数時間過ごせることを思えば、電車の比重は軽いのでしょう。 自分で乗る電車を決めたので、時刻になると、全く躊躇せず、「もういく。でんしゃのって、しぶやでバスにのる」と言って、私の先に立って歩き出し始めました。自分で納得できているときは、予定通りにきっちり動いてくれるのも、自閉っ子の長所です。高幡不動で乗り換えて、渋谷まで戻ることになりました。 |